一杯茶-1
〝おい阮二、凄いな、こいつは〟
口元から離した碗をまじまじと見つめ、劉伶は目をぱちくりとさせました。
碗にたたえられた水色の澄んだ茶は波紋を生じ、浮かんだ一片の葉がかすかに揺らぎました。
〝この春摘んだ、とびきり上質の新芽だ。
伯倫、俺何も言わないから。どんな味がするか、ちょっと言ってみ〟
〝そうさなァ。一言で言うなら乳か。すっきりしてるが、後味は乳のそれだぜ〟
それを聞いた相手はからからと笑い、大きな目を細めて何度も頷きます。
〝それそれ、そうだろう。
これが分からなかったら、お前の顔も今度から見てやらないことにしようと思ってた〟
〝そりゃ酷いな、ご勘弁願いたいぜ。阮歩兵殿よ。俺はあんたと違って味にゃ疎いんだ〟
〝あははは。それにしても、これは凄いな。叔夜の言葉を借りれば…〟
阮籍はそこまで言うと、やや眉をひそめて表情を曇らせます。
〝其馨蘭如ってか?〟
その後を受けた劉伶は、阮籍の心境を察しながらも、そ知らぬ振りをして見せます。
最終更新:2009年01月02日 23:16