【嵐】-後編-
リドニーの戦いはノルガルドの敗北に終わった。敗走の途中でけがを負ったグイングラインを逃がすため、ヴェイナードはリドニー要塞とノルガルドとを結ぶ橋に単身、駆け戻っていった。
振り続く雨と荒れ狂う川の跳ねあげるしぶきとがヴェイナードの頬を打った。
ヴェイナードが橋に駆けこむと同時に上空から翼を持った竜、ワイバーンが飛来した。ヴェイナードは足を止めずにそのまま勢いに乗せて斧槍カレドヴールフを繰り出す。先端の刃が弧を描き、ワイバーンの首を叩き落とした。首を失った飛竜の身体は失速し、川に墜落した。
そこに体勢を立て直すよりもはやく雨のとばりの向こうから巨大なドラゴンが現れた。得物を構えなおす余裕はない。
振り続く雨と荒れ狂う川の跳ねあげるしぶきとがヴェイナードの頬を打った。
ヴェイナードが橋に駆けこむと同時に上空から翼を持った竜、ワイバーンが飛来した。ヴェイナードは足を止めずにそのまま勢いに乗せて斧槍カレドヴールフを繰り出す。先端の刃が弧を描き、ワイバーンの首を叩き落とした。首を失った飛竜の身体は失速し、川に墜落した。
そこに体勢を立て直すよりもはやく雨のとばりの向こうから巨大なドラゴンが現れた。得物を構えなおす余裕はない。
「ちっ!」
ヴェイナードは舌打ちすると、そのまま体を倒しすばやく横に転がった。数瞬前まで彼のいた空間をドラゴンの鋭利な牙が引き裂く。息をつく間もおしんでヴェイナードはドラゴンに対峙するために立ち上がった。
突然ヴェイナードは奇妙な違和感を覚えた。
世界が傾いていたのだ。その傾きは徐々に増していた。
突然ヴェイナードは奇妙な違和感を覚えた。
世界が傾いていたのだ。その傾きは徐々に増していた。
――橋が流される!
ヴェイナードがそのことに気づくのと橋が中央部から崩れ始めたのはほぼ同時だった。倒壊する橋もろともドラゴンが濁流に飲み込まれた。巨体を誇るドラゴンといえど、大河の前にはなすすべがなく、断末魔の叫びは濁った川に沈んでいった。橋はいまや恐るべき勢いで失われようとしていた。ヴェイナードは転身し、全力で走った。しかしあと一歩の距離で足元が崩れ落ち、ヴェイナードは空中へと放り出された。
「しまった!」
縁をつかもうとしたが、その手はむなしく空をかいた。浮遊感がヴェイナードを包み、眼下に轟音をあげる濁流が迫った。ヴェイナードは死を覚悟し、残してきた友のことを考えた。
(グインは無事に逃げられただろうか?)そう思った瞬間、衝撃とともに落下が止まった。ヴェイナードは驚いて顔を上げた。
「だから、無謀だと申し上げたのです!」
グイングラインが、ヴェイナードの腕をつかんでいた。
ヴェイナードはグイングラインの助けを借りて橋に上がった。無理がたたったのかグイングラインは右足を押さえ、痛みをこらえている。
ヴェイナードはグイングラインの助けを借りて橋に上がった。無理がたたったのかグイングラインは右足を押さえ、痛みをこらえている。
「大丈夫か、グイン?」
ヴェイナードがグイングラインのけがを気遣った。
「気遣うぐらいなら心配をさせないでください、私がこなかったらどうなっていたことか……」
「まあ、そういうな。確かに橋が落ちたのは計算外だった。しかしおかげでアルメキア軍も追撃はできまい」
ヴェイナードは川を見た。橋の中央三分の一ほどが押し流されてしまっていた。
その時、視界の隅で何かがきらめいた。ヴェイナードはとっさに身をひねったが、それは鎧の肩当てを突き破った。左肩に激痛が走り思わずひざをつく。刺さっているのは金属製の矢。ヴェイナードは矢を射た者を見極めようと目をこらした。
雨にけぶる橋、そこに巨大なボウガンを構えた男が立っていた。背後には配下のモンスターの影がいくつもうごめいている。
その時、視界の隅で何かがきらめいた。ヴェイナードはとっさに身をひねったが、それは鎧の肩当てを突き破った。左肩に激痛が走り思わずひざをつく。刺さっているのは金属製の矢。ヴェイナードは矢を射た者を見極めようと目をこらした。
雨にけぶる橋、そこに巨大なボウガンを構えた男が立っていた。背後には配下のモンスターの影がいくつもうごめいている。
「ゼメキス!」
ヴェイナードは痛みも忘れこぶしを握りしめた。左肩から腕に血が一筋流れる。
グイングラインがすばやく盾となる位置に身体を滑りこませようとしたが、ヴェイナードはそれを制した。傷を負っているとは思えない毅然とした動きで立ち上がり、ゼメキスをにらむ。
ゼメキスが次の矢をつがえ、狙いを定めた。
ヴェイナードはひるまずに進み出た。落ちた橋の向こうにいるゼメキスを攻撃するすべはない。かわりに彼はゼメキスに向かって口を開いた。
グイングラインがすばやく盾となる位置に身体を滑りこませようとしたが、ヴェイナードはそれを制した。傷を負っているとは思えない毅然とした動きで立ち上がり、ゼメキスをにらむ。
ゼメキスが次の矢をつがえ、狙いを定めた。
ヴェイナードはひるまずに進み出た。落ちた橋の向こうにいるゼメキスを攻撃するすべはない。かわりに彼はゼメキスに向かって口を開いた。
「聞けゼメキス! アルメキアは腐りつつある。あの大国を支えようとするものが誰もいないからだ。力を持ちながら意志を持たずにただ愚か者どもにしたがっている貴様も同罪だ! 俺は、王になる。そして貴様とアルメキアを打ち倒す。大陸に新たな秩序を生み出すために!」
ヴェイナードは左肩の矢を引き抜いた。血しぶきが飛び散る。
「今日は勝利に酔うがいい。だがいずれ、貴様が放ったこの矢は返しの矢となり貴様自身を貫くことになろう!」
風雨はいっそう激しくなり、川はいよいよ強く唸っていた。
ヴェイナードの声ははたしてゼメキスに届いたのだろうか?
ふたりはしばし川を挟んでにらみ合った。
先に動いたのはゼメキスだった。彼は構えていたボウガンをあきらめたようにおろし、ヴェイナードたちに背を向けた。
それを見届けたヴェイナードはマントを翻し、友に告げた。
ヴェイナードの声ははたしてゼメキスに届いたのだろうか?
ふたりはしばし川を挟んでにらみ合った。
先に動いたのはゼメキスだった。彼は構えていたボウガンをあきらめたようにおろし、ヴェイナードたちに背を向けた。
それを見届けたヴェイナードはマントを翻し、友に告げた。
「グイン、まずはノルガルドの玉座だ」
グイングラインは片ひざをつき、剣を地面に立てて、答えた。
「はっ、我が君」
ふたりは新たな戦いへと歩み始めた。
-完-
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