827 :名無しさん@ピンキー:2009/12/21(月) 18:06:07 ID:hBG7Ab0N
 初めて会った時のこと、覚えてますか?
 私は覚えてます。
 多分、ずっと忘れられません。
 あんまり物覚えのいい方じゃないけど、そのことだけは忘れません。
 急な雨に襲われて困っていた時、あなたは見ず知らずの私に傘を貸してくれました。
 あなたにとってはきっと何でもない、当たり前の行動だったのかもしれません。あなたは
困っている人を見掛けたら放っておけない性格ですから。
 でも私にとっては大きなことだったんですよ?
 あなたが私と同じ学校の制服を着ていたから、すぐに私はあなたと再会できて、傘を
返せました。あなたは私を律儀な性格だと思ったのかもしれませんけど、本当にそれだけの
ことだと思いますか?
 なかなか勇気を出せなくて結局傘を返せたのは二週間も後のことだったけど、その間
あなたのことばかり考えていたのは本当に律儀なだけですか?
 傘を返してそれで終わりにならなかったのは、とても運がよかったと思います。
 友達になれたことがすごく嬉しかったのを覚えています。
 でも、本当はそれだけで終わりたくない。
 私はもっとあなたに近付きたい。
 だから、勇気を出して言います。
 あなたが、好きです──



「ん、どうしたの? ぼーっとして」
 かけられた声に私ははっと我に返りました。
「えっ!? あ、その……何でもない、ですっ!」
 力いっぱい叫んでしまってから、存外大きな声が出てしまったことが恥ずかしくて、
私は小さくなりました。
「ご、ごめんなさい……大きな声出して」
「いや、いいよ。こっちもごめんね。急に声かけて驚かせてしまったみたいで」
「う、ううん。違うんです。本当にちょっとぼーっとしてただけだから」
 気遣わしげな彼の様子を嬉しく思いながら、私は答えます。
 彼は、小首を傾げました。
「考え事? 悩みでもあるの?」
「えっ!? いや、えっと、あの……」
 悩みというか、その、
「もし困ってることがあったらいつでも言ってね。できるかぎりのことはするよ」
 そう言って、彼は優しい笑顔を浮かべました。
 ああ、優しいな。本当に彼は優しい。
 でもその優しさが、今はちょっぴり憎らしいです。
「う、ん……ありがとう。でも大丈夫です」
「本当に?」
「うん。これは、私が頑張らないといけないことですから」
「──そっか。何のことかはわからないけど、頑張ってね」
「うん」
 離れていく彼の後ろ姿を見送りながら、私は溜め息をつきました。
 鈍すぎです。本当に。
 そんな彼だからこそ、私は好きになったのかもしれませんけど。
 でもこのままではダメです。あの人が私の想いに気付くなんてどう考えても有り得ません。
ならば私から告白するしかありません。
 未だにそれは果たせてませんけど……臆病な己の性格が恨めしいです。
 さっきもずっと頭の中で想像していたのです。いつか彼に想いを伝えるために。
 とりあえず中断したシミュレーションを再開しましょう。
 さっきのだとちょっと台詞回しが長たらしくて回りくどいような気がします。
 もっとシンプルに想いを伝えた方がいいですよね、きっと。

 ああ、頭の中ならいくらでも告白できるのになあ……。
 誰か私に勇気をください!

最終更新:2009年12月22日 11:58