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ギリシャにて-3


最後に扉が閉ざされてから、どれだけ経ったのか分からない店を見つけたことならあるぞ。
煤けた木の扉で、看板にはリングア≪古代文字≫で綴られた店の名前が書かれていた。
作りは典型的なグアエキアの骨董品商店の老舗といったふうで、
遍歴の騎士としては旅情に浸るいい材料になった。

ビュザンティオンに居たのは一週間に満たなかったし、
その間には日に日に高まる戦さの機運で
城下の雰囲気もピリピリしていた。そのせいでどうにもいたたまれなくなって
宿舎から外に出ることはあまりなかったから、帝国での数少ない思い出の場所になったんだよ。

最初に見つけた時には、窓には板が打ち付けてあったし、
扉にも錠が下ろされていたからな。
進入を試みて歩哨に見咎められるのも気が引けたから、
後ろ髪を引かれる思いでその場を立ち去った。
不思議なことに、その店のことは忘れてしまうどころか、
時間が経つごとに鮮明に頭をよぎるようになった。

何かのめぐり合わせか知らないが、
ふと思い立って人々が寝静まった頃合に店に行ってみることにした。
歩哨が点呼を採る声が遠くに聞こえていた。
都合がいい、おそらく道程で鉢合わせしてしまうこともないと思われた。
すると、なぜか店の中からは光が漏れていて、中には人の気配が感じられたんだ。

信じられなかった。店の中は、少なくとも百年は時を遡ったように清潔で、
カウンターには胡散臭い片眼鏡をつけた老人が腰を下ろしていたんだ。
商品はどれも貴重と思える品ばかりだった。
名工何某作のスパタ≪馬上剣≫、何某将軍の愛用したマント……

ただ、そういった名品の存在感にも増して、不気味な色彩を放つものがあったんだ。
目に留まる前から尋常ではない雰囲気が感じられたから、俺が見つけたというよりは、
それが俺に自分を見つけさせたといったほうがいいかもしれない。

30カラットのルージュの宝石はまさに女王と呼ぶに相応しかった。
いったい、どれだけの人々が彼女の虜になったのか、想像もつかなかったな。

〝それはおやめになったほうがよろしいかと〟

唐突に、片眼鏡の主人が言った。
何でも、初めて原石を採掘した男は鉱山の管理者に殺され、
その管理者も強欲な宝石商に殺され、
後には成りあがりの貴族、浪費癖の女王、高級娼婦……

幾度も持ち主を変え、そのつど前の持ち主の命を奪っているらしい。
もしも彼女が俺を支配したいと望めば、
俺はその静止を振り切り、もてる全ての財産を売り払ってでも
彼女を求めたと思うし、それと同時に鬼籍が予約されていたことだろう。

だが、幸いにも彼女は俺を値踏みして、支配するに値しないと思し召したらしい。
俺にはその時でさえ、緋色の女王よりも
ルクレツィア≪黒の女王≫のほうがより美しく思えたし、
クラウディアの微笑みは女王の怜悧な嘲笑よりも魅力的に思えたんだからな。