【遠い約束】-後編-
村の広場に集まった人々は、突然の出来事にしんと静まり返っていた。新たな女王に選ばれたリオネッセが幼なじみのキルーフの頬を打ったのだ。
キルーフはぼう然としていた。
キルーフはぼう然としていた。
「どうして、私をひきとめようとするの? 私は、私が女王に選ばれたことを誰よりもキルーフに喜んでほしいのに……」
リオネッセの瞳が潤み、あふれた涙が頬をつたった。キルーフは激しく動揺し、頭に上った血が潮のようにひいていくのを感じた。
成り行きを見ていたアスミットがリオネッセにハンカチを差し出した。
成り行きを見ていたアスミットがリオネッセにハンカチを差し出した。
「リオネッセ様、そろそろ出発いたしましょう」
彼女は小さくうなずき、涙をぬぐった。
「これ、かえすね」
リオネッセは上着のポケットからなにかを取り出した。それをキルーフの手に押しつけると、馬車に向かうために彼に背を向けた。
残されたキルーフは手を開いた。そこにあったのは、色褪せて赤茶けたリボンだった。
残されたキルーフは手を開いた。そこにあったのは、色褪せて赤茶けたリボンだった。
「なんだよ、これ……」
そう呟いた瞬間。キルーフの頭のかたすみに眠っていた記憶が蘇った。
幼い日の騎士ごっこ。キルーフがささげた誓いのリボン。そして、その時に交わした約束……。
幼い日の騎士ごっこ。キルーフがささげた誓いのリボン。そして、その時に交わした約束……。
「リオネッセが女王になったら、俺は騎士になっておまえを守ってやるぜ!」
キルーフは気付いた。
リオネッセは彼の言葉を信じていたのだ。十年間、ずっと。
もう一度、手の中のリボンを見た。打たれた頬がまるで別の生き物のように熱かった。
リオネッセは彼の言葉を信じていたのだ。十年間、ずっと。
もう一度、手の中のリボンを見た。打たれた頬がまるで別の生き物のように熱かった。
(ただの調子にのったガキの約束なんか信じやがって……)
リボンを握り締めると、顔を上げた。
キルーフは今度こそリオネッセのためにすべきことがわかった。
キルーフは今度こそリオネッセのためにすべきことがわかった。
「リオネッセ!」
キルーフは叫んだ。
リオネッセの歩みが止まり、彼女は振り返って上目づかいにキルーフを見た。
リオネッセの歩みが止まり、彼女は振り返って上目づかいにキルーフを見た。
「約束、忘れちまってて悪かったな」
少年は頬をぽりぽりとかいた。
「ま、なんだ、たかがガキの約束といっても、約束は約束だ。男が約束を破るわけにはいかねぇ。だから……」
キルーフはそっぽを向くと早口で言った。
「しょーがねぇから騎士になってやる」
「え!? いま、なんて……?」
「二度は言わねぇ!」
キルーフは腕組みをしてリオネッセに背を向けた。
「ありがとう、キルーフ!」
彼女は駆け寄ってきてキルーフの背中に抱きついた。
「よせよ、人がみてるだろ!」
キルーフはどぎまぎしながらリオネッセを引きはがした。彼女の身体はか弱く、細く、そして温かかった。
キルーフは落ち着きを取り戻すために深呼吸してからアスミットに言った。
キルーフは落ち着きを取り戻すために深呼吸してからアスミットに言った。
「俺は騎士になる。だから俺も都に連れていってくれ」
彼はその言葉を聞いても眉一つ動かさなかった。
「騎士になる修行は生半なことではまっとうできん。口先だけで挫折していくものも多い……」
「テメェ、俺じゃムリだってのかっ!」
不意に、神官の右手がキルーフに差し出された。
「だが、リオネッセ様が信じるとおっしゃるのなら、それを否定するつもりはない」
キルーフは拍子抜けしてその手をみつめ、戸惑いながら握り返した。
こうして、ふたりは堅い握手を交わしたかのように見えたが、
こうして、ふたりは堅い握手を交わしたかのように見えたが、
「痛ってぇ!」
キルーフは情けない悲鳴をあげ、右手をもぎはなした。アスミットが握った右手に思い切り力を込めたのだ。
「なにしやがるんだ!」
キルーフは抗議の眼差しを彼に向ける。
「リオネッセ様を悲しませた罰だ」
アスミットは無表情のままさらりと言ってのけた。
「ちくしょう……」
右手を抱え込みながらキルーフはうめいた。
広場にいた全員が笑いにつつまれた。
広場にいた全員が笑いにつつまれた。
「女王リオネッセばんざーい! ルーンの騎士キルーフばんざーい!」
突然、村人の誰かが叫んだ。キルーフが驚いてまわりをみまわすと、また別の誰かが同じ言葉を叫んだ。やがてそれは村人全員の声となった。
繰り返される歓声にキルーフはどういう反応をすればよいのかわからなかった。リオネッセも少し困ったようにキルーフに笑いかけた。
繰り返される歓声にキルーフはどういう反応をすればよいのかわからなかった。リオネッセも少し困ったようにキルーフに笑いかけた。
「荷物とってくらぁ!」
キルーフはその場から逃げるように走り出した。
そして、キルーフはリオネッセを守るための騎士になったのだ。
-完-
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