島が落ちる・・・。 大惨事も未然に防がれ月日も経ち・・・。 ミミガーの村の復旧も終わり、島には平穏が戻ってきた。 そんなある日のことだった。 「島を出て行ってくれないか?」 突然、あのゴーグルのミミガーが言い出した。 ・・・突然のこととはいえ、驚くような要素は全くなかった。 王冠の呪いは解けたが、村の復旧に手を貸す、など到底出来る筈もなく、 ただ作業を傍観することしか出来なかった。 王冠の呪いのせい、などという言葉では洗い流すことなど出来ない罪を負っている。 そんな自分がミミガーの前にのこのこと現れて、復旧に手を貸す・・・。 有り得ない事だ。 出て行けと言われて嫌だ、などとはいえない立場だった。 その内言われるだろう、とわかっていた。 「・・・ああ。」 二つ返事で答えた。 すぐにでも出て行こうか・・。 でも、どこへ? こんな自分の居場所など何処にあるのだろうか? ・・・一つだけ思い浮かんだ。 が、そこに行く勇気もなかった。 あそこにはバルログもいるが・・・、あの二人がいる。 ・・・あの二人は私をどう思っているんだろう。 いろいろと考えをめぐらせている時だった。 「行く前に話しておきたいことがあるんだ。」 ・・・? 何だろう・・・。 恨みつらみでも話すのだろうか? 「・・・何だ?」 「話は島の英雄から色々と聞いてるよ。ドクターが被ってた王冠の呪いだったんだってね。」 「・・・・。」 信じているのだろうか・・。 あんな姿を見て信じられるだろうか・・。 「正直、嘘だと思ってたよ。あんなことしといて実は呪いでした、なんて虫のいい話があるわけないしね。」 「・・・。」 「でも、この島を救った英雄の言う事だ。まぁ嘘ではないんだろうさ。」 「だからといって、じゃあ許そうか、なんてことも出来ない。」 「トロ子・・キング・・それにアーサーまでも・・・みんな殺しといて許せるはずがない。」 「・・・。」 何もいえない・・・。 返す言葉もなかった。 「・・・、それでも王冠の呪いだった、って事は考慮に入れなきゃならない事だ。」 「自業自得だったって事も聞いてるけど、長い年月を王冠の所持者に仕える事に費やしてしまったって事だからね。」 「ずっと殺してやりたいほど憎んでたけど、そんなことを聞いたら・・・殺すなんてことは出来ないな。」 「人生を全く楽しめないまま死ぬ、なんて考えられないほど辛い事だ。」 「・・・。」 好意的、ともとれる台詞だ。 それに・・・、そんな説明もしてたのか・・、あいつは・・。 色々と考えてくれていた、というわけか。 ロボットの癖に、味なことを・・・。 「ほかのミミガーにはまだこのことを伝えていない。信じない奴もいるだろう。」 「だからここにいても、色々と困ることもあるだろうから・・・ね。出て行ってもらおうってわけさ。」 「そうか・・・。」 話は終わった。 すぐにでも出て行こう。 まだ、あそこに行くかは決めかねていたが。 「出て行くことに反対する奴もいるだろうけど、色々とごまかして置くよ。」 「ナンバーワンの体裁もあるから、逃げてった、とか言わなきゃならないけどね。それくらいは勘弁して欲しいな。」 そういうと彼は苦笑した。 そんなことはどうでもいいことだったが。 「そろそろ・・行くぞ。」 「あぁ、善は急げって言うしね。」 「・・・、何か色々考えてたみたいだけど、あの二人はそんなに気にしてないと思うよ。」 「・・・え?」 「二人が気にしてないんだから、あんた自身の問題だと思うけどね。」 「・・・。」 「まぁいいさ。さ、もう行きなよ。善は急げさ。」 「ああ。」 ・・・フォローのつもりだろうか。 何にせよ、これで何処に行くのかは固まった。 探すのは簡単だ、バルログの居場所などすぐに見つかる。 あれだけ長く一緒にいたのだから。 後はそこに向かうだけだ。 「じゃあな。」 「じゃ、戻ってきたくなったらいつでもどうぞ。・・・みんなと一緒に来たほうがいいだろうけど。」 この後すぐに飛び立った。 こっちを見ているようだったが、すぐに戻っていった。 よく考えたら飛んでいかなくても、ワープできる、ということに気づいたのはその後のことだった。 降り立った場所は、二階建ての家が一つあるだけの小さな島だった。 周りを見渡すのは容易なほど小さい島だ。 色々と見ているとドアが開いた。 どうやら来ることがわかっていたらしい。 あれだけ一緒に長くいたのは、あっちも同じことだった。 「ヘーイ!やっと来たんだね!もう来ないんじゃないかと思ってたよ!」 長く共にいるが、デリカシー、という言葉をそろそろ知って欲しい。 あの二人もいる。 ・・・覚悟はしていたが、やっぱり少し怖い。 何も言い出せないでいた。 「何度も会ってるだろうけど、名前知らないよね?ミザリーは。」 「ああ・・・。」 「男の子の方がクォート、女の子の方がカーリーだよ。」 「よろしく・・ってのも何だか変ね、初めてじゃないのに。」 カーリーが話しかけてきた。 「・・・。」 喋る勇気はなかった。 「緊張してるよね、色々あったし。まぁ最初はこんなもん、とは思ってたし。徐々に慣れていけばいいよ。」 彼女は、微笑みながらそう言った。 どうだろうか・・。 慣れられるだろうか・・・。 不安な考えばかりが頭に浮かんでいる。 「やぁ。」 次はクォートの番だった。 「・・・。」 「ここに来たって事は色々と考えがまとまったって事だよね。」 「・・・ああ。」 「色々あったけど・・・、僕たちはそんなに気にしてない。ここでは自由に過ごしてもらってかまわないよ。」 「でも・・・。」 「でも、は無し。あんな事があって気にしてない、なんておかしいけどさ、いつまでも気にしてたら永遠に分かり合えないしね。」 「・・・。」 「まぁ、ここでは気にしないで暮らして欲しい。バルログもいるからすぐに慣れるさ。」 二人とも優しい言葉をかけてくる。 本心から言っているのだろう。 それが逆に辛い。 (どうすればいい・・・?) さっきのミミガーの言葉が浮かんでくる。 (あんた自身の問題だと思うけどね) わかっている。 そう思っていても、簡単には言葉にも、態度にも出せない。 黙って佇んでいることしか出来ない。 「何にせよ、今度からは普通に暮らせるじゃない?気にしないでいこうよ〜。」 バルログが言った。 「何度も言うな・・。わかってるよ。」 「わかってるなら早く家に入ろうよ。御馳走が待ってるんだしさ。」 「お前が食べたいだけだろ・・・。」 「そういうのグサッとくるよ、デリカシーがないなぁ、ミザリーは。」 「(それはお前にだけは言われたくなかった・・・)」 「何か言った?」 「いや・・・。」 「もういいから早く家に入ろう!こんなとこにずっと居ても仕方ないよ!」 相変わらずだな・・・、こいつは。 いつもと全く変わらない。 しかし、気が楽になっていた。 バカな奴だけど・・・。 ずっと一緒に居たんだっけ・・・。 ちょっと前に踏み出す勇気が出てきた。 そんなにすぐには変わらない。 ・・・でも、確実に変われる。 そんな気がした。 クォートはすでに家に戻っている。 「早くいこっ。」 カーリーに腕を引かれた。 どうだろうか? 慣れられるだろうか? 同じ事を考えていたが、不安な気持ちは無くなっていた。 「ねぇ。」 バルログに呼び止められる。 「・・何だ。」 「おかえり。」 「・・・ただいま。」 少し笑っていたような気がした。