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其の五


春の野辺をさすらい、遠行の夫を思う妻が主人公の詩。
太康・元康文学によく見られる特徴としては、
景観を細やかに観察して、できるだけ細微に
情景を想像させようとしていることがある。

蘭蕙緑清渠
繁華蔭緑渚

該当箇所としては三句目、四句目。
広漠とした草原、やわらかな風に揺れる草花、それとともに立ち起こる芳香、
それを眺めて佇む婦人…
という、一コマの絵を浮かべることができる。
個人的には少しぼやけていて、どこかとても懐かしい気持ちが伴う。

七句目、八句目の鳥や虫は、生き別れの辛さに耐える主人公のたとえ、
主人公との対比、両方の役割を果たしているけど、
やはり西晋文学によく見られる動植物の描写を用いている。
(もちろん、全ての西晋文学にこのステレオタイプが当てはまるわけじゃないけど)

そして、最後の二句で〝今まであなたと離れたことがなかった私は、
どうしたらよいかわからない〟と切ない胸のうちを吐露して結んでいる。

観察の細かさ、悲しみの情を織り込んだ詩で、
上に挙げた鐘嶸の『詩品』の評にあてはまる典型的な作品といえる。

ちなみに、五句目、六句目の花を贈りたくとも贈れないという描写は、
古詩にいくつか見ることができる。

古詩十九首   無名氏

其六

渉江採芙蓉   江を渉りて芙蓉を採る
蘭沢多芳草   蘭沢 芳草多し
采之欲遺誰   之を采りて誰にか遺らんと欲する
所思在遠道   思ふ所は遠道に在り
還顧望旧郷   還顧して旧郷を望めば
長路漫浩浩   長路 漫として浩浩たり
同心而離居   同心にして離居せば
憂傷以終老   憂傷して以て終に老いん

其九

庭中有奇樹   庭中 奇樹有り
緑葉発華滋   緑葉 華滋を発く
攀条折其栄   条を攀ぢて其の栄を折り
将以遺所思   将に以て思ふ所に遺らんとす
馨香盈懐袖   馨香 懐袖に盈つれども
路遠莫致之   路 遠くして 之を致す莫し
此物何足貴   此の物 何ぞ貴ぶに足らんや
但感別経時   但 別れて時を経たるに感ずるのみ