704 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/09/12(火) 20:40:16 ID:???
第一研究所の管制室は、そもそもJAの各種運動実験のデータ観測を目的に作られているため、
第二研究所のそれとは大きく異なる。広い空間には、やや余裕を持って各種端末、装置がおいてあり、
前方にはモニタースクリーンのほか、のぞき窓から肉眼で確認するための観測所が備えられている。
第一研究所の管制室は、そもそもJAの各種運動実験のデータ観測を目的に作られているため、
第二研究所のそれとは大きく異なる。広い空間には、やや余裕を持って各種端末、装置がおいてあり、
前方にはモニタースクリーンのほか、のぞき窓から肉眼で確認するための観測所が備えられている。
「準備は?」
「JA一号機、二号機、ともに最終チェック完了、起動準備OKです」
「JA一号機、二号機、ともに最終チェック完了、起動準備OKです」
しかしながら、今回の実演公試運転では二体のJAを制御する。そのため、一号機の制御のために
わざわざデスクと端末を搬入しており、本来はスペースである部分にも端末各群が並べられている。
第一、第二の両職員が作業にあたっているが、床には大量のケーブルが這わされているために
不用意に歩き回ることもできない。
わざわざデスクと端末を搬入しており、本来はスペースである部分にも端末各群が並べられている。
第一、第二の両職員が作業にあたっているが、床には大量のケーブルが這わされているために
不用意に歩き回ることもできない。
「よし、一号機、起動、所定の位置まで移動!」
時田の掛け声とともに、各員が端末をたたく。すでに一号機の起動は手馴れたものとはいえ、
初めて外部の人間の目にさらされるのだ、職員の間にも気の緩みはない。
初めて外部の人間の目にさらされるのだ、職員の間にも気の緩みはない。
――ガシーンっ ガシーンっ
「歩行停止、JA一号機、予定位置にて停止しました!」「制御、駆動、動力、すべて問題なし!」
初めて目の当たりにする大型ロボットに、観測所から双眼鏡片手にJAを覗いているスーツ姿たちから
歓声があがる。
歓声があがる。
「皆さん、これよりジェットアローン二号機の公試運転ならびにJA二体による実演会を行います。
何ら危険はともないません。そちらの窓から安心してご覧ください」
何ら危険はともないません。そちらの窓から安心してご覧ください」
今日に至るまでありとあらゆるチェックをしてきた。二号機に不備はない――確信に満ちた声が響く。
「ジェットアローン二号機、起動!」
705 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/09/12(火) 20:45:16 ID:???
――ガシャーンっ! ウィィィィイイイイイン
――ガシャーンっ! ウィィィィイイイイイン
大きな地響きとともに管制所前方のケージビルが左右に開きはじめる。
と同時に、初めてその完成した姿を日の下にさらすJA二号機。
艶のある黒に塗られた装甲が、熱く照りつける陽光で鈍く光っている。
と同時に、初めてその完成した姿を日の下にさらすJA二号機。
艶のある黒に塗られた装甲が、熱く照りつける陽光で鈍く光っている。
「起動シーケンス、正常に実行中!」「N2リアクター、可動開始!回転数順調に上昇中!」
「二次冷却水、流速予定値に到達!」「全制御バス、接続確認!」「熱量160を突破!」
「二次冷却水、流速予定値に到達!」「全制御バス、接続確認!」「熱量160を突破!」
次々とモニターからの報告があがってくる。JAにとって、もっともトラブルが起きるのは、起動の最中だ。
すでに一度、実験で正常起動しているが、今回とて同じとは限らない。
各職員が注意深く自分の担当する部位のモニターを見つめる。
すでに一度、実験で正常起動しているが、今回とて同じとは限らない。
各職員が注意深く自分の担当する部位のモニターを見つめる。
「熱量192で安定!」「出力問題なし!」「動力伝達完了、、、、JA二号機通常モードで起動完了しました!」
ほっと一息つく時田。管制所内からは拍手もあがっている。
「まだ気をぬくな。 続いて、二号機、前進微速で歩行開始!そのまま所定位置へ移動!」
――ガシーンっ ガシーンっ! ……
ゆっくりと、だが確実に大地を踏みしめる黒い巨影。コンクリートの大地に広がるJAの影もあいまって、
見た目以上に巨大な存在が移動しているように見える。
見た目以上に巨大な存在が移動しているように見える。
「移動完了しました!」「脚部駆動系異常なし、リアクターも安定しています!」
ちょうど対峙するかたちで、一号機の前に立つ二号機。
二体の大型ロボットが向き合う姿は、実に壮大である。
二体の大型ロボットが向き合う姿は、実に壮大である。
「主任、JA両機に模擬戦闘プログラムを送り込む準備ができましたっ!」
706 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/09/12(火) 20:47:23 ID:???
今回の公試運転の目的は二つある。
一つは、欧米各国から派遣された軍関係者、首脳にJAの姿、そしてその有用性や安全性を訴えること。
そしてもう一つは、新たに着任するJA二号機の信頼性を、JA一号機の模擬戦闘を通して確認することだ。
今回の公試運転の目的は二つある。
一つは、欧米各国から派遣された軍関係者、首脳にJAの姿、そしてその有用性や安全性を訴えること。
そしてもう一つは、新たに着任するJA二号機の信頼性を、JA一号機の模擬戦闘を通して確認することだ。
模擬戦闘については、前々から職員の間でも意見が上がっていたのだが、JA一号機は、常時、第3新東京市にて
戦闘待機をしなければならず、また、二号機が第3新東京市に運送されたとしても、
安全性の面から、一般市民の住む町で模擬戦闘など許されるわけもなかった。
戦闘待機をしなければならず、また、二号機が第3新東京市に運送されたとしても、
安全性の面から、一般市民の住む町で模擬戦闘など許されるわけもなかった。
今回、二号機のロールアウトに合わせて、一号機、二号機ともに公開実験が行われることが国連で決まり、
一号機は、一時、ここ第一研究所に戻ってくることとなった。
これで模擬戦闘実験ができる、と日重工が一息ついたのも束の間。この実演会のあと、すぐに両機とも
第3新東京市へ着任、という旨が国連から伝えられたのだ。
そこで、実演会にあわせて模擬戦闘実験も行おうという案が第一研究所から時田に送られたのである。
一号機は、一時、ここ第一研究所に戻ってくることとなった。
これで模擬戦闘実験ができる、と日重工が一息ついたのも束の間。この実演会のあと、すぐに両機とも
第3新東京市へ着任、という旨が国連から伝えられたのだ。
そこで、実演会にあわせて模擬戦闘実験も行おうという案が第一研究所から時田に送られたのである。
失敗すれば、今までのJAの輝かしい実績の評価を失うどころか、大きな事故にもなりかねない実験である。
しかし、それでも実演会で模擬戦闘を行うことを決定したのは、ひとえに第一研究所の職員、ひいては日重工
の自信の表れともいえる。それだけ彼らは二号機にプライドを持っていたのだった。
しかし、それでも実演会で模擬戦闘を行うことを決定したのは、ひとえに第一研究所の職員、ひいては日重工
の自信の表れともいえる。それだけ彼らは二号機にプライドを持っていたのだった。
「ん、ゴホン。…これより、ジェットアローン一号機と二号機による模擬戦闘を行います。
もちろん、あくまで模擬戦闘ですので出力は落としてあります。何の危険もありません。
先ほど説明しました、二号機に新搭載のジェット・リフレクスの成果をご覧ください!」
もちろん、あくまで模擬戦闘ですので出力は落としてあります。何の危険もありません。
先ほど説明しました、二号機に新搭載のジェット・リフレクスの成果をご覧ください!」
つい、マイクを持つ手に力が入ってしまう。
自信満々に言い切ったものの、模擬戦闘で予想外の事故が起こるとも分からない。
不安と期待にはさまれつつ、時田は指示を出す。
自信満々に言い切ったものの、模擬戦闘で予想外の事故が起こるとも分からない。
不安と期待にはさまれつつ、時田は指示を出す。
「プログラム送信、、、模擬戦闘開始!」
707 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/09/12(火) 20:50:13 ID:???
―― ウィィィィィイイン
―― ウィィィィィイイン
静かに二体のJAが拳を構える。
無機質な動きだが、しかし、構えた姿はまるでお互いの隙をうかがっているかのようだ。
無機質な動きだが、しかし、構えた姿はまるでお互いの隙をうかがっているかのようだ。
「一号機、近接戦闘準備、目標JA二号機。両腕による攻撃を開始します」
一号機の制御を担当しているのは、加藤率いる第二研究所の職員達だ。
オフィスデスクの上に各端末を並べただけの急ごしらえの発令所から一号機へ指示をだす。
オフィスデスクの上に各端末を並べただけの急ごしらえの発令所から一号機へ指示をだす。
「二号機、近接戦闘準備、目標JA一号機。ジェット・リフレクスによる即時反射防御プログラムを展開しろ」
対する二号機の制御は、第一研究所の責任者、小松である。
彼も時田より若干若いエンジニアではあるが、二号機開発には設計から関わっている人間だ。当然、二号機への
愛着は誰よりも強い。彼は、二号機着任後には、時田をサポートのために第3新東京市に転勤が決まっている。
彼も時田より若干若いエンジニアではあるが、二号機開発には設計から関わっている人間だ。当然、二号機への
愛着は誰よりも強い。彼は、二号機着任後には、時田をサポートのために第3新東京市に転勤が決まっている。
時田は、彼らの後方でJA両機の状態をモニターしている。
彼も、JAの二体同時展開が基本となるだろう今後の使徒戦を想定し、不測の事態に備えていつでも指示を出せる
ように二つの機体の状態をチェックしているのだ。
彼も、JAの二体同時展開が基本となるだろう今後の使徒戦を想定し、不測の事態に備えていつでも指示を出せる
ように二つの機体の状態をチェックしているのだ。
「一号機、右腕による打撃開始!」
指示と同時に一号機が一歩前に踏み出し、右腕を二号機めがけて振りかざす。
いくら出力を落としているとはいえ、巨大な腕から繰り出される一撃は強烈だ。
いくら出力を落としているとはいえ、巨大な腕から繰り出される一撃は強烈だ。
―― フゥゥーン! ヒュゥッ!
708 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/09/12(火) 20:52:01 ID:???
だがしかし、一号機が放った拳はむなしく空を切る。
一号機の一撃があたる直前、二号機が膝を落として体制をずらしたからだ。
だがしかし、一号機が放った拳はむなしく空を切る。
一号機の一撃があたる直前、二号機が膝を落として体制をずらしたからだ。
「ジェット・リフレクス、正常に動作!」
二号機制御チームからは大きな歓声が上がる。
制御信号を送らずとも自動的に、そして瞬時に回避する――これこそが、彼らの目指したジェット・リフレクスの真骨頂なのだ。
二号機のモニターには、青のマーカーとともに「JR作動中」との文字が点滅表示される。
制御信号を送らずとも自動的に、そして瞬時に回避する――これこそが、彼らの目指したジェット・リフレクスの真骨頂なのだ。
二号機のモニターには、青のマーカーとともに「JR作動中」との文字が点滅表示される。
「一号機、そのまま第二撃だ!左腕にて打撃!」
さらに一号機が踏み込み、二号機めがけて拳を繰り出す。
が、今度は二号機が一歩引いて、攻撃をよけるどころか、一号機の腕をつかむと脇の間にはさみこむ。
が、今度は二号機が一歩引いて、攻撃をよけるどころか、一号機の腕をつかむと脇の間にはさみこむ。
「制御プログラム解釈は順調!目標を捕らえました!」
二号機制御チームが送出した命令信号は、単に目標を抱え込め、という抽象的な内容でしかない。
しかし、JA二号機はその命令をしっかりと解釈し、攻撃回避と同時に一号機の腕を捕らえるというもっとも効率的な方法で示した。
さすがに、遠隔操作のロボットがこれほど人に近い動きを見せるとは思わなかったのだろう。
観測所で模擬戦闘を見つめるギャラリーからも大きな歓声と拍手がわきおこる。
しかし、JA二号機はその命令をしっかりと解釈し、攻撃回避と同時に一号機の腕を捕らえるというもっとも効率的な方法で示した。
さすがに、遠隔操作のロボットがこれほど人に近い動きを見せるとは思わなかったのだろう。
観測所で模擬戦闘を見つめるギャラリーからも大きな歓声と拍手がわきおこる。
「一号機、安全保証数値内の最大出力で離脱行動!こっちも歴戦の戦いを見せてやれ!」
しかしながら、一号機も、今までの実戦で収集されたデータをもとに構築された、十数万パターンにわたる行動制御プログラムがある。
たとえ抽象命令をこなせずとも、戦い抜いてきたノウハウがあるのだ。瞬時に右肩の出力が上昇し、一気に後方へ離脱する。
たとえ抽象命令をこなせずとも、戦い抜いてきたノウハウがあるのだ。瞬時に右肩の出力が上昇し、一気に後方へ離脱する。
「一号機、リアクター出力+6.6!安全保証数値内です!」「離脱成功!姿勢制御系の瞬間負荷、誤差範囲内!」
「二号機、下半身駆動部に圧力!アブソーバーで衝撃吸収しました!」「目標を光学で再度補足!」
「二号機、下半身駆動部に圧力!アブソーバーで衝撃吸収しました!」「目標を光学で再度補足!」
今回の模擬戦闘は、名前こそ戦闘だが、あくまで二号機のジェットリフレクスと性能チェックが目的だ。
無論、回避行動の鈍い一号機に直接攻撃をしては大変なので、今回の実験では、一号機だけが攻撃を行い、
二号機は専守防衛に徹する予定である。
無論、回避行動の鈍い一号機に直接攻撃をしては大変なので、今回の実験では、一号機だけが攻撃を行い、
二号機は専守防衛に徹する予定である。
709 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/09/12(火) 20:55:21 ID:???
「…さすがに自信を持ってこの実演会でやるだけはあるわね…」
「そうね、思いのほかよくできたシステムだわ」
「そうね、思いのほかよくできたシステムだわ」
観測所のすみで、双眼鏡片手に二体のJAの組み手を見つめるミサトとリツコ。白と黒の影が会重するたびに
見学者達からは歓声とどよめきがおこる。
見学者達からは歓声とどよめきがおこる。
「そっれにしても、農協の次は、電車なんて…」
「…? …ミサト、それはどういう意味?」
「あれよ、あのモニター。JRって書いてあるじゃない。狙ってんのかしら?」
「…? …ミサト、それはどういう意味?」
「あれよ、あのモニター。JRって書いてあるじゃない。狙ってんのかしら?」
ミサトが指差す先は、二号機のモニタースクリーンだ。
二号機が回避運動をするたびにブルーのマーカーが光る。
二号機が回避運動をするたびにブルーのマーカーが光る。
「あぁ…国鉄ね」
「リツコ、何それ?」
「司令と副司令が言ってたわ。JRの前身の名前だそうよ」
「リツコ、何それ?」
「司令と副司令が言ってたわ。JRの前身の名前だそうよ」
無論、JRとは日本国有鉄道ではなくジェット・リフレクスの略である。
726 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/09/22(金) 00:04:48 ID:pr4NTiRI
―― ビィビィ…ピピっ
―― ビィビィ…ピピっ
「加藤、何の警告だ?」
時田の耳に入ってきたのは、一号機のモニターからの聞きなれぬ警告音だ。
「はい、…あれ、おかしいな。。。先ほど何かのアラートがなったのですが…」
「どうした?」
「モニターには何の異常も表示されてません。……制御、駆動、動力、すべてに問題ないです」
「どうした?」
「モニターには何の異常も表示されてません。……制御、駆動、動力、すべてに問題ないです」
依然、一号機と二号機は模擬戦闘を繰り返している。徐々に一号機が複雑な攻撃を繰り出していくのだが、
二号機もその動きに遅れることなく追従し、華麗な回避行動をとる。
二号機もその動きに遅れることなく追従し、華麗な回避行動をとる。
「念のため、各部を再チェック。それから重大な警告はログに残っているはずだ。ログを追跡してみてくれ」
もともと、どんな小さな問題でも必ずモニターに表示されるようになっているのだが、扱う情報量が膨大なだけに、
重要度に応じてその表示は入れ替わる。そのため些細な問題の場合でも、担当のオペレータが見逃さないように、
毎回警告音がなるように設定されている。
重要度に応じてその表示は入れ替わる。そのため些細な問題の場合でも、担当のオペレータが見逃さないように、
毎回警告音がなるように設定されている。
「上半身のチェック完了しました。上半身は、特には問題は発生していません」
「そうか。続けて、下半身駆動系とリアクター制御も頼む」
「分かりました」
「エラーのほうは?」
「ログ追っていますが……今のところ、それらしきエラーは見当たりません」
「そうか。続けて、下半身駆動系とリアクター制御も頼む」
「分かりました」
「エラーのほうは?」
「ログ追っていますが……今のところ、それらしきエラーは見当たりません」
今まで何度も一号機は起動、運用してきたが、警告音だけというのは初めてだ。
もっとも、実戦中はより多くの警告音に満ちるため、聞き逃していたということもないとはいえない。
しかし、仮にそうだとしても、今回は念には念を入れてチェックしたのだ。
もし、何らかの問題が発生したのだとすれば、それは未知の問題という可能性すらある。
もっとも、実戦中はより多くの警告音に満ちるため、聞き逃していたということもないとはいえない。
しかし、仮にそうだとしても、今回は念には念を入れてチェックしたのだ。
もし、何らかの問題が発生したのだとすれば、それは未知の問題という可能性すらある。
727 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/09/22(金) 00:18:23 ID:pr4NTiRI
「模擬戦闘プログラム、最終フェーズに入りました!」
「模擬戦闘プログラム、最終フェーズに入りました!」
いよいよ実演会での模擬戦闘も最後の演目となる。
最後を締めくくるのは、第四使徒戦の一号機の戦闘データをもとに構成されたプログラムで、
一号機は常に移動しながら二号機を攻撃、二号機は一号機の隙をうかがい最後に一号機を押さえつけて終了となる。
人間の格闘技ともとれる近接戦闘想定戦であり、両号機の動作手順も極めて慎重をもって組まれたものだ。
最後を締めくくるのは、第四使徒戦の一号機の戦闘データをもとに構成されたプログラムで、
一号機は常に移動しながら二号機を攻撃、二号機は一号機の隙をうかがい最後に一号機を押さえつけて終了となる。
人間の格闘技ともとれる近接戦闘想定戦であり、両号機の動作手順も極めて慎重をもって組まれたものだ。
「よし、みな最後まで気は抜くな。特にリアクター、可動部のモニターはしっかりチェックするんだ」
約150日間という、その連続稼働時間がウリのJAではあるが、もちろん戦闘継続可能時間がそれというわけではない。
どれだけ戦闘状態を持続できるかという点に関しては、実験のしようがなく、あくまでシミュレーションによって得られた
数字のみであり、実際、過去の使徒戦では、長時間の激しい動きに可動部のいくつかが疲弊してしまうということもあった。
もちろん、現段階で分かっている、あるいは予測しうる各駆動部、可動部の補強はすでに完了しているが、それはあくまで予測範囲内だ。
どれだけ戦闘状態を持続できるかという点に関しては、実験のしようがなく、あくまでシミュレーションによって得られた
数字のみであり、実際、過去の使徒戦では、長時間の激しい動きに可動部のいくつかが疲弊してしまうということもあった。
もちろん、現段階で分かっている、あるいは予測しうる各駆動部、可動部の補強はすでに完了しているが、それはあくまで予測範囲内だ。
今のところ、二号機のJ・リフレクスは正常に動作しており、その動作も時田たちの予想以上に軽快で正確だ。
今回の模擬戦闘プログラムでは、あくまでJA本体には負担をかけないよう、動作一つ一つは単純なものを選んでいる。
それらを組み合わせ、動きをおおぶりにすることで、派手なパフォーマンスとなるようにもしているのだ。
今回の模擬戦闘プログラムでは、あくまでJA本体には負担をかけないよう、動作一つ一つは単純なものを選んでいる。
それらを組み合わせ、動きをおおぶりにすることで、派手なパフォーマンスとなるようにもしているのだ。
「一号機、二号機右方向に回りこめ!側面から攻めるぞ。パワーで勝負だ!」
「二号機、一号機がうってくるまで距離を維持、まだ動くな。第一研の本気を見せてやろう!」
「二号機、一号機がうってくるまで距離を維持、まだ動くな。第一研の本気を見せてやろう!」
728 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/09/22(金) 00:20:47 ID:pr4NTiRI
二つのチームが、それぞれのJAを操りながら、予定の動作をこなしていく。
あくまで決められた動作を、制御プログラムを調整しながら実行しているだけだが、制御を担当している当の本人達は、
もはや模擬戦闘であることを忘れたかのごとく、子供のように自チームのJAに声を張り上げている。
二つのチームが、それぞれのJAを操りながら、予定の動作をこなしていく。
あくまで決められた動作を、制御プログラムを調整しながら実行しているだけだが、制御を担当している当の本人達は、
もはや模擬戦闘であることを忘れたかのごとく、子供のように自チームのJAに声を張り上げている。
「最終演目、勝負に出るぞ。最後の攻撃だ、一号機、右ストレート!」
「二号機、第二の連中の鼻をあかしてやれ!回避と同時に押さえつけろ!」
「二号機、第二の連中の鼻をあかしてやれ!回避と同時に押さえつけろ!」
声が交錯するのと同時に、両機は一気に間合いを詰める。
一号機がするどい右ストレートを出した束の間、二号機は腰を落とし一号機の一撃をよけ、
一号機の腹を抱きかかえるように押さえつける。
一号機の離脱行動をもろともせず、がっしりと押さえつける二号機。
一号機がするどい右ストレートを出した束の間、二号機は腰を落とし一号機の一撃をよけ、
一号機の腹を抱きかかえるように押さえつける。
一号機の離脱行動をもろともせず、がっしりと押さえつける二号機。
「あー!ちくしょう、結局一発も入れられずに終わりかぁ…」「わざわざプログラムを書き換えたのになぁ…」
「よぉし、これでこそJA改だ!」「ふ、ジェットリフレクスをなめるなよ」
「よぉし、これでこそJA改だ!」「ふ、ジェットリフレクスをなめるなよ」
一号機を操作していた第二研究所チームからは落胆の声があがり、一方、第一研究所からは歓声があがる。
本当に子供のようだなと思わず腕を抱えて苦笑いしてしまった時田だが、内心では模擬戦闘とJ・リフレクスの成功に
安堵のため息をついていたところだった。
本当に子供のようだなと思わず腕を抱えて苦笑いしてしまった時田だが、内心では模擬戦闘とJ・リフレクスの成功に
安堵のため息をついていたところだった。
「よし、模擬戦闘プログラム終了!各自、終了フェーズへ……」
そのときである。
―― ピィっ! ビューン………ガチャン、ガチャン…
729 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/09/22(金) 00:25:08 ID:???
「どうしたっ!?」
「どうしたっ!?」
一瞬甲高い音が鳴ったのも束の間、管制室のありとあらゆるモニターの表示が消える。
いや、モニターだけではない。電灯、端末、空調…あらゆる装置の電源が突然にして切れたのだ。
いや、モニターだけではない。電灯、端末、空調…あらゆる装置の電源が突然にして切れたのだ。
「まさか、、、停電か!?」
突然のことにギャラリーたちもざわめき始める。
「リツコ、、、これは…停電かしら?」
「まさか。いくら日重工でも予備電源ぐらいあるはずでしょう?」
「ちょっとアタシ聞いてみてくるわ。もしかしたら不足の事態かもしれない」
「まさか。いくら日重工でも予備電源ぐらいあるはずでしょう?」
「ちょっとアタシ聞いてみてくるわ。もしかしたら不足の事態かもしれない」
ミサトはやや薄暗い中を足元に気をつけながら時田の元へ歩いていく。
「なんだってっ!では、予備電源は!?」
「こちらも電圧がゼロです!」
「そんな馬鹿な!」
「こちらも電圧がゼロです!」
「そんな馬鹿な!」
思わぬ事態に日重工の面々も混乱状態となっていた。時田が必死に指示を飛ばし、状況の確認を行う。
幸いなことに、窓から差し込む日光が、管制室が暗闇に染まってしまうことを防いでいた。
幸いなことに、窓から差し込む日光が、管制室が暗闇に染まってしまうことを防いでいた。
「何があったのですか、時田主任!?」
「…!葛城部長!」
「…そちらの想定外の事態、ということですね?」
「…えぇ。現在確認中ですが、第一研究所全体の電源が落ちたようです」
「予備や副電源等の設備はないのですか?」
「一部実験棟にはディーゼル発電が備えられているのですが、、、」
「…!葛城部長!」
「…そちらの想定外の事態、ということですね?」
「…えぇ。現在確認中ですが、第一研究所全体の電源が落ちたようです」
「予備や副電源等の設備はないのですか?」
「一部実験棟にはディーゼル発電が備えられているのですが、、、」
暗い中でも時田の表情が曇るのが分かる。
730 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/09/22(金) 00:27:02 ID:???
「はぁ、、はぁ……し、主任!」
「どうだ?」
「はぁ…ん、ごほんっ!…ダメです!ディーゼルのほうも本館に接続できません!
地下のケーブルが断線しているか、本館の配電盤、変圧器が故障しているようです!」
「はぁ、、はぁ……し、主任!」
「どうだ?」
「はぁ…ん、ごほんっ!…ダメです!ディーゼルのほうも本館に接続できません!
地下のケーブルが断線しているか、本館の配電盤、変圧器が故障しているようです!」
日重工は、通常、外部の発電所からの送電に、その電源のおおよそを頼っている。
一方で、万が一の場合のために、本館にはディーゼル発電が備え付けられており、緊急時には
そこから最低限の電力を配電することができるようになっている。
そして、その手立てを失った今、日重工の施設の大半の電源は落ちてしまったのである。
一方で、万が一の場合のために、本館にはディーゼル発電が備え付けられており、緊急時には
そこから最低限の電力を配電することができるようになっている。
そして、その手立てを失った今、日重工の施設の大半の電源は落ちてしまったのである。
「すると、、、まともなのは南館だけか?」
「いえ、中央電算室も蓄電池で何とか稼動中です。といっても残り5,6時間で落ちてしまいますが…」
「いえ、中央電算室も蓄電池で何とか稼動中です。といっても残り5,6時間で落ちてしまいますが…」
日本重化学工業共同体が始まって以来、これほど大規模な停電は遭遇したことがない。
指示を出す時田も、このあまりに異常な事態に困惑を隠せずにいた。
指示を出す時田も、このあまりに異常な事態に困惑を隠せずにいた。
「仕方ない。まず南館第6実験室に電源を回せ。あそこなら空調がきくはずだ。来賓をそちらに誘導し…」
―― ゴォォ …ドッシィーンっ!!!!!!!
突然、大きな地響きが響き渡る。と、観測所からJAを見ていたはずのギャラリーから悲鳴が起こる。
「まさか…!?」
急いで観測窓に駆けつけた時田たちの目に入ってきたのは、豪快に倒れたJA二号機と、その脇を後方に向かって
歩いていくJA一号機の姿だった。
歩いていくJA一号機の姿だった。
「そんな馬鹿な………!」
731 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/09/22(金) 00:40:21 ID:???
「一号機が……暴走……!?」
「一号機が……暴走……!?」
仰向けに倒れている二号機を尻目に、多量の熱気を吐き出しながら、一号機は何かに取り付かれたように歩いていく。
「いかん!」
一番最初に現実に戻ったのは時田であった。
「水島!なんでもいい管制室に電源を引く方法を考えろ!村上たちは来賓の方々を南館へ可及的速やかに退避させてくれ!」
突然の時田の檄に、はじかれたように動き出す職員達。
「第二研究所職員と小松の班は、施設内のありったけのノートPCを探すんだ!」
停電下でのJA暴走という想定外の緊急事態。もはや困惑を通り越し、時田の頭は事態の打開のためフル回転していた。
732 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/09/22(金) 00:46:03 ID:???
「葛城部長!」
「な、なんでしょうか、主任」
「部長と、赤木博士も南館のほうへ避難してください。ここは暑くなるでしょうし、万が一の場合、暴走したJAが向かってくるとも
限りません。ここは我々が何とかします」
「…しかし!」
「今は使徒殲滅の作戦行動中ではありませんから、私は貴方の指揮下ではありません。
…最悪の事態は避けたい。今ここで争うことは時間の無駄でしかありません。人死にを出すわけにはいかないのです」
「葛城部長!」
「な、なんでしょうか、主任」
「部長と、赤木博士も南館のほうへ避難してください。ここは暑くなるでしょうし、万が一の場合、暴走したJAが向かってくるとも
限りません。ここは我々が何とかします」
「…しかし!」
「今は使徒殲滅の作戦行動中ではありませんから、私は貴方の指揮下ではありません。
…最悪の事態は避けたい。今ここで争うことは時間の無駄でしかありません。人死にを出すわけにはいかないのです」
いつになく、時田の目は真剣である。いや、声の落ち着きとは裏腹に、焦りがにじみ出ているといったところだろうか。
「…。…分かりました」
時田の言葉どおり、今は言い争っている場合ではない。ミサトの脇からリツコが時田に口をはさむ。
「時田主任、今のこの状況下で貴方達はジェットアローンを止められるのかしら?」
「…止めて見せますよ、、、必ず…必ずね」
「…止めて見せますよ、、、必ず…必ずね」
733 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/09/22(金) 00:47:58 ID:???
指示された第6実験室に向かうミサトとリツコ。
指示された第6実験室に向かうミサトとリツコ。
「ミサト、、、」
「えぇ、分かってるわ。…電源は、故意に落とされた」
「それも外部の人間がわざわざね」
「えぇ、分かってるわ。…電源は、故意に落とされた」
「それも外部の人間がわざわざね」
前を向きながらミサトが答える。
「そうね。考えかたによっては、NERV関係者っていう可能性もあるかも…」
「それはないわよ。まず第一に私達がここに招待されている。これは矛盾だわ」
「それもそうね…」
「それはないわよ。まず第一に私達がここに招待されている。これは矛盾だわ」
「それもそうね…」
リツコの否定に同意しながらも、ミサトは、彼女にとっての”最悪の事態”を考えていた。
もし万が一、JA一体が損失、ということになれば、使徒殲滅作戦へ大きな影響が出るのは考えるまでもない。
ミサトもリツコも、普段は敵視しているJAではあったが、今回の事態があまりに異常なものであるということは認識していた。
もし万が一、JA一体が損失、ということになれば、使徒殲滅作戦へ大きな影響が出るのは考えるまでもない。
ミサトもリツコも、普段は敵視しているJAではあったが、今回の事態があまりに異常なものであるということは認識していた。
「仕方ないわね」
ミサトは歩みを緩めると、ポーチから携帯電話を取り出す。
「ミサト、あなた………それはダメよ、いくらあなたの権限だからって、これはNERVの管轄外よ?」
「分かってるわよ。エヴァは出さないわ。ただ、、、、ね」
「分かってるわよ。エヴァは出さないわ。ただ、、、、ね」
そのままダイアルをプッシュする。
「あ、アタシよ。日向くん?悪いんだけど、ちょっと大事な頼みがあるの。
えぇそうよ。 そう。 …緊急事態よ」
えぇそうよ。 そう。 …緊急事態よ」