【未来を決める切り札】-前編-
つい先日カーレオンに仕官したばかりの騎士リカーラの部屋には、来客が絶えない。城内の男たちが集まるのは、なまめく彼女の魅力がなせる技かもしれないが、それだけではない。彼女は仕官前に占星術師を営んでいたため、占って欲しいことがある人々がこぞって訪れるのだ。専門は占星術なのだが、カードや水晶球など種々の占いをこなし、その的中率もかなりのもの、占い師リカーラの評判は瞬く間に広がった。この国きってのおてんば娘メリオット姫が、この評判を聞き逃すはずがない。好奇心をくすぐられた姫君はここ数日、ヒマを見つけてはリカーラの元に通い詰めていた。
「大盛況ね、リカーラさん」
すれ違いに出ていった客を眺めながら、今日もリカーラの部屋を訪れたメリオットが戸口からリカーラに声をかける。
「おかげさまネ」
リカーラは故郷のなまりが抜けない独特の口調で答えた。
「でも、ちょうどお客様のキリもイイみたいだシ、休憩にしましょウ」
そういってリカーラはお茶の用意をし始める。
メリオットは改めて室内を見回した。部屋のつくりは、他の騎士たちのものとなんら変わらない。ただ、リカーラの部屋の中央は、占いを行うときのために天井からつるされた暗幕によって四角く区切られている。ちょうど、部屋の中にもうひとつ小部屋を造ったような感じだ。薄暗い小部屋の中央には小さな円形の机があり、その上には揺らめく炎を灯したろうそくと、カードや水晶球などの占いに使われる道具がおかれている。メリオットが小部屋の中をしげしげと眺めていると、お茶とお菓子をもってリカーラが戻ってきた。
メリオットは改めて室内を見回した。部屋のつくりは、他の騎士たちのものとなんら変わらない。ただ、リカーラの部屋の中央は、占いを行うときのために天井からつるされた暗幕によって四角く区切られている。ちょうど、部屋の中にもうひとつ小部屋を造ったような感じだ。薄暗い小部屋の中央には小さな円形の机があり、その上には揺らめく炎を灯したろうそくと、カードや水晶球などの占いに使われる道具がおかれている。メリオットが小部屋の中をしげしげと眺めていると、お茶とお菓子をもってリカーラが戻ってきた。
「ご希望とあらば、占って差し上げますヨ。失せモノ、金運、恋占いなんでもゴザレ。なにか心配事はありませんカ?」
「心配事……うーん、最近シェラさんの元気がないのが、心配といえば、心配かな」
シェラはやはりカーレオンの騎士で、いつも国王カイのそばをつきまとっている。負けん気の強い性格も手伝って、兄を慕うメリオットとの衝突はしょっちゅうだ。ところが、そのシェラは最近、元気なくふさぎ込んでいることが多いのだった。
「でもシェラさん、占い好きじゃないみたいなのよね。前に誘ったときも、占いなんかに頼っちゃダメだってものすごい勢いで怒ってたし……あ、気を悪くしないでね」
リカーラは黙ったまま微笑んでお茶を口にした。
メリオットもお茶を飲み、しばらく何を占ってもらおうかと思案したが、飲み終わる頃には結局多く女の子が考えるところに答えが落ち着いた。
メリオットもお茶を飲み、しばらく何を占ってもらおうかと思案したが、飲み終わる頃には結局多く女の子が考えるところに答えが落ち着いた。
「シェラさんのことも気になるけど、ひとのことを勝手に占うのは失礼よね。じゃあ、恋愛運かな」
「わかったワ」
お茶を片づけたリカーラは姿勢を正して座ると、机の上のカードの山を崩しかき回し始めた。それから、抑揚のある口調で呪文のようなものを唱えながらカードを並べていく。まるで歌っているようだ、とメリオットは思う。配置が終わるとリカーラは左端のカードに手を伸ばした。メリオットはごくりと唾を飲み込む。
リカーラはカードをめくって内容を確認すると小さくうなずき、表にして机の上に置いた。
リカーラはカードをめくって内容を確認すると小さくうなずき、表にして机の上に置いた。
「過去には恋人の影はなシ……」
次のカードをめくる。
「現在も、なシ」
次々にカードをめくっていき、ふとリカーラは、その手を止めた。
「あラ……」
「ど、どうしたの?」
急に止められた手にメリオットは不安になり、心臓が脈打つ。
「恋人とは関係ないけれど、近未来の位置にケガに注意と出ているワ。気をつけてネ、姫」
メリオットはうなずいた。
「さテ、お待ちかネ。姫の未来の恋人は……」
リカーラによって最後のカードがめくられようとした瞬間、メリオットは思わず占い師の手を上からそっと押さえてしまった。首を傾げたリカーラに見つめられて、あわてて手を離す。
「やっぱりいいわ。未来は自分の力でつかむものだもの」
「ちょっと残念ネ。でも、立派な考えでス」
リカーラは笑顔でそう言って並べられているカードを集め始めた。
「なーんてね。恋人がどうのなんて、まだよくわからないだけなの」
照れ笑いを浮かべながら机の上で頬杖をつくメリオット。
「それよりも私は、王宮のみんなとずーっと楽しく暮らしたいわ。そのためにも、はやく平和を取り戻さなくちゃね!」
リカーラは優しくうなずいた。
その時、扉がノックされた。
その時、扉がノックされた。
「あ、お客さんみたいね」
メリオットがそう言うと、リカーラは立ち上がって戸口まで行き、扉を開ける。
そこに立っていた人物を見てメリオットは驚いた。
そこに立っていた人物を見てメリオットは驚いた。
「シェラさん!」
戸口には先刻話題に上ったシェラが立っていた。
「……占っていただきたいの」
シェラは少し疲れた口調でリカーラにそう告げた。
「どうゾ」
リカーラが優しくうながすと、シェラはとまどいながら室内へと入ってきた。普段の彼女からは想像もできないようなしおらしさだ。
「じゃ、私は失礼するわね……」
メリオットが退室しようとすると、シェラはそれを引き留めた。
「かまいませんわ、メリオット姫。姫もいてくださいな」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
シェラの様子にただならぬものを感じたメリオットは椅子をもう一つ用意すると、リカーラの横に腰掛けた。
「それデ、何を占えばいいのかしラ?」
メリオットの準備を待って、リカーラはシェラに尋ねた。
シェラは、開口一番、こう言った。
シェラは、開口一番、こう言った。
「実はわたくし、騎士を続けるべきかどうか迷っていますの」
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