「良かったら、私の家に泊まっていきませんか?」
意気揚々にアリテは謎の旅人を家に誘ってきた。
「もちろん、家族はいるんだろうな?」
「ううん、ずっと昔に亡くなったよ」
早津は頭を悩ませた。ブラジルじゃあそういうような女もたくさんいた。闘技場で勝てば誘ってくる女達だ。だけど、ここはブラジルじゃない。あの聖都市である。
「あのな、俺みたいな怪しい男を一人ものの女が誘うってのは危険なんだぞ」
アリテはそんな早津を不思議そうに見て、そしてピンときたような顔をした。
「さては、私にエッチなことをしようと思ってるので?」
少し恥ずかしそうに胸を隠したアリテ。悪いようだが、そこまで魅力的な体には見えない。ブラジルでサンバを見てきたせいだろうか。
「思ってないよ、ただ忠告しただけだ。アリテが他にもこんな風に男を誘ったら危ないってね」
「違うよ」
後ろを向いた早津の手が握られた。
「私にもよく分からないけどね、早津は信頼できるってそう思ったの」
屈託のない笑顔の彼女を見て、早津は亜璃のことを思い出させずにはいられなかった。忘れようと思っても忘れられず、忘れることを諦めた彼女のこと。もうこうなったら一生ひきずって生きてやると決めた先に出会ったアリテ。
早津は嬉しさと同時に、迷いを感じていた。
最終更新:2009年03月02日 23:01