殺丸の見る世界 アリテとの出会い

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 おいら達と別れた早津は一人、旅をしていた。  どこにあてがあるわけでもなく、以前のように武者修行でもなく。その旅は、誰かを探すような旅だった。  もう、死んだのに、もう会えることはないのに。また、会いたい。  懐に持っているのはただの皮袋であり、腰に挿してあった刀はカオスに砕かれてしまった。殺丸じゃない、普通の一人の若者、早津だ。  赤い髪をかきあげ、早津は途方もない道を歩いていた。すでに日本から遠く離れたヨーロッパの方。日本と違い、空気の味がどこか冷たい。排気ガスによって汚染された日本とはまるで違うところだ。暑いブラジルとも違う。  早津はここにある大聖堂に向かっていた。バチカンにある大聖堂、ここで亜璃の為に祈ろうと思っていた。 「わっ」  大聖堂の前、早津の背中から小さな声が聞こえた。 「ご、ごめんなさい」  早津はその姿を見て、全身から鳥肌が立った。 「亜璃? 何故……いや」  確かに、その子は亜璃に似ていた。だが、目の色、髪の色がまるで違う。ただ、似ていただけだった。 「どうしたの? あ、君は外国人だね。ようこそ、バチカン大聖堂へ」  黄金色の髪の毛が風に遊ばれ、雪のように白い肌が厚手のコートから少しだけ見えている。大人びた外見をしているが、その性格は明るく、やはり亜璃とは違うなと早津は少し微笑んだ。 「君はここの人かな? 良かったら案内してほしいんだけど」  早津の言葉に彼女は得意気に鼻を鳴らした。 「へへ、こう見えても私はここを守る聖騎士なのです!」  じゃじゃんと言って厚手のコートから出てきたのは立派な剣だった。早津が以前持っていた刀とは違い、叩ききる、突き刺すといったことに長けているような剣だ。 「大聖堂とは言っても、それはもう何百年も前の話。多分、君が思ってるような聖なる空間なんてないよ」  聖なるとか神とかを信じるような時代ではなかった。  だけど、人はどこかでそれを求めている。以前の早津だったら、神や仏様なんていったら馬鹿にして笑っていただろう。でも、大切な人がいなくなったとき、それがなかったら本当に寂しいし、何に救いを求めて生きていくのか分からない。どこかで亜璃はきっと幸せにしているはずだ。そんなものないと頭の中では分かってる。だけど、そうでも思わないと何を克てにしてよいのか分からないのだ。 「そっか、でもどこかに一番古い女神様の像でもあるだろ?」 「まあ、汚いけどね。女神様の像は常に外でこの世を見守るから風化によってぼろぼろだよ」 「かまわないよ」  彼女に連れてこられたのは、大聖堂から遠く離れた街中が一望できる丘の上だった。バチカンの町、世界で一番小さな国も以前のようなものではない。日本とは違って文明が進化を続けていったヨーロッパはまさに未来都市のよう。日本やブラジルとは違い、機械によって綺麗に区分けされた建物に、何も不自由がないような生活を送っている人、工場のような町並みだ。 「景色、全然綺麗じゃないな」 「景色っていうのは人が作るようなもんじゃないんだよね」 「ああ、綺麗に並んだものよりも、どこも対称にならない町並みの方がずっと綺麗だ」  隣で腰を降ろしている彼女は「そうだね」といい、苦笑した。 「でも、このマリア像にこの土でできた丘は健在。昔過ぎていつからあるのか分からないよ」  彼女がポンポンと手荒に叩いたのは人の形をしているのかどうかさえ分からない胴でできた像だった。青く錆び付いており、本来形のあったところは風化によって削られている。でも、それでよかった。これは、紛れもなく本物のマリア像だった。 「なあ、君の名前は?」 「アリテ・ジュリアス。外人さんは?」 「早津だ」  アリテか……名前まで似ている。  早津は像の前に跪き、目を瞑りそして両手を堅く握り閉め祈った。 ――どうか、女神様。どこかで亜璃が幸せでいるように。  手に冷たい感触があった。それでいて優しい温もり。 「大丈夫だよ、君の大切な人は幸せだった」  アリテの小さな呟くような声が耳を通っていった。

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