殺丸の見る世界 聖騎士になりたかった少女


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 アリテの言ったことが本当だと信じたのは、もちろん本物の魔物を見てからだった。二人で大聖堂に行こうとした際に偶然出くわしたのは歪な姿をした一匹の魔物だった。
「私に任せて旅人さん」
 アリテは肩にかけていた剣を抜き、それを両手で握った。聖なる剣、まさに神々しい輝きを見せるその剣は鋭く魔物に向けられていた。
「ぐひゃああああはははははは! あはははは!」
 人間のような顔をし、体は獣。何やら楽しそうに魔物はこちらを見て笑っている。
「に、にんにん、人間の呪われし、血と肉を……我らが。く、食い尽くす。あははははは」
 四肢をばたつかせ、魔物はアリテに向かって走り出した。素早くはない。両足がバラバラに動き、絡みつく様はこの魔物が本気でアリテに襲い掛かっているのか疑いたくなるほどだ。
「大した魔物じゃないよ」
 剣を大きく振りかぶり、アリテは魔物が来るのを待ち構えている。あの手の魔物ならぶつかる瞬間に鋭い剣の一撃で終わりだろう。だが、アリテの手は細かく震え、顔は強張っていた。
「あはははは、馬鹿」
「きゃっ!」
 魔物は口から長い舌をとびだし、アリテの両足を掴んだ。剣を振りかぶっていたアリテは受けみもとれずに、腰から転んでしまった。
「あははは、喰ってやる。頭から、ま、ま、まるかじりで。生きたま、ま!」
 早津はとっさに動いていた。刀を捨てたに関わらず、その動きはまだ衰えていなかった。懐からナイフを抜き、魔物の舌を素早く切り捨て、アリテの剣を拾う。
「ひ、ひぎゃああ! な、な、なんだ!」
「もう、二度と俺の前で人を死なせはしない」
 早津は重い両刃の剣を握り、半身で構えた。居合い斬りではない、もう舌が無くなった魔物だ。一撃にかける攻撃をするにこしたことはない。
「最後の言葉なんか聞かないぜ」
 全力で早津は魔物を叩ききった。半身から足を素早く入れ替え、体重を込めて頭から一気に叩き付けたのだ。侍ならば使わない技、隙が大きく反撃を食らう可能性がある。こんな技、あの男と出会わなければ使うこともなかっただろう。
 魔物は叫び声を出す間もなく、絶命した。人間や動物とは違う、どす黒い血を噴出し、生臭い匂いを発していた。
「早津……ありがとう」
 起き上がろうとしたアリテはどこか痛めたのか顔をしかめ、早津の肩に手を乗せた。
「ごめん、ちょっと腰をやっちゃったみたい」
「無理をするな、ほら」
 早津は腰を抑えているアリテの手と足を取り、そのまま抱きかかえた。
「大聖堂には明日行こう。今日は休もうか」
「うん、ごめん。早津……」
 アリテは自信満々に戦いに挑もうとしての失態。情けないような表情で早津を見ていた。早津はすぐに気がついた。アリテは誰も殺せない。剣の腕が悪いわけではない。生き物を殺すということにためらいを感じている。
 彼女は脆い。今まで生き残れたのはきっと逃げ延びていたからだろう。今回は自分がいたから魔物に立ち向かった。自分を守る為に、怖いのに我慢して。
「アリテ、ありがとう」
 手の中で蹲っているアリテに早津は優しくそういうと、アリテは顔を隠して首を振っていた。
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