316 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/05/31(水) 00:52:14 ID:???
E P I S O D E : 4 「 雨 、 し ば し の 静 寂 」
E P I S O D E : 4 「 雨 、 し ば し の 静 寂 」
――ブゥウウン
「NERV技術者の民間企業への派遣・・・これはNERV司令の権限を逸脱している」
「碇・・・一体どういうことか説明してもらおうか」
「碇・・・一体どういうことか説明してもらおうか」
人類補完委員会――現在の国連の最高幹部会であり、NERVの直属の上位組織である。
「詳細は報告書のとおりです。使徒殲滅を優先しました」
暗い防諜室内では、碇ゲンドウの表情は伺えない。そばに立つ冬月も同じだ。
「・・・言い訳にはもっと説得力を持たせたまえ」
「左様、本来エヴァが殲滅すべき使徒を、民間の兵器が迎撃することとは、我々のシナリオにはない」
「何のために我々が多額の費用をかけたと思っている。これでは先行投資の意味がない」
「エヴァはまだテストタイプである初号機しか実戦投入はできません。
この状態でエヴァが敗北した場合、我々の補完計画に支障が出ます」
「左様、本来エヴァが殲滅すべき使徒を、民間の兵器が迎撃することとは、我々のシナリオにはない」
「何のために我々が多額の費用をかけたと思っている。これでは先行投資の意味がない」
「エヴァはまだテストタイプである初号機しか実戦投入はできません。
この状態でエヴァが敗北した場合、我々の補完計画に支障が出ます」
ゲンドウの答えに引き続き、冬月が答える。
「エヴァ一回の運営や修理には多額の費用がかかりすぎます。
第3新東京市の第六次建設計画が大幅に遅延している今、そちらに予算を投資すべきと思いますが」
第3新東京市の第六次建設計画が大幅に遅延している今、そちらに予算を投資すべきと思いますが」
「冬月先生、あなたの意見を聞いているわけではない」
「役に立たなければ無駄と同じだ。無駄使いと後ろ指を指されても仕方あるまい」
「左様、現に多数の餓死者を出している発展途上国からの批判の声は大きい」
「役に立たなければ無駄と同じだ。無駄使いと後ろ指を指されても仕方あるまい」
「左様、現に多数の餓死者を出している発展途上国からの批判の声は大きい」
「分かっております。ですが、戦闘指揮権をいまだ日本政府が掌握している以上、
我々NERVが動く事はできません」
我々NERVが動く事はできません」
317 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/05/31(水) 01:07:54 ID:???
「日本政府には現在国連側から圧力をかけている。」
「日本政府には現在国連側から圧力をかけている。」
キール・ローレンツ――補完委員会議長である。
「だが、日本政府は、例の民間兵器と戦略自衛隊による勝手な使徒迎撃作戦の成功で、
NERVの存在意義に対して疑念を持ち始めている」
「左様、NERVが技術者を派遣した事も
我々の立場を悪くするのにつながったのは紛れもない事実。
「現在も指揮権移譲を拒み、予算の捻出すらしぶり始めている」
「今後NERVがあの民間兵器に劣るようでは計画の頓挫すらありうる」
「左様、我々の計画実行のためには、エヴァと第3新東京市の能力を
見せ付ける必要があるのは自明じゃよ」
NERVの存在意義に対して疑念を持ち始めている」
「左様、NERVが技術者を派遣した事も
我々の立場を悪くするのにつながったのは紛れもない事実。
「現在も指揮権移譲を拒み、予算の捻出すらしぶり始めている」
「今後NERVがあの民間兵器に劣るようでは計画の頓挫すらありうる」
「左様、我々の計画実行のためには、エヴァと第3新東京市の能力を
見せ付ける必要があるのは自明じゃよ」
「日本政府からNERVへの指揮権移譲はまもなく行われるであろう」
「当然、君達が使徒迎撃に失敗することは絶対に許されん」
「日本政府が我々の妥協案を呑めば、例の民間兵器も君の指揮下となろう」
「当然、君達が使徒迎撃に失敗することは絶対に許されん」
「日本政府が我々の妥協案を呑めば、例の民間兵器も君の指揮下となろう」
「碇・・・君が新たなシナリオを作る必要はない」
「分かっております・・・全てはゼーレのシナリオどおりに・・・」
「分かっております・・・全てはゼーレのシナリオどおりに・・・」
318 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/05/31(水) 01:19:30 ID:???
――ブゥウウン
――ブゥウウン
定例報告会議が終わり、ゲンドウは椅子から立ち上がる。
「老人達の機嫌はすこぶる悪かったな」
「冬月先生・・・あなたのせいです」
「なに、いつも面倒ごとを俺に押し付けているお礼だ」
「冬月先生・・・あなたのせいです」
「なに、いつも面倒ごとを俺に押し付けているお礼だ」
そして、数時間後。
NERV、日重工、日本政府の三者の関係は大きく変わることになる。
NERV、日重工、日本政府の三者の関係は大きく変わることになる。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
――ザァァァァァァ・・・・
「徐行運転かよ・・・」
「仕方ないだろ?こんな大雨はめずらしいしな」
「仕方ないだろ?こんな大雨はめずらしいしな」
第3新東京環状七号線。リニアで動くモノレールだが、その速度は遅い。
その車両の窓の一つに、ロンゲ男とメガネ男の影が映る。
その車両の窓の一つに、ロンゲ男とメガネ男の影が映る。
「まぁ、俺達は時間がありあまってるからな」
「まさか今回もあのロボットが勝つとは思わなかったからなぁ。・・・お、三面そろったぞ」
「まさか今回もあのロボットが勝つとは思わなかったからなぁ。・・・お、三面そろったぞ」
日向はしゃべりながらルービックキューブを組み立てている。どうやらあれ以降ハマったらしい。
「発令所につめてるだけで給料が入るっていうのもアレだよな」
「確かにな。まぁでも、葛城さんは喜んでたけどな。ビールをケースで買い込んでたぞ」
「確かにな。まぁでも、葛城さんは喜んでたけどな。ビールをケースで買い込んでたぞ」
給料泥棒のよい例である。
319 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/05/31(水) 01:32:06 ID:???
「シンジくんたちも可愛そうだよな。連日訓練やってるのに、実戦はなしだもんな」
「そうか?俺としてはシンジ君たちが戦場に出ずにすむし、悪くはないと思ってたんだが」
「ん・・・そうだったな」
「シンジくんたちも可愛そうだよな。連日訓練やってるのに、実戦はなしだもんな」
「そうか?俺としてはシンジ君たちが戦場に出ずにすむし、悪くはないと思ってたんだが」
「ん・・・そうだったな」
二人の間に沈黙が訪れる。
作戦局の立場である以上、普段から子供たちを戦力としてしか
捉えていなかった自分に嫌悪する日向。
それに気づいた青葉がフォローしようと声をかける。
作戦局の立場である以上、普段から子供たちを戦力としてしか
捉えていなかった自分に嫌悪する日向。
それに気づいた青葉がフォローしようと声をかける。
「仕方のないことさ。あまり考えるなよ?」
「いや、・・・すまん、シゲル」
「いや、・・・すまん、シゲル」
NERVの大人たちの心情は複雑である。
世界を守ると自負し、厳しい試験の勝ち抜いて入ったNERV本部。
が、実際は民間のロボットが使徒を迎撃するのを見守るだけだった自分達。
しかし、一方で、エヴァを戦場にたたせることは、子供達を戦場にたたせることと同義。
延々と降り注ぐ雨は、彼ら二人ばかりでなくNERV職員皆を憂鬱にさせていた。
世界を守ると自負し、厳しい試験の勝ち抜いて入ったNERV本部。
が、実際は民間のロボットが使徒を迎撃するのを見守るだけだった自分達。
しかし、一方で、エヴァを戦場にたたせることは、子供達を戦場にたたせることと同義。
延々と降り注ぐ雨は、彼ら二人ばかりでなくNERV職員皆を憂鬱にさせていた。
気まずくしてしまった空気を換えようと日向が言葉をつむぐ。
「暇とはいえ、なかなか仕事も減るわけじゃないな」
「そうだな。自宅で洗濯できる日がくるとは思ってなかったよ」
「そういえば、来週は零号機の起動実験だな」
「あぁ。今回は成功するといいよな。前回は・・・」
「そうだな。自宅で洗濯できる日がくるとは思ってなかったよ」
「そういえば、来週は零号機の起動実験だな」
「あぁ。今回は成功するといいよな。前回は・・・」
再び訪れる沈黙。
自分達は、本当に何を守ろうとしているのだろうか。
ジェットアローンの存在は、思わぬ疑問をNERVに問いかけていた。
自分達は、本当に何を守ろうとしているのだろうか。
ジェットアローンの存在は、思わぬ疑問をNERVに問いかけていた。
326 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/06/02(金) 23:45:35 ID:???
「はぁ~、やっぱ本部は涼しいわねぇ~」
「はぁ~、やっぱ本部は涼しいわねぇ~」
完璧な空調設備による人類の勝利である。
先週から降り続いている雨は、今週になってもその勢いを落とさない。
これほど雨が降り続くのはなかなか珍しい事だ。
先週から降り続いている雨は、今週になってもその勢いを落とさない。
これほど雨が降り続くのはなかなか珍しい事だ。
「ねぇ、リツコ~、こんな大雨でNERVは大丈夫なわけ?ジオフロントとか水没しない?」
「あら、ここは外部から隔離されても自給自足できるコロニーとして作られているわ。
独立した系を持つから外の世界には関係ないのよ」
「いやぁ、分かってるけどさ~、この大雨でしょ?排水とかが溜まったら・・・なんて
考えちゃうじゃない。やっぱ地下だし」
「まぁ水没してもおそらく機能するでしょうね、ここは」
「げ、マジで?」
「NERVをなめないで頂戴」
「あら、ここは外部から隔離されても自給自足できるコロニーとして作られているわ。
独立した系を持つから外の世界には関係ないのよ」
「いやぁ、分かってるけどさ~、この大雨でしょ?排水とかが溜まったら・・・なんて
考えちゃうじゃない。やっぱ地下だし」
「まぁ水没してもおそらく機能するでしょうね、ここは」
「げ、マジで?」
「NERVをなめないで頂戴」
今日はエヴァ零号機の起動実験である。
「今日の実験、成功すればエヴァの配備数は二機になるわね」
「そうね。技術部としては実戦がなかった分日程が早まって、助かったわ」
「あの農協ロボのおかげで?」
「断じて違うわね」
「そうね。技術部としては実戦がなかった分日程が早まって、助かったわ」
「あの農協ロボのおかげで?」
「断じて違うわね」
リツコとしては未だに解せないのがジェットアローンと日重工の存在である。
確かに兵器開発企業ではあるが、しょせん民間の企業団体なのだ、
そこの開発したロボットが事実戦闘指揮権を握り、使徒二体撃破という
戦果まで挙げている。
その実地指揮にあたったのは、何を隠そうNERVとエヴァの存在を
否定する発言をした時田本人らしいのだ。
そのうえ、副司令である冬月は日重工への協力姿勢をとっている。
NERVとエヴァのテクノロジーに自信を持つ技術部長としては、
時田とジェットアローンは憎悪の対象にすらなりえていた。
確かに兵器開発企業ではあるが、しょせん民間の企業団体なのだ、
そこの開発したロボットが事実戦闘指揮権を握り、使徒二体撃破という
戦果まで挙げている。
その実地指揮にあたったのは、何を隠そうNERVとエヴァの存在を
否定する発言をした時田本人らしいのだ。
そのうえ、副司令である冬月は日重工への協力姿勢をとっている。
NERVとエヴァのテクノロジーに自信を持つ技術部長としては、
時田とジェットアローンは憎悪の対象にすらなりえていた。
327 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/06/03(土) 00:09:12 ID:???
「これより、零号機の再起動実験を行う」
「これより、零号機の再起動実験を行う」
ゲンドウの低い声が実験室に響く。
前回の暴走から僅か二週間足らず。
出撃がなかったNERV技術部はその鬱憤を零号機修復にぶつけ昇華した結果である。
前回の暴走から僅か二週間足らず。
出撃がなかったNERV技術部はその鬱憤を零号機修復にぶつけ昇華した結果である。
「第一次接続開始」
――グゥゥゥゥウウウウウウン
実験窓の向こう側の橙色の巨人がうねりをあげる。
『主電源コンタクト』『稼動電圧、臨界点を突破』・・・・
すでに二度、同じ大型人型兵器の活躍を目の当たりにしている。
焦りと祈りの入り混じった心情が、再起動を始めたエヴァ零号機に向けられる。
焦りと祈りの入り混じった心情が、再起動を始めたエヴァ零号機に向けられる。
『絶対境界線まで、あと2.5、1.7、1.2、1.0、0.8、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1・・・・突破』
「ボーダーラインクリア、零号機、起動しました」
「ボーダーラインクリア、零号機、起動しました」
職員の面々に安堵の表情が浮かぶ。
「了解、引き続き連動実験に入ります」「了解」
とりあえず山場は越えたことになる。あとは微妙な誤差修正をしていくだけだ。
「じゃ、リツコ、アタシとシンジくんはこれで行くわね」
「分かったわ。データが出たらあなたの端末に送っておくわ。ちゃんと確認しておいて頂戴」
「はいはい、これであの農協ロボを出し抜けるわね」
「分かったわ。データが出たらあなたの端末に送っておくわ。ちゃんと確認しておいて頂戴」
「はいはい、これであの農協ロボを出し抜けるわね」
ミサトに限らず、誰もが心中でジェットアローン打倒を意気込んでいた。
打倒すべき相手を間違っているのではないか、そう考えたのはシンジだけである。
打倒すべき相手を間違っているのではないか、そう考えたのはシンジだけである。