566 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/07/19(水) 22:58:58 ID:???
――グゥゥゥン グゥゥン
――グゥゥゥン グゥゥン
いつも聞こえる夜夏の虫の音にかわり、双子山から聞こえてくるのは、特殊電気車両群の放つくぐもった低音だけだ。
すでに技術者たちの影はなく、さきほどまで地面を照らしていた大型LED灯も、明かりを落としてすっかり暗闇に溶け込んでいる。
すでに技術者たちの影はなく、さきほどまで地面を照らしていた大型LED灯も、明かりを落としてすっかり暗闇に溶け込んでいる。
『…まもなく午前零時零分、零秒をお知らせします』
その暗闇に混ざって大きな影が二つ。
ひとつからは水蒸気の吐出音が聞こえ、ひとつからは特殊重合装甲のきしむ音がわずかになっている。
だが、それらの音も電気車両からの雑音で気配を消されてしまい、大きな影たちは、まるで息を潜めているようにも見える。
ひとつからは水蒸気の吐出音が聞こえ、ひとつからは特殊重合装甲のきしむ音がわずかになっている。
だが、それらの音も電気車両からの雑音で気配を消されてしまい、大きな影たちは、まるで息を潜めているようにも見える。
――ピッ、ピッ、ピッ …ピィーっ!
午前零時を知らせる時報がなる。
そして。
「シンジくん、日本中の電力、あなたに預けるわ!頼んだわよ!
ヤシマ作戦、 スタートっっ!!!」
567 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/07/19(水) 23:00:31 ID:???
『第一次接続開始!』『了解、第一次接続開始、東北ブロック接続!』『第1から第803区間まで送電開始!』
『第一次接続開始!』『了解、第一次接続開始、東北ブロック接続!』『第1から第803区間まで送電開始!』
「葛城さん、送電開始しました!」
「そう、続けてJA一号機、行かせてっ!」
「そう、続けてJA一号機、行かせてっ!」
「主任、葛城部長より行動開始サインです」
「よし!…ジェットアローン一号機、前進全速!目標、第3新東京市!進めっ!」
「よし!…ジェットアローン一号機、前進全速!目標、第3新東京市!進めっ!」
――…ガシンッ!……ガシンッ!・・ガシン!ガシン!ガシン!ガシン!
最初はゆっくりと、そして徐々に速度を上げながら、第3新東京市に向かってJAは走り始める。
『JA、作戦予定通り、第五使徒に接近中!第3新東京市侵入まで、あと1000!』
『第3新東京市、迎撃システムの主要防衛遮蔽壁は、展開準備に入ります!』
『第3新東京市、迎撃システムの主要防衛遮蔽壁は、展開準備に入ります!』
「ここまでは問題なし、か。日向くん、ポジトロンライフル、起動は?」
「あと0.2、いえ、たった今起動電圧に到達しました!」
「じゃぁこっちも行くわよ!ポジトロンライフル起動開始!」
「あと0.2、いえ、たった今起動電圧に到達しました!」
「じゃぁこっちも行くわよ!ポジトロンライフル起動開始!」
『陽電子砲、システム、起動シーケンス開始!』『第1から第4電源までの電力供給開始!』
『質量センサ、第五使徒を捕捉!MAGIにデータ送る!』『問題なし、フェーズ2、陽電子生成プロセスへ移行!』
『質量センサ、第五使徒を捕捉!MAGIにデータ送る!』『問題なし、フェーズ2、陽電子生成プロセスへ移行!』
何せ急ごしらえの兵器だ、当然アナウンスの量もとたんに増える。
陽電子生成中に事故が起これば使徒殲滅どころか、初号機も危ない。
陽電子生成中に事故が起これば使徒殲滅どころか、初号機も危ない。
『臨界電圧突破!』『目標に以前変化なし!沈黙を守っています!』
『JA、第3新東京市、南ブロックへ到達!目標の完全有効射程内です!』
『JA、第3新東京市、南ブロックへ到達!目標の完全有効射程内です!』
568 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/07/19(水) 23:02:10 ID:???
「…おかしいわね。青葉二尉、使徒に加粒子砲の兆候は?」
『はい、今のところ衛星、地上の両センサーも赤外線は感知していません。ほか、各種レーダーも異常なしです』
「…使徒には知能があった、というのは間違いだったのかしら…。でもMAGIの判断は…」
「…おかしいわね。青葉二尉、使徒に加粒子砲の兆候は?」
『はい、今のところ衛星、地上の両センサーも赤外線は感知していません。ほか、各種レーダーも異常なしです』
「…使徒には知能があった、というのは間違いだったのかしら…。でもMAGIの判断は…」
青葉率いるNERV本部内発令所では、使徒の加粒子砲の兆候を見逃さないよう、第3新東京市の各種レーダー、センサーの
ほとんどすべてを使って第五使徒を捕捉している。万が一の捕捉洩らしはないはずだ。
ほとんどすべてを使って第五使徒を捕捉している。万が一の捕捉洩らしはないはずだ。
『陽電子砲、全加速器運転開始』『強制収束機、作動!』『第三次接続、問題なし!』
『陽電子流入、順調なり!』『零号機、リニア発射位置へ』
「葛城さん、零号機、射出準備完了しました。JAもそろそろB-15へ差し掛かります」
『陽電子流入、順調なり!』『零号機、リニア発射位置へ』
「葛城さん、零号機、射出準備完了しました。JAもそろそろB-15へ差し掛かります」
いよいよ問題の区間だ。使徒が攻撃してくるとしたらこの間が一番確率が高いとMAGIははじき出した。
第3新東京市の防御遮蔽壁なしに走りきらなければならない。
第3新東京市の防御遮蔽壁なしに走りきらなければならない。
「…JA、射出準備ポイント通過しましたっ!」
「いいわね、レイ!リニア電源オン、零号機、射出!」
「いいわね、レイ!リニア電源オン、零号機、射出!」
地上を走るJAとタイミングをあわせて合流するよう、零号機がリニアレールを上っていく。
だが、そのとき。
だが、そのとき。
『目標内部に高エネルギー反応っっ!!!』
「なんですって!!!時田主任っ…!」
「なんですって!!!時田主任っ…!」
『わかってる!』
ついつい上司であるということも忘れて叫んでしまう時田。が、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「よしっ!加藤、ジェットアローン一号機、電磁バリアー展開だっ!」
「はいっ!ジェットアローン、電磁バリアー展開しますッ!!」
「はいっ!ジェットアローン、電磁バリアー展開しますッ!!」
569 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/07/19(水) 23:04:00 ID:???
走行しているJAの腕部が光り始める。と、路上の乗用車がものすごいスピードでJAの腕に引き寄せられていく。
走行しているJAの腕部が光り始める。と、路上の乗用車がものすごいスピードでJAの腕に引き寄せられていく。
「電磁バリアー、まもなく電圧極大値に到達ッ!」
そのまま乗用車はJAの腕部の装甲にぶつかり、グシャリと音をたてて大破する。
いまや乗用車だけではない、鉄を含むあらゆるものがJAの腕に引き寄せられていた。
いまや乗用車だけではない、鉄を含むあらゆるものがJAの腕に引き寄せられていた。
「エヴァンゲリオン零号機、合流します!」
JAが零号機射出口に到達しようとしたまさにそのとき。
―― …バシュ――――ンっ!!!!!!
一瞬、フラッシュのような閃光のあと、一筋の光の軌跡が、JAそして射出口を目指して放たれる。だが――
「…て、敵、加粒子砲、軌道湾曲!北北東の空へ消えてきますっ!!!電磁バリアー成功です!!!」
ちょうどJAの頭部を掠めるように加粒子ビームは湾曲し、その光の筋は漆黒の闇へと消えていく。
『よっしゃぁっ!』『いいぞ!』『さすが俺たちのJA!』『グッジョブ日重工!』
ミサトを皮切りに、NERV職員から日重工の技術者たちが、ビームをそらしたJAの姿にそろって歓声をあげる。
あの加粒子砲さえなければ、作戦の勝機は一気に跳ね上がる。
そして、この直後、無線にあふれる歓声の中で零号機は地上へと射出された。
あの加粒子砲さえなければ、作戦の勝機は一気に跳ね上がる。
そして、この直後、無線にあふれる歓声の中で零号機は地上へと射出された。
570 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/07/19(水) 23:06:15 ID:???
「零号機、射出完了!外部電源パージ、JAと併走開始!」
「零号機、射出完了!外部電源パージ、JAと併走開始!」
ガッツポーズをしている上司を横目に、日向が状況を伝えて零号機に指示を伝える。
――ガシンガシンガシン! ――ガシャンガシャンガシャン!
二つの巨大な影が兵装ビルの間を抜けていく。そして、その一方の影をさまざまな鉄含物があとを追いかけている。
「目標内部に再び高エネルギー反応です!おそらく第二射!」
「何度でもかかってらっしゃーいっ!こっちにはJAの磁場とエヴァのATフィールドがあるんだから!」
「何度でもかかってらっしゃーいっ!こっちにはJAの磁場とエヴァのATフィールドがあるんだから!」
ミサトはいまだに興奮気味だ。あえて電磁バリアーというダサい名称を避けているところがミサトらしい。
だが、そう安心してもいられない。日向がポジトロンライフルの状況アナウンスをスピーカーに出す。。
だが、そう安心してもいられない。日向がポジトロンライフルの状況アナウンスをスピーカーに出す。。
『陽電子の円環加速、限界値まであと35!』『第七次接続、全エネルギーポジトロンライフルへっ!』
「葛城さん、こっちも出番ですよ!」
「そうね。いよいよこっちが攻撃にでる番ね。シンジくん、インダクションモードに切り替えて!」
『はい!』
「そうね。いよいよこっちが攻撃にでる番ね。シンジくん、インダクションモードに切り替えて!」
『はい!』
今のところ、陽電子砲への給電に問題はない。冷却機能の理論値を超えた発熱だが、それでもまだ大丈夫なようだ。
「最終安全装置解除、激鉄、起こせ!」
ガシャンと大きな音を立てて、特注ヒューズ――これはNERVと日重工の両技術者たちの意向で作られたものだ――が
ポジトロンライフルに充填される。
ポジトロンライフルに充填される。
一方、使徒も次なる攻撃を放つ。
『目標、加粒子砲、来ますっ!!!』
571 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/07/19(水) 23:08:04 ID:???
―― …バシュ――――ンっ!!!!!!
―― …バシュ――――ンっ!!!!!!
わずかに先ほどと違う軌道を描いて空に消えていく第五使徒の加粒子砲。
どうやら使徒も軌道補正して撃ったようだが、零号機のATフィールドがより強くビームを偏向したようだ。
どうやら使徒も軌道補正して撃ったようだが、零号機のATフィールドがより強くビームを偏向したようだ。
『敵の第二射、回避!!』
「作戦どおりね!攻撃までは!?」
「陽電子砲発射まであと10秒っ!9!8!7!6!」
「作戦どおりね!攻撃までは!?」
「陽電子砲発射まであと10秒っ!9!8!7!6!」
だが、三度目、同じ警報音が鳴り響く。
『目標に高エネルギー反応っ!』
「……5、4、3、2、1っ!」
「ちっ、撃てぇぇぇ!」
「……5、4、3、2、1っ!」
「ちっ、撃てぇぇぇ!」
―― ピカッ…ブシュ――――ンっ!!!
バシュ――――ンっ!!
バシュ――――ンっ!!
緩やかな弧を描きながら、光の筋が第五使徒へ向かっていく。
だが、時を同じくして使徒からも、陽電子砲に比べれば弱いとはいえ、一筋の光が放たれる。
そして。
だが、時を同じくして使徒からも、陽電子砲に比べれば弱いとはいえ、一筋の光が放たれる。
そして。
―― ドッカ――――ンッッッ!
572 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/07/19(水) 23:17:57 ID:???
『第一射、命中ならず!』『敵攻撃、第7編電車群に命中っ!2車両が炎上中です!』
『第一射、命中ならず!』『敵攻撃、第7編電車群に命中っ!2車両が炎上中です!』
使徒の放った加粒子砲は陽電子と反発、軌道をそれて双子山の変電車両群に命中した。
想定もしていなかった思わぬ事態に、NERVオペレータたちから悲鳴に近い被害報告があがってくる。
想定もしていなかった思わぬ事態に、NERVオペレータたちから悲鳴に近い被害報告があがってくる。
『2487から2635区間までの給電システムダウンっ!出力がどんどん低下していきます!』
『冷却システム、限界値を突破!』『第15ハブ変圧装置、反応なし!』『周波数同調装置も7番機が応答なし!』
『冷却システム、限界値を突破!』『第15ハブ変圧装置、反応なし!』『周波数同調装置も7番機が応答なし!』
「伊吹二尉!第二射はっ!?」
「だめです、送電網に問題が発生しています!」
「復旧までは!?」
「給電ラインのバイパスをくみ上げるまでまだかかります!」
「だめです、送電網に問題が発生しています!」
「復旧までは!?」
「給電ラインのバイパスをくみ上げるまでまだかかります!」
一部の変電車が破壊されたことで、連鎖的に負荷の上昇が相次ぎ、陽電子砲への送電網がどんどん寸断されていく。
「ちっ、青葉二尉、B-18、Fビルにパレットガンを出して!
レイ!パレットガンを装備したら使徒に攻撃、その間JAは電磁バリアを展開、なるべくいいから時間を稼いで!」
レイ!パレットガンを装備したら使徒に攻撃、その間JAは電磁バリアを展開、なるべくいいから時間を稼いで!」
ミサトの判断は早かった。おとりの二機で使徒の気をそらすほかないと考えたのである。
レイもすばやく移動すると地下から現れたパレットガンを手にする。
だが、これを認める時田ではない。四の五の言える状況ではないのだが、子供を前線に出させるわけにはいかない。
レイもすばやく移動すると地下から現れたパレットガンを手にする。
だが、これを認める時田ではない。四の五の言える状況ではないのだが、子供を前線に出させるわけにはいかない。
「くっ、お嬢さん、JA一号機が護衛する!JAの影に隠れて射撃するんだっ!
「了解、零号機、攻撃開始します」
「了解、零号機、攻撃開始します」
時田の言葉に従い、JAの影から使徒へと攻撃をはじめる零号機。
バババババババッ!!
582 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/07/22(土) 22:18:08 ID:???
『零号機、目標への攻撃を開始しました!』『…っ!相転移空間確認!ATフィールドです!』
『零号機、目標への攻撃を開始しました!』『…っ!相転移空間確認!ATフィールドです!』
プラズマによる電磁誘導機構を用いて超高速で発射されたウラン劣化弾は、本来なら極めて貫通力と
破壊力に優れた兵器である。しかし、使徒のもつATフィールドの前では、ただ粉塵を巻き上げるほか効果はない。
破壊力に優れた兵器である。しかし、使徒のもつATフィールドの前では、ただ粉塵を巻き上げるほか効果はない。
「ダメです!目標にまるで効果がありません!」
「ちっ、やっぱりだめか。日向くん!復旧はまだなの!?」
「待ってください!早くてもあと400秒はかかりますっ!」
「なんですってっ!?」
「ちっ、やっぱりだめか。日向くん!復旧はまだなの!?」
「待ってください!早くてもあと400秒はかかりますっ!」
「なんですってっ!?」
もはや絶望的である。まもなく使徒の攻撃も再開されるだろうし、そうなれば零号機、JA一号機を失う可能性は高い。
特に零号機を喪失すると、ATフィールド中和を要とする接近要撃線は、今後困難を極める。
特に零号機を喪失すると、ATフィールド中和を要とする接近要撃線は、今後困難を極める。
「仕方ないわ。レイ、撤収して!青葉二尉、弾幕をはって、その隙にB-19で零号機を回収して!
それから時田主任、申し訳ないけど、あなたたちのJAにはもう少しがんばってもらうわ!
零号機回収後もおとりを続行!何でもいいから時間を!」
それから時田主任、申し訳ないけど、あなたたちのJAにはもう少しがんばってもらうわ!
零号機回収後もおとりを続行!何でもいいから時間を!」
ミサトが命令を出し終わるやいなや、兵装ビルから弾幕ミサイルが放たれ、同時に煙幕が張られる。
だが、それと同時に新しい警告音がなる。
だが、それと同時に新しい警告音がなる。
「今度はいったい何のよ!?」
『目標に再び高エネルギー反応です!おそらく第四射!標的は不明!』『敵シールド、ジオフロント内に侵入しました!』
『目標に再び高エネルギー反応です!おそらく第四射!標的は不明!』『敵シールド、ジオフロント内に侵入しました!』
「まずい!加藤、もう一度電磁バリアーの準備を…」
ちょうどJAと零号機は指定の回収ポッドまで到達しようとしているところだった。
時田が指示を出そうとしたそのとき、再び轟音とともに空が明るくなる。
時田が指示を出そうとしたそのとき、再び轟音とともに空が明るくなる。
「…?ど、どうした!?」
「主任!敵の加粒子砲攻撃です!Fビルに直撃した模様!」
「主任!敵の加粒子砲攻撃です!Fビルに直撃した模様!」
583 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/07/22(土) 22:22:31 ID:???
「まだなの!?急いで!!!」
「まだなの!?急いで!!!」
NERV専用指揮車両内。いまや全職員が陽電子砲給電システムの復旧にあわただしく戦況把握も遅れ始めた。
「葛城さん!日重工の副指揮車から入電です!」
「なんなのよ、このクソ忙しいときに!農協ロボはなにやってんのよ!」
「なんなのよ、このクソ忙しいときに!農協ロボはなにやってんのよ!」
二人の隣では、マヤとリツコが端末に向かい、MAGIに復旧の最適バイパスを計算させている。
『葛城部長!今から一分間、ミサイルで弾幕を張ってください!JAで接近戦に出ます!』
先ほどの爆音で、もしや加粒子砲が命中し大破したのではと思っていたミサトだが、時田の放った言葉はまったくその逆であった。
「な、何を言ってるんですかっ。指揮官は私です。私の指示に従ってください!」
『目標は、先ほどの攻撃をはずしました!いいですか、外したんです!おそらく目標は、赤外線を知覚して加粒子砲を撃っています!』
「え!日向くん!」
「はい!」
『目標は、先ほどの攻撃をはずしました!いいですか、外したんです!おそらく目標は、赤外線を知覚して加粒子砲を撃っています!』
「え!日向くん!」
「はい!」
日向が画面を確認する。確かに第四射の直撃で炎上しているのは、先ほどパレットガンを出した兵装ビルだ。
先ほどJAと零号機が立っていた地点と使徒とを結ぶ直線の延長上にある。
時田の言うとおりであれば、使徒は弾幕でJAと零号機の姿を赤外補足できず、唯一、射出の摩擦熱で高熱を発していた
兵装ビルを標的と勘違いして撃ったということになる。
先ほどJAと零号機が立っていた地点と使徒とを結ぶ直線の延長上にある。
時田の言うとおりであれば、使徒は弾幕でJAと零号機の姿を赤外補足できず、唯一、射出の摩擦熱で高熱を発していた
兵装ビルを標的と勘違いして撃ったということになる。
584 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/07/22(土) 22:25:45 ID:???
『葛城部長!おそらく弾幕を張りながら目標に接近すれば、目標の攻撃をもろに食らうことはありません!』
「………っ!」
『葛城部長!おそらく弾幕を張りながら目標に接近すれば、目標の攻撃をもろに食らうことはありません!』
「………っ!」
一瞬、情報が追いつかない。
確かに、第五使徒は攻撃する相手を選ぶとはいえ、今まで常に熱源に向かって攻撃している。
もし本当に彼の言うとおり赤外での知覚であれば、赤外線を飛ばしまくる弾幕の中を進む方法は敵の目を欺くには最適だ。
確かに、第五使徒は攻撃する相手を選ぶとはいえ、今まで常に熱源に向かって攻撃している。
もし本当に彼の言うとおり赤外での知覚であれば、赤外線を飛ばしまくる弾幕の中を進む方法は敵の目を欺くには最適だ。
「…だてに兵器作ってるわけじゃぁないってわけね…。赤木博士、どう思う?」
「確かに、絶対とはいえなくとも可能性は高いわ。今は時間を稼ぐのが最優先でしょう?葛城一尉」
「接近戦か…」
「確かに、絶対とはいえなくとも可能性は高いわ。今は時間を稼ぐのが最優先でしょう?葛城一尉」
「接近戦か…」
仮に接近に成功したとしてもATフィールドが健在ならば意味はない。だが、かなりの時間は稼げるだろう。
零号機でATフィールドを中和すれば接近戦も不可能ではないが、零号機のシンクロ率と喪失のリスクを考えれば得策ではない。
使徒が本当に赤外知覚なのか、それすら賭けに近いのに、さらに捨て身での接近戦という選択肢――
零号機でATフィールドを中和すれば接近戦も不可能ではないが、零号機のシンクロ率と喪失のリスクを考えれば得策ではない。
使徒が本当に赤外知覚なのか、それすら賭けに近いのに、さらに捨て身での接近戦という選択肢――
「わかったわ!今からもう一度弾幕を張ります。その間にJAは目標に可能な限り接近、陽電子砲第二射までの時間を稼いでください!」
こんな混乱の真っ只中でも人命を守りながら使徒殲滅を遂行しようとする。
――おそらく彼らも意地なのだろう。…私にはわからない、男の意地ってものがあるに違いない。
ミサトは無意識に、自分の父親のことを思い返していた。
585 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/07/22(土) 22:27:54 ID:???
―― ヒューン、ドッカーンっ!ヒューン、ドドーンっ! …
―― ヒューン、ドッカーンっ!ヒューン、ドドーンっ! …
再び小型ミサイルが雨あられと降り始める。それと同時に粉塵と爆風が空に舞い上がり、JAの姿を隠す。
『零号機、収容完了!』
「よし、今だ!JA一号機、目標に向かって全速前進!」
「よし、今だ!JA一号機、目標に向かって全速前進!」
すでに使徒の周りは粉塵と煙りで視界はさえぎられており、また続けて起こる大量のミサイルの爆発が多量の赤外線と熱を放出している。
爆発の中を進むJAだが、新作された装甲はJA二号機と同系同素材のものだ、この程度の爆発ではびくともしない。
爆発の中を進むJAだが、新作された装甲はJA二号機と同系同素材のものだ、この程度の爆発ではびくともしない。
「まもなく噴煙を抜けて敵の正面に出ます!」
光学モニターはもはや真っ黒だ。超音波センサーと短波レーダーで使徒を補足する。
「主任、弾幕抜けますっ!」
と、目の前に巨大な物体が現れる。第五使徒側部、ちょうど正八面体で”辺”の中央部分だ。
「位相空間は!?」
「相転移確認できず!ATフィールドは無展開です!いけます!」
「よし、とにかくぶん殴れ!」
「はい!JA!とにかくぶん殴れ!」
「相転移確認できず!ATフィールドは無展開です!いけます!」
「よし、とにかくぶん殴れ!」
「はい!JA!とにかくぶん殴れ!」
かつてはまどろっこしい言い回しに加えて、その復唱を行っていたが、三度目の使徒戦にはすでに復唱にしかその面影はない。
現場の判断、指示を最優先し、そこから下された命令を管制所にいるオペレータが解釈し、JAへ制御信号を送る。
反射行動や咄嗟回避といった人的制御のきかないJAを素早く確実に遠隔操作するために自然とこのスタイルに落ち着いた。
はたから見れば大の大人が大型ロボットに向かって叫ぶ姿は、その手のアニメの風景に酷似して見えるだろう。
現場の判断、指示を最優先し、そこから下された命令を管制所にいるオペレータが解釈し、JAへ制御信号を送る。
反射行動や咄嗟回避といった人的制御のきかないJAを素早く確実に遠隔操作するために自然とこのスタイルに落ち着いた。
はたから見れば大の大人が大型ロボットに向かって叫ぶ姿は、その手のアニメの風景に酷似して見えるだろう。
そして、文字通り、JAが使徒を”ぶん殴り”始める。
586 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/07/22(土) 22:30:10 ID:???
――ガツーン! バキーン!
――ガツーン! バキーン!
JAのパンチが使徒に向かって繰り出される。再三無力といわれてきた近接物理攻撃だが、
徐々に制御プログラムが洗練され、また出力も増したJAパンチは、その破壊力もかなりものになっている。
徐々に制御プログラムが洗練され、また出力も増したJAパンチは、その破壊力もかなりものになっている。
「日向くん、目標とJAの状況は?!」
「JAは目標に対し近接攻撃を実行中! しかし、やはり…未だダメージはありません」
「くぅ、なんとかそのまま黙ってもらえれば… リツコ、あとどれくらい?」
「MAGIがもう新しい送電網プログラムを組んだわ。あとは現場の技術者次第よ…」
「JAは目標に対し近接攻撃を実行中! しかし、やはり…未だダメージはありません」
「くぅ、なんとかそのまま黙ってもらえれば… リツコ、あとどれくらい?」
「MAGIがもう新しい送電網プログラムを組んだわ。あとは現場の技術者次第よ…」
587 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/07/22(土) 22:31:40 ID:???
JAが使徒の牽制攻撃に徹している間にNERVや戦自の技術者たちは電力網の復旧に全力を傾けていた。
JAが使徒の牽制攻撃に徹している間にNERVや戦自の技術者たちは電力網の復旧に全力を傾けていた。
「おい!消火器もってこぉい!炎上してる!」「感電するなよ!これを7番の(イ)のプラグにつなげ!」
「誰か熱ヒューズもってきてくれ!」「西日本はおおよそチェック終了だ!ぐずぐずするな!ハブシステム急げ!」
「誰か熱ヒューズもってきてくれ!」「西日本はおおよそチェック終了だ!ぐずぐずするな!ハブシステム急げ!」
――ガツーン……! バキーン……!
彼らの耳に入ってくるのは、遠く第3新東京市でJAの使徒を殴る音。やはり今回の使徒の表層も相当強硬なのだろう。
聞こえてくる音の大半を占める低い金属音はJAの手部装甲がへこむ音だ。
と、彼らのざわめきを塗りつぶすような大音量の警報アナウンスが流れる。
聞こえてくる音の大半を占める低い金属音はJAの手部装甲がへこむ音だ。
と、彼らのざわめきを塗りつぶすような大音量の警報アナウンスが流れる。
―― ビィ!ビィ!ビィ! ……目標に高エネルギー反応!加粒子砲第五射の可能性あり!
復旧にあたっている技術者は早急に退避せよ!繰り返す!早急に退避せよ……!
復旧にあたっている技術者は早急に退避せよ!繰り返す!早急に退避せよ……!
もし双子山を狙って撃ったのであれば装甲車の外に出て作業をしている技術者たちもその直撃を受ける。
人的被害を防ぐべく、指揮車両の大型スピーカーから緊急退避命令が繰り返されるのだが、誰もが持ち場を離れない。
いや、、離れられないのだ。
人的被害を防ぐべく、指揮車両の大型スピーカーから緊急退避命令が繰り返されるのだが、誰もが持ち場を離れない。
いや、、離れられないのだ。
「うるせぇ!誰かあのスピーカー壊せ!」「あと少しなんだ!あと少し…!!」「JAが頑張ってるんだ、負けられるかよ!」
「あと少しだ!チェック入れろ!」「動け、動け、動けぇ!!」
「あと少しだ!チェック入れろ!」「動け、動け、動けぇ!!」
ある者は重機を操って大破した変電車を押しのけ、ある者は両手に抱える太さのコンセントプラグをつなぎ、
ある者はハブ車両の端末に新しい送電制御命令を打ち込んでいく。
ある者はハブ車両の端末に新しい送電制御命令を打ち込んでいく。
もう一度日本中の電力を、陽電子砲に届けるために。
もう一度、使徒に勝つために。
もう一度、使徒に勝つために。
588 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/07/22(土) 22:32:57 ID:???
「葛城さん!退避が…!」
「…ちっ、うちの技術部も彼らに触発されたか…。 仕方ないわね!シンジくんそのまま第二射の準備に入って!」
『え?はい!』
「時田主任?JA2を防御体制へ!」
「葛城さん!退避が…!」
「…ちっ、うちの技術部も彼らに触発されたか…。 仕方ないわね!シンジくんそのまま第二射の準備に入って!」
『え?はい!』
「時田主任?JA2を防御体制へ!」
JA2が足を踏ん張り片手で大型防御シールドを構える。まるでローマ時代の兵士のようだ。
その足元、シールドの影で、腹ばいになっている初号機が再び陽電子砲の安全装置を解除していく。
その足元、シールドの影で、腹ばいになっている初号機が再び陽電子砲の安全装置を解除していく。
『作戦局!何とかできましたぜ!』
ちょうど通信に技術者たちから復旧完了の言葉が届く。
「ありがとう!あなたたちはいいから急いで退避して!時間がないわ!日向くん!第二射準備!」
「はい!初号機!激鉄起こせ!!!」
「はい!初号機!激鉄起こせ!!!」
一方、JAの攻撃も使徒に対して決定打にこそなってはいなかったが、僅かながらダメージを与えていた。
使徒の表面には小さいながらも亀裂が数本入っている。
使徒の表面には小さいながらも亀裂が数本入っている。
… … … パッッキーンっ!!!!
「また亀裂が入りました!あと少しで表皮に穴を破れそうです!」
「そのまま出力維持で攻撃続行だ!もうすぐ陽電子砲第二射がくる!そしたら緊急退避しろ!」
「そのまま出力維持で攻撃続行だ!もうすぐ陽電子砲第二射がくる!そしたら緊急退避しろ!」
安定した攻撃でただ一点を殴りつづけるJA一号機。やはり特殊合金といえど拳の装甲はぼろぼろになっている。
しかし、そのJAを尻目に第五使徒の内部高エネルギー反応の上昇はとどまるところを知らない。
しかし、そのJAを尻目に第五使徒の内部高エネルギー反応の上昇はとどまるところを知らない。
『目標!さらにエネルギー反応上昇!い、今までにないほどの高エネルギー値です!』
無線の向こう側でNERVの観測担当者が不安に声を荒げているのを時田は耳にする。 そして。
―― バシューン !!!
593 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/07/22(土) 22:54:26 ID:???
「目標から加粒子砲第五射、来ました!!!!」
「総員!対ショック体勢!!!陽電子砲は?」
「強制収束に入っています!あと30秒!!」
「目標から加粒子砲第五射、来ました!!!!」
「総員!対ショック体勢!!!陽電子砲は?」
「強制収束に入っています!あと30秒!!」
やはり緩やかに弧を描きながら、使徒の放った超高エネルギー粒子の塊は初号機、そしてJA2を目指して飛んでいく。
まるで引き寄せられるかのように光の筋はJA2のシールドへ衝突した。
まるで引き寄せられるかのように光の筋はJA2のシールドへ衝突した。
『加粒子砲、シールドへ直撃!融解していきます!』『空気分子がプラズマ化、推定最高温度6万度!』
『ダメです!まるでもちそうにありません!』
「まだ?!」
「…21,20秒前!円環加速最大!全エネルギー傾注!」
『ダメです!まるでもちそうにありません!』
「まだ?!」
「…21,20秒前!円環加速最大!全エネルギー傾注!」
『加速器、電圧臨界突破!極大値です!』『冷却機構、限界!』『シールド40%融解!!』
衝撃でゆれる車内で、必死に体勢を支えながら時田と加藤は、雑音に混じって所々聞こえてくるアナウンスを聞いていた。
「時田主任!このままじゃ!」
「待て!JA1はどうなってる!?」
「待て!JA1はどうなってる!?」
二人とも壁に張り付き手で体勢を支えながら、JA1のモニターを覗く。
「!?…これは!?」
「…まさか!?」
「…まさか!?」
594 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/07/22(土) 23:12:52 ID:???
「キャァ!」「うわぁ!」
「キャァ!」「うわぁ!」
同じくNERVの作戦指揮車も激しい揺れに襲われていた。
「リツコ、何なのこれ!」
「当然だわ!融解して蒸発したシールドの金属原子が衝撃波を起こしているのよ!!」
「葛城さん!発射まであと10秒!9!8!…」
「当然だわ!融解して蒸発したシールドの金属原子が衝撃波を起こしているのよ!!」
「葛城さん!発射まであと10秒!9!8!…」
すでに端末のモニターは緊急事態をあらわすEMERGENCYの文字でほとんど埋め尽くされている。
中央に表示されている発射までのカウントを示す数字は一桁になっている。もう0に近い。
中央に表示されている発射までのカウントを示す数字は一桁になっている。もう0に近い。
「5,4,さ…!?なんだ!?」
急にそのカウントにも”ERROR”の表示があらわれた。
「どうしたの?」
「だ、ダメです!加粒子砲の出力が強すぎます!…え?MAGIが軌道の再計算に入りました!」
「どうなってんの!!リツコ!!」
「使徒は先の攻撃で自らの砲撃が陽電子をそらすことを覚えたのよ!!MAGIの再計算が終わるまで待つしかないわ!」
「だ、ダメです!加粒子砲の出力が強すぎます!…え?MAGIが軌道の再計算に入りました!」
「どうなってんの!!リツコ!!」
「使徒は先の攻撃で自らの砲撃が陽電子をそらすことを覚えたのよ!!MAGIの再計算が終わるまで待つしかないわ!」
激しい揺れのなかでマヤとリツコが端末にしがみつき、状況を確認していく。
ふと日向が見やったJA2のシールドの融解率を示すモニタに写っていた数字は、89%。
ふと日向が見やったJA2のシールドの融解率を示すモニタに写っていた数字は、89%。
「か、葛城さん!もうシールドが…!」
595 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/07/22(土) 23:15:09 ID:???
日向がシールド融解を告げようとしたそのとき、車両の揺れがぴたりと止む。
日向がシールド融解を告げようとしたそのとき、車両の揺れがぴたりと止む。
「な、何が起きたの…??」
「どういうこと!?マヤ、状況は?」
「はい、今…え?え!?信じられません!も、目標の加粒子砲の軌道が…上空へ偏向されています!」
「…!」
「どういうこと!?マヤ、状況は?」
「はい、今…え?え!?信じられません!も、目標の加粒子砲の軌道が…上空へ偏向されています!」
「…!」
確かにモニターには、加粒子砲が一直線に上空に向かっている姿が映し出されていた。
誰もが状況を飲み込めない中、真っ先に我に帰ったミサトが指示を出す。
誰もが状況を飲み込めない中、真っ先に我に帰ったミサトが指示を出す。
「日向くん!陽電子砲はっ!?」
「あ、はいっ!…いけます、システムオールグリーンですっ!」
「シンジくん!いいわね! …ポジトロンライフル、第二射、発射ぁ!!!」
「あ、はいっ!…いけます、システムオールグリーンですっ!」
「シンジくん!いいわね! …ポジトロンライフル、第二射、発射ぁ!!!」
ミサトの掛け声とともに陽電子砲から光が放たれる。
そして、すべるように芦ノ湖上空を通過した光は――
そして、すべるように芦ノ湖上空を通過した光は――
―― ドッカァァァァーーン!
596 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/07/22(土) 23:29:21 ID:???
JET ALONE 戦闘報告
EPISODE:6 第五使徒
EPISODE:6 第五使徒
JET ALONE 01 中破 (両手腕部損壊)
JET ALONE 02 軽微 (防御シールド完全融解)
JET ALONE 02 軽微 (防御シールド完全融解)
エヴァ零号機 なし
エヴァ初号機 なし
エヴァ初号機 なし
特殊変電車両 5台
ハブ変圧装置 7機
周波数同調装置 2機
ハブ変圧装置 7機
周波数同調装置 2機
その他各種電気関連装置を破損。
第3新東京市の被害 防御遮蔽壁*3 (完全融解 )
兵装ビル*1 (完全融解)
ジオフロント防衛用特殊装甲 (第1~22までの装甲に貫通穴)
兵装ビル*1 (完全融解)
ジオフロント防衛用特殊装甲 (第1~22までの装甲に貫通穴)
その他各種関連施設に被害。人的被害はなし。
第五使徒 一部を残したまま撃破 第3新東京市にて解体予定
日本語認識システムKOZAIC7.ver3.0 for JA_Hi-SYS,JA2_Sf_SYS
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