【未来を決める切り札】-後編-
騎士リカーラの占いに興味を持ったメリオット姫が、今日もリカーラの部屋を訪れていると、占いには頼らないと言ってはばからなかったシェラが現れた。シェラは、騎士を続けるべきかどうかを迷っているので占って欲しいと告げた……。
「ちょっと待って! どうして、シェラさんが騎士をやめなきゃいけないの!?」
突然のシェラの言葉に、メリオットはリカーラよりも早く反応した。
「結婚を勧められているの」
「え!?」
メリオットは絶句した。いつもメリオットの兄カイにつきまとっているシェラが結婚というのは、にわかには信じられない話だった。
「別に、今回が初めてというわけじゃありませんのよ。ただ、いままでは全部断ってきただけ」
メリオットの反応にプライドを傷つけられたのか、シェラは憮然とした表情だ。たしかに三十路をすぎているシェラにはいつ結婚という話が持ち上がってもおかしくはない。
「じゃあ、今度も断ればいいじゃない!」
「それが、とうとう母に泣きつかれました。国が戦争で大変なのはわかるが、このままじゃ結婚もできないじゃないか、ってね。……それに、わたくしがこんなに待っているのに、カイ様はなにもおっしゃってくださいませんし……」
シェラはためいきをつく。
「だからって……!」
メリオットにはまだ言いたいことがあったが、横でふたりのやりとりを聞いていたリカーラがそれをさえぎった。
「シェラさんはどうしたいと思っていらっしゃるノ?」
「わたくしは……」
シェラはうつむいて言葉を詰まらせた。その様子にメリオットは、シェラは本当に悩んでいるのかもしれないと同情を覚えた。
「事情はわかったワ。ちょっと本格的にやってみましょウ」
リカーラはそう言って、部屋の奥に消えると、なにやらごそごそとやりだした。残されたメリオットとシェラは顔を見合わせる。ほどなくして戻ったリカーラは、普段の肌の露出が多い服ではなく、ゆったりとした長袖の黒い長衣を着込んでいた。着替えて精神の統一をはかり、本気で占うということなのだろう。メリオットは妙な感心を覚えた。なるほど今のリカーラはいつもの艶っぽさに加え、神秘的な雰囲気まで漂わせている。
「お待たセ。始めましょウ」
リカーラは椅子に浅く腰掛けると、メリオットを占ったときと同じように、カードの山を崩し、例の歌うような詠唱と共にかき回し始めた。シェラはじっとその様子を見守っている。ろうそくの炎に揺らめく彼女の影は、不安な心をそのまま表しているかのようだ。
カードを並べ終わったリカーラは、ゆっくりと一枚目をめくった。
カードを並べ終わったリカーラは、ゆっくりと一枚目をめくった。
「過去のあなた……なにごとにも一生懸命、でも気が強いせいでまわりと衝突することも多かったみたいネ」
シェラは占い師の言葉に、小さくうなずいた。
「現在のあなた……そばにいる人は肝心なことに気づいてくれなイ。それがもどかしイ」
リカーラは次々と並べられたカードをめくっていく。メリオットも、真剣にリカーラの言葉を聞く。
「そしテ、あなたの未来は……」
ついにリカーラは最後の一枚に指をかけた。彼女は手にしたカードをすぐには表にせず、何事か唱えながら、腕を上げ下げした。机の下にまで下げられた手を再び頭上に掲げてから、リカーラはカードを表にして机の上に置いた。
カードには光り輝く太陽が描かれている。
「案ずることなシ。迷わず欲する道を進みなさイ」
その言葉を聞いた途端、シェラはほっとしたような顔つきになった。
「ほら、やっぱり。シェラさんは騎士をやめない方がいいのよ!」
メリオットも大きくうなずく。
「大丈夫、うまく行くワ」
リカーラは元気づけるようにシェラの肩を軽く叩いた。
「そうですわよね。騎士だから結婚できないだなんて考えが間違っているんですわ! そうと決まれば、早速カイ様のお手伝いをしにいかなくちゃ!」
部屋に入ってきた時とは打ってかわって元気取り戻したシェラは、足取りも軽く部屋を出ていった。
そんなシェラの姿を笑顔で見送った後、メリオットが振り返ると、ちょうどリカーラが袖からもぞもぞと一枚のカードを取り出していた。
そんなシェラの姿を笑顔で見送った後、メリオットが振り返ると、ちょうどリカーラが袖からもぞもぞと一枚のカードを取り出していた。
「そのカード……!」
メリオットが驚いていると、リカーラは悪びれる風もなく言った。
「さっき、太陽のカードとすり替えたのヨ」
「どうして!?」
「その方が、シェラさんのタメになると思ったからネ」
リカーラは手に持ったカードを見もせずに机の上のカードと混ぜる。
「だれも未来のことはわからないもノ、迷ったり不安になるのは、当然だワ。そんなときに、そっと背中を押してあげるのも、わたしのお仕事ヨ」
「でも、今のカードが悪い未来をしめしてたら?」
「あラ、未来は自分の力でつかむモノでショ、姫。人生を決めるのはその人の意志と努力だワ」
そう言ってリカーラはメリオットにウィンクを送る。
「占い師の言葉とも思えないけど……でも、そうね」
メリオットも肩をすくめつつ笑顔を返した。
それからメリオットは、ふと思いついたことをリカーラに尋ねた。
それからメリオットは、ふと思いついたことをリカーラに尋ねた。
「ねぇ、まさかとは思うけど、さっきわざわざ着替えたのは……」
「もちろん、カードを隠しやすくするためネ」
占い師は、ぷらぷらと長衣の袖を振りながら艶やかな微笑みをうかべた。
-完-
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