何故、こんな事に。 わかりきっている事だったが、どうしても自分に尋ねずにはいられない。 全ての元凶は、他でもない。自分の驕りだった。 封印されている身では何もできまい、それに私には魔力にも自信がある。 そう、力に自惚れていた私は島の聖域へと降りた。 自らの叔父であり、かつては賢者でもあっと言うボロスの、魔力を引き出し自在に操る魔具。 『悪魔の冠』を作らせに。 ボロスはすんなりと応じた。 私がボロスの姉である……ジェンカの娘だという事もあったからか。 禍々しい力の儀式。 それが終わると、私の手元にあいつから悪魔の冠が渡された。 私は更なる魔力を得た事に喜ばずにはいられなかった。 今振り返ると、馬鹿だなと思う。 上手い話は、そう易々とあるものじゃない。 昔の私は、それを知らなかったのだ。 無知。最大の罪。 島に来た人間の一人が、ふと目を離した隙に冠を手にしていた。 「それは私のだ」と、返せと迫ろうとした時、私は自らを強制させる強大な力に気がついた。 気付けば、冠を手にした人間に跪いている。 まるで忠誠を誓う騎士の様に。 その時、私は初めて理解した。 ボロスの魂が宿った冠に呪われ、あれを手にした者には逆らえない。 もう、私の意志は自由ではないのだ、と。 全てが狂い始めた。 島を巻き込む、戦争。 醜い人間達が、冠の主となり、王となるべく、争い、果てていく。 島の原住民であるミミガー達を兵器として使い、地上と大戦争を繰り広げた時もあった。 私は呆然と、惨劇を目を逸らす事も出来ずに見つめていた。 赤い花を食べ、凶暴化して自らの意志と関係無く地上へ降り……散っていく。 その危険性を察した地上の国々は、血も涙も持たないキラーロボットの兵隊を送り込んで来た。 凶暴化しているミミガーも、そうでないミミガーも……戦意すら無いミミガーも、子供も。 子供だけはと泣き叫ぶ親と、そんな親に抱き付き震えている子供のミミガーも、兵隊の前ではただの敵だった。 全てが殺されていった。 辺りが一面、血の海という言葉が相応しい程に赤く染まり。 やがて、邪魔者を排除した兵隊は役目を終え、地上からやって来た人間が冠を手にした。 そして、散々兵隊で殺していたミミガー達を利用し、戦争を繰り広げようとしたのだ。 反吐が出た。 もしこの身が自由ならば、雷を放ち跡形も無く消し飛ばしてやれるものなのに。 今の私には、ただ従う事しか出来なかった。 凶暴化したミミガーと同じく、私にも意志は無かった。 戦争の準備が整いつつあった最中、二人のロボットがやって来て王と戦った。 私もバルログも、決して手は抜いていなかった。 ただ、力尽きる最後に赤い帽子をかぶったロボットの放った弾丸が、王を貫いていた。 その傷が元で王は死んだ。 そして、私とバルログはまた誰かが冠を手にするまで眠りにつく……。 私が誰かに殺されるか、ボロスが死ぬまで永遠に続く、運命の輪。 ガッ!! 平手などと言う生易しいものじゃなかった。 まるで奴隷に対して殴りつける様な、握り拳。 口に鉄の味が広がる。 殴られた時に切ったのか……。 「………申し訳…ございません。」 ギリギリと、怒りで歯を食いしばりながら私はそう目の前にいる、新たな王に言う。 殴られた理由は、この王と共に来た人間達の一人、スーとかいう女のガキを他のミミガーと間違えて連れて来たからだ。 人間の姿なら簡単に判別がつくだろうが、ミミガーの姿に私がしてしまったのがここで仇となった。 「ここから出しなさいよ!!私達を家に帰してよ!!もう嫌!!!」 「うるさい奴だな。大人しく牢屋でじっとしていろ。」 「ドクターの仲間のお前なんか大ッ嫌いだッ!!この島も大ッ嫌いッ!!!」 牢屋の中で暴れている、緑の髪をした少女。 こういう場合、普段なら相手もしない私だが、その時あの王と一緒にされた事に無性に腹が立った。 「……黙れ。」 低い声で、気付けば言っていた。 「何よ!ドクターと一緒に王様ごっこでもしてればいいじゃない!!」 「黙れ!!」 びくっ、と少女が震えたのがわかった。 私は怒りの形相で、少女を睨む。 かつての主達同様、ロクデナシの王と一緒にされるのはどうしても許せなかった。 「ぎゃあぎゃあ騒ぐお前にお似合いの姿に変えてやる。」 そう言うと、魔法の光を少女と、傍にいた男に浴びせた。 「きゃああっ!!」 「うわあああ!?」 二人の人間の姿が、ミミガーのそれへと変わっていく。 「フン、お似合いだぜ。」 そう言い残し、少女が気絶しているのを確認すると私は牢屋を後にした。 あの時は、まさかそれが仇となるとは思わなかった。 「……このミミガーはいかがいたしますか…?」 「ふん。檻にでも入れて置け。」 「……バルログッ!!そいつを檻に入れときな……。」 八つ当たりの様な口調でバルログに言うと、私はスーを探しに行く口実で王の前から消えた。 本音を言うと、さっさとこのロクデナシのいる空間から逃れたかっただけだ。 砂区で、赤い花が保管されている倉庫を見つけた。 ジェンカのクソババアが、先の大戦争が終結してから赤い花をそこへ隠したらしい。 バルログに鍵を奪わせ、赤い花の種を手当たり次第に採取していく。 この王も戦争をするつもりなのだろう。 また、あの地獄の様な光景を目にするのだろうか。 「バルログ、そいつに花を食べさせな。」 声が震えていないかどうか、不安だった。 赤い花を見て、「ミミガーで試そう」と、王が言ったのだ。 そして私がテレポートさせて来たのは……スーと間違えたミミガー。 私自身がミミガーに赤い花を食べさせる事は出来なかった。 今まで戦争などのトリガーとも言える存在になっておいて、今更綺麗事なのかもしれない。 だけど、これは私が直接手を下すのだ。 王が望んだから、という言い訳も最早通用しない。 赤い花を食べさせ、このミミガーを殺すのだ。 私が。 最も抵抗した、ミミガーの英雄の最後の姿がフラッシュバックする。 殺すつもりは無かった。 だが、死ぬまで背を向けずに戦うそのミミガーは確かに英雄だった。 手加減出来るほどの相手でもなく、結果的にそのミミガーは私が殺してしまった。 だからとはいえ、殺してももう何とも思わないわけではなく。 到底そんな真似はできそうも無かった。 だから、頼んでしまった。 家族とも呼べるであろう、運命共同体のロボットに。 「りょうか〜い。」 いつもの調子で返した、バルログの笑顔を見て私は心が痛んだ。 しかし、それよりも痛く感じたのは。 バルログがミミガーに赤い花を食べさせる瞬間、こう呟いたのだ。 「本当に、ごめんね」と。 「やめろ!!」 バルログの反応が遅れて、背後からの奇襲を受けたのが見えた。 慌てて逃げ出すバルログの表情は、ダメージによる苦痛のそれとは違った。 別の意味で、苦しんでいるのがわかった。 「ぶち殺してやる!!」 その声にはっと我に返る。 王に斬りかからんと飛びかかって来るミミガーの剣士。 私は咄嗟に、魔の言の葉を呟いていた。 轟音が響き、雷がそのミミガーへと落ちる。 入り口の方の壁まで吹き飛び、倒れたそのミミガーは動かなかった。 私は居た堪れなくなり、その場から消えた。 着いた先は、倉庫の外。 全身ががくがくと震えていた。 ミミガーの英雄の最後を、再び思い出す。 また殺したのだ。 命を奪ってしまったのだ。 言い逃れも出来ぬ大罪。 自虐の笑みが知らずのうちにこぼれた。 絶対に逃れられない、運命。 それから、倉庫から出て来た赤い帽子のロボットをバルログが気絶させた。 タフなロボットだった。 昔王を倒したあいつを思い出す。 迷宮にロボットを飛ばし、完全に憂いを無くすためにバルログも飛ばした。 だが、それは口実だ。 私は、無理をして作っているバルログの笑顔を、もう見たくなかったのだ。 迷宮で静かに暮らし続けるか、スクラップになった方がこの運命から逃れられて幸せなのかもしれない、と。 私はそう思っていた。 誰もいなくなった……いや、二人のミミガーがいる倉庫の中に入ると、寄り添って倒れていた。 安らかな、穏やかな表情で、二人仲良く眠っている様な光景。 だが、それはもう二度と目覚める事の無い眠り。 ぽたり、と遺体に涙が落ちる。 私は知らず知らずの内に、泣き崩れていた。 私は血に染まった遺体を拭い綺麗にすると、杖を振るい遺体を消した。 いつの日か、もし自由になれたら。 必ず弔うと、心の中で誓って。 「これだからロボットは嫌いなんだよ!!これはこの島の心臓!コレが停止したらこの島は沈むんだ!!」 大きく揺れる島。 まさかあのロボットがコアを破壊するとは思わなかった。 バルログは何をやっている!! 自分で勝手に迷宮に飛ばしておきながら、私は舌打ちした。 コアを王のラボに転移させると、すぐに王が修理に取り掛かった。 ふと、その時揺れている島に強大な魔力の気配がして何かが引っ掛かった。 王に手伝えと言われてそこで思考を中断する。 島のバルコニー。 王の玉座まで、あのロボットはやって来た。 「本当にしぶとい奴。ここに来た目的はコアの破壊だろ?」 島を沈め、この運命に終止符を討つつもりだろう。 だが、冠が存在する限り全ては終わらない……。 「言っておくが私は島に未練などない。あの王冠を持つ者に従うのが私の定めなのだ。」 目の前のロボットではなく、これは自分に言い聞かせていたのかもしれない。 決して、逃れられないのだと。 「覚悟しなッ!!」 魔法を使い、ロボットに攻撃する。 雷を降らし、コウモリを召還し、魔力の塊である黒い球体にブロックを召還して落下……。 ロボットを翻弄できたのは、暫くの間だけだった。 すぐに挙動で何が来るのか割り出し、バリアの裂け目を狙い正確に攻撃をしてくる。 ロボットが手にしているのは、あのミミガーが持っていた剣。 掲げると、ミミガーの気が幻影となり現れ、周囲一体の物を切り刻む。 「……くっ!!」 ついに地に落ちた私は、残った力でテレポートをして逃げた。 いや、逃がされたのだ。 あれ程の正確が出来る奴だ。私を殺す事など簡単に出来たはず。 しかし、戦っている最中、あいつは悲しそうな目で私を見ていた。 怒りとは違う、哀れむ様な目。 ロボットなのに殺しもせず、変わった奴だ……。 そして何より、甘っちょろい馬鹿だった。 「そこまでだ!」 王を倒し、修理されたコアの近くにまで来たロボットに、私はそう叫ぶ。 武器を構えたロボットに対し、スーをテレポートさせて人質にして言う。 「こいつの命が惜しかったらコアから離れるんだ。」 ロボットは言う通りに、コアから離れる。 「ロボットなのに感情があるのか。変わった奴……。」 相変わらず、ロボットは悲しそうな目で私を見ていた。 私を見るその目には、私はどういう風に映っているのだろうか。 「まさか新しい王まで倒してしまうとはな…まあいい。取引をしようじゃないか。」 そう言い、私は深く息を吸う。 あいつが私をどう見ようと関係は無い。 運命が変わるわけは無い。期待はするな。 「島と一緒に滅ぶか、すべてを忘れてここから去るか…。おまえが今すぐにここから立ち去るなら、こいつの命は保証してやる。」 そのロボットは暫く考えている様だったが、戦意が無い事は伺えられた。 本当に変わった奴だ……。 「それとも……。」 お前が王になるか? 私はそう言うつもりだった。 冠の持ち主が死ねば、私とバルログはまた眠りにつく。 新たな主が現れるまで、永遠に。 だが、こいつが王になればそれは無い。 それに、かつてのロクデナシ達とこいつは違う気がした。 あのロクデナシ達より、このロボットの方が人間らしかった。 「逃がさん……。」 「誰だ!」 声に振り向くと、そこには赤い液体の泡の様になった王の姿。 死んでいなかったのか……!? 「ククク…赤い結晶の力は素晴らしいな。今でも力がみなぎるようだ。」 これが赤い水晶の力……!? ありえない、馬鹿げている。 理性を失い、死んだはずの王が理性を取り戻し、かつ蘇っているなんて。 私が驚いている隙に、スーが逃げ出した。 だが、あのロボットは戦意が無いので問題は無い……だが。 目の前の『コレ』は。 「体はボロボロになってしまったが意識はハッキリしているぞ。スーパーマンにでもなった気分だ。」 「なんて奴だ……。」 もう目の前にいるのは、人間ではない。 化け物だ。 赤い水晶の力を取り込み、冠を手にした化け物。 「どうしたミザリー?私の姿が恐ろしいか?」 「クッ!死に損ないめ、消えろ!!」 魔力の塊をドクターに放った。 これを受ければ、ただではすまないはずだった。 だが。 「主人を忘れる愚か者には意思などは要らない。お前は死ぬまで私の人形だ。」 攻撃がすり抜けた!? 愕然とするのとほぼ同時、赤い泡が私を取り巻き、吸い込まれる様にして消えていく。 「ぐああああぁぁぁぁぁ!!」 泡が吸い込まれていく度に意識が飛びかける。 無理矢理意志を剥奪される感覚。 自分の姿が化け物へと変貌していくのが、自分でもよくわかった。 「ちょっと…逃げるわよ。」 スーがそう言ってロボットの手を引いて逃げ出そうとする。 だが、おぼろげな意識の中、その後ろに赤い水晶が現れたのが見えた。 「え……?」 ………スーの姿がどんどん、人間のそれへと変貌していく。 ただし、ミミガーの名残を残して。 その瞳は赤に染まっていた。 凶暴化した、ミミガーの様に。 「フフフ… 生きて帰さんぞ!」 ドクターの叫びが、遠い所の様に聞こえ、そこで私は完全に意識を失った。 恐らく、もう意識を取り戻す事は無いだろう。 「ミザリー、しっかりして。ミザリー。」 ゆさゆさ、と揺さぶられて私は目を覚ました。 大きく揺れる島。 起き上がろうとして私は体の痛みに呻いた。 「大丈夫?」 「……バルログ……?」 私を揺さぶっていたのはバルログだった。 周囲を見ると、黒い広間にいるのは私だけであのロボットとスーの姿は無かった。 コアがあった方を見ると、そこにはコアの残骸が落ちていた。 ロボットが破壊したのだろうか。 地面を見ると、血の赤が下へ続く段差へと続いていた。 そこで、朧に戦いの光景が蘇る。 凶暴化したスーの蹴りを受けて、吹き飛ばされ。 凶暴化した私の魔法を受けて、なぎ倒され。 それでも、スーと私を無視してコアだけを攻撃した傷だらけのロボット。 いつ倒れてもおかしく無い様な、出血。 いや、ロボットだから血ではないのかもしれないが。 「………とんだお人良しの馬鹿、だな…。」 恐らく、この血の赤はあのロボットの物だろう。 スーならまだしも、敵である私の命も救うとは。 ふと、コアが破壊されかけた先程感じた違和感をまた感じる。 強大な魔力が吹き出るのを感じる。 魔力の種類が、自らを縛り付けているそれと同じ物だとわかった時、私は全てを理解した。 「あのクソババア……。」 「ミザリー?どうしたの?」 がんっ、と杖を地面に叩き付ける。 嘘をつきやがって、クソババア。 私は、母であるジェンカからコアについて聞いていた。 『島の心臓部で、これのおかげで島が浮いている』と。 あの武装も、島が第三者に沈められない様にするためだと。 だから私も、そう信じていた。 だが、そうじゃなかったのだ。 推測が正しければ……いや、正しいと確信できる。 コアは島の心臓部で、これが壊されれば島が沈む。 それはある意味正解だ。 ただし、コアが島の浮力を司っているわけではない。 コアは自動的に張り巡らされた、魔力で浮いているのだ。 術者が朽ちようとも、永遠に続く魔力。 ではコアは何のために存在するのか? ここまで考えられれば、答えは簡単に導かれた。 コアは、ボロスを封じ込めている封印装置なのだ。 それが壊された今、ボロスの膨大な魔力が巨大な重力と同様の効果を及ぼし、島が崩壊し始めている。 このまま沈めば、やがてはボロスは解き放たれ、地上がどうなるかは想像に難しくは無い。 だが、手はあった。 私は落ちてくる岩を魔法で破壊しながら、歩き始めた。 「わわ、待ってよミザリー!!」 ……ボロスを殺せば、島の崩壊も止まり私も自由の身だ。 勝てるかどうかはわからなかったが、昔試そうと思った事があった。 王が寝ている隙を見計らい、聖域の入り口を目指した。 だが、かつて冠を作らせるために私が通った聖域への道は閉じられていた。 結局私は、何もできる事は無かった。 今考えれば、きっと勝ち目の無い勝負をしようとするであろう私を阻止するため、母が封印を施したのだろう。 コアの話も、恐らくボロスを封じ込め続けるためだ。 魔力の吹き出ている場所を探せば、聖域への道は簡単に探し出す事ができた。 地上から来た人間達が建てた、プレハブ小屋。 扉を開くと、大きな穴が開いていた。 そして、その先へと続く赤い血。 「あいつ………。」 あのロボットは、全てに終止符を討つつもりだろうか。 だが、ここまで傷だらけで勝てるのか? 私は穴に降りようとした所で、体の痛みに蹲ってしまった。 眩暈もする。 無理も無かった。 凶暴化して潜在能力を無理矢理引き出され、体には相当の負荷がかかっていたのだから。 「ミザリー、ボクが行くよ。」 「バルログ……。」 「らしくないな、こういう時ミザリーなら「さっさと行ってきな」とか言うよ?」 そうおどけて見せるバルログ。 いつもなら真面目にやれと言う所だが、この時はこいつに救われた。 「……助けに行ってきな。あのロボットを。」 「りょうかーい!」 そう言い、飛び降りようとしたバルログをふと呼び止める。 「バルログ。」 「何?」 「必ず、戻って来いよ。」 「ボクのしぶとさは犬並だからダイジョーブ!」 いつもの笑顔を浮かべ、バルログは聖域に飛び降りて行った。 ぐらり、と視界が傾き、私は小屋の中で倒れた。 体へのダメージと、魔力の使いすぎが原因だった。 私はバルログと……あのお人良しの馬鹿の無事を祈りつつ、少しの間休息を取る事にした。 眠りから覚めると、島の揺れは完全に止まっていた。 吹き出ていた強大な魔力も収まっている。 そして、自らを縛り付けていたあの忌まわしい力も。 ボロスを倒したのか……。 自分の姿に違和感を感じた。 少し、成長した自分の姿。 止まっていた時が、再び動き出したかの様に。 小屋の外に出て空を見上げると、バルログが島に背を向けて飛んでいた。 その頭の上には、二人のロボットの姿。 このまま、二人のロボットと共にどこかへ行ってしまうのだろうか。 けど、それもいいのかもしれない。 私達はもう自由だ。誰にも縛られる事は無い。 当然、あいつは私にも。 横にいるのが普通だったあいつがいなくなるのは、思いのほか寂しかった。 視線を落とした先に、綺麗な花が咲いているのを見つけた。 弔いには、丁度いい花だった。 何個か摘み、バルログが消えていった空を見上げる。 すると、空の向こうからやって来る見知った影。 「ヘーイ!!」 いつものあいつの姿があった。 ……やっぱり、あいつは馬鹿だ。 私の横に、頭に二人のロボットを乗せたまま着陸するあいつに、私は飛びついて何度も殴った。 「ミザリー?」 バルログがそう聞いてきたが、私は嗚咽を上げて泣く事しか出来なかった。 寂しかった。 急に一人になって、心細かった。 戻って来てくれて、嬉しかった。 普段の私らしからぬ思考かもしれない。 だけど、それが本音だった。 気を利かせたのか、あいつは何も言って来ない。 黙って、私にぽかぽかと殴られていた。 「ただいま。」 そっと、バルログは私にそう呟いた。 「これでいいかな。」 「ああ。立派な墓だ。」 ミミガーの村にある墓場。 村の英雄が眠る墓の隣に、新しい墓が二つ。 バルログと二人で作った、スーと間違えたミミガーと雄々しきミミガーの墓だ。 バルログから聞いた話だと、スーと間違えた方のミミガーは赤い花を食べさせた時……悲しそうにバルログを見て微笑んだのだと言う。 「心が、泣いてるね」と言われたそうだ。 どこまでも優しく、弱かったミミガーの少女。 私は、私が殺した三人のミミガーを、永遠に忘れる事は無いだろう。 三人を弔うつもりで摘んで来た花を、そっと墓に供え、私とバルログは黙祷をした。 真の英雄よ。 雄々しき勇者よ。 儚くも優しき少女よ。 安らかに。 「………行くか。」 「うん。」 私がバルログの頭に飛び乗ると、バルログは空高く飛び上がった。 あっという間に墓場が見えなくなり、気付けば島の上空だ。 「どこに行く?ミザリー。」 尋ねられて、考える。 そういえば、地上の世界をまだ見た事が無い。 今まで冠の王に使われ続け、王がいない時は眠っていたのだから当然か。 どうすれば私の罪を償えるのかはわからない。 だけど、隣にこいつがいれば、どこまでも行けそうな気がした。 ふと、私がミミガーにした少女と男の事を思い出す。 うるさく言われそうだが、からかいがてら元に戻してやるのもいいのかもしれない。 「バルログ。スー達を探すぞ。」 「この、ただっ広い地上から!?ヤダよ、今日はカーリーがご馳走作ってくれるからって早く帰る約束が……」 「うるせえな。そもそもお前ロボットだろ!さっさと行きな!!」 渋々と宛ても無く飛び始めるバルログ。 いつもと同じだが、ちょっと違う光景。 今なら、どこまでも一緒に飛んでいける気がした。