おいらの見る月夜 カオス

 暴力こそが、日本、いや世界を統べるもの。
 そう信じて疑わなかった。いや、正確には今も疑っていないはずだ。だけど、あの男を見るともしかして自分が今までやってきたことは遥か遠い幻想のようなものだったのではと思わずにはいられない。
 人の為に、あそこまで能力をあげることができる。
 そんなこと、ありえない。
 人の為に戦うのか。そんな人間がいるわけがない。
 男は監視カメラ越しに頭を抱えていた。
 いったい、何人の人間を葬り、町を破壊してきたのだろう。それは、自己の力を象徴し、日本を統べ、そしてやがて世界に進出するためだ。その為に必要なのは金と力。てっとりばやく金と力の両方を手に入れるには麻薬と武器。そもそも、不況によって働く人間のいない日本で真面目に事業を起こしても失敗するのは見えている。
 だから、そんなことははじめからしなかった。
 外国と手を組み、武器や麻薬を日本にばら撒く。ミッドナイト派に旧日本政府派。どこまでも荒み、職をなくし、路頭に迷う人間を生み出していった旧日本政府派に加勢する者などいまやどこにもおらず、ミッドナイトが日本を事実上統べていたのは確実。
 その方法は力。
 はむかう者を処分し、賛同するものを優遇する。それだけのことだ。日本政府など今や機能しておらず、外国との取引すらミッドナイトの重鎮が行っている。
 そこまで来て、この不安感は何だ。
 たった一人の外国人によってここまで上り詰めてきたものがまるでゴミのように感じてしまう。
 あの、外国人から感じる力。それは、もう幼いころに忘れていたものに似ていた。
 だけど、忘れよう。そして、またはじめよう。
 あの外国人を殺して、続けよう。今までやってきたことは正しいと、自ら証明すれば良い。
 犠牲がなければ、何も成功などしない。
 犠牲の上に、自らが頂点に立つ。
 それでいいはず。
 だけど、どこかで破滅を望んでいる自分がいた。

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最終更新:2009年02月16日 10:15
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