743 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/09/24(日) 21:38:36 ID:???
「加藤、まず一号機の暴走の原因を検討特定するんだ。小松たちのほうは二号機を動かす方法を考えろ」
「「分かりました」」
「加藤、まず一号機の暴走の原因を検討特定するんだ。小松たちのほうは二号機を動かす方法を考えろ」
「「分かりました」」
ついさっきまで興奮が満ちていた管制所の床には、第一研究所中から集められたノートPCやハブ、100V供給バッテリーパック
などが並べられ、そこから何本ものネットワークケーブルが中央電算室へと伸びていた。
先ほどまでJAの制御に使用されていた端末群は、裏のパネルなどが開かれ、おのおのの職員達が懐中電灯を照らしながら
内部の結線の一部をほぐし、ネットワークケーブルに接続しようと奮闘していた。
などが並べられ、そこから何本ものネットワークケーブルが中央電算室へと伸びていた。
先ほどまでJAの制御に使用されていた端末群は、裏のパネルなどが開かれ、おのおのの職員達が懐中電灯を照らしながら
内部の結線の一部をほぐし、ネットワークケーブルに接続しようと奮闘していた。
「JAの位置はっ?」
時田の手には紅白のメガホンが握られている。これは数年前の社内運動会で使われたもので、無線通信のできない
管制室内で古典的コミュニケーションツールの役割を与えられていた。
管制室内で古典的コミュニケーションツールの役割を与えられていた。
「すでに目視では限界っ!これ以上になると双眼鏡では詳細は得られませんっ!」
観測窓のそばで双眼鏡を片手にJA一号機を監視していた職員が叫び返す。彼が手にしているのは黒いメガホンだ。
すでにJA一号機は前進全速状態のまま、はるか遠く、熱せられた空気のゆらぎの向こう側に消えようとしていた。
すでにJA一号機は前進全速状態のまま、はるか遠く、熱せられた空気のゆらぎの向こう側に消えようとしていた。
――プルルルル、プルルルル
と、時田の作業着のポケットからLEDの点滅とともに電子音が漏れる。彼の携帯電話だ。
「もしもし、俺だ。。。な、なんだって!?……そうか、それで?…うむ。とりあえずほかに方法がないか調べてくれ。頼む」
通話を終わる時田の表情は先にもまして険しいものになっている。
「どうしたんですか?主任?また悪い知らせでも……」
「……本館の変電室の主分岐盤が、、、爆破されていたそうだ」
「爆破!?」「そんな…!!」「じゃぁこの停電は……」
「……本館の変電室の主分岐盤が、、、爆破されていたそうだ」
「爆破!?」「そんな…!!」「じゃぁこの停電は……」
職員の間にも動揺が広がる。――この停電は人為的なものなのだ。それも悪意をもった人間のだ。
744 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/09/24(日) 21:40:34 ID:???
「みんな、、、落ち着いて聞いてほしい」
「みんな、、、落ち着いて聞いてほしい」
時田が静かな声で話し始める。
「今回の停電……どこの誰かは分からないが、人の手によるものということが明らかになった。
最悪、何らかのテロ行為、、、という可能性もないとは言い切れない」
最悪、何らかのテロ行為、、、という可能性もないとは言い切れない」
――今混乱してはJAを止める術がなくなってしまう。
何度も学んできた、冷静であることの重要性。
何度も学んできた、冷静であることの重要性。
「だが、どうやら人的被害を出すのが目的ではないようだ。そして、この騒動の目的は、多分俺達のJAだ…と思う。
今は一号機を停止させるのが、今俺達がやらねければいけないことだ」
今は一号機を停止させるのが、今俺達がやらねければいけないことだ」
ここにいる人間は、戦場に立ってきた人間ばかりではない。中には恐怖を募らせている職員だっているだろう。
彼らを引っ張らなければいけないのは自分なのだ――時田は大きく深呼吸をして言葉を続ける。
彼らを引っ張らなければいけないのは自分なのだ――時田は大きく深呼吸をして言葉を続ける。
「JAを守らなければいけないのは俺達だ…なんとしてでも一号機を止めるんだ。みな、頼む」
時田の言葉が沈黙の中に浸透していく。
「作業を続けてくれ。時間がない」
だが、職員たちは感じていた。
――そんなことなど言わなくとも、自分達はついていくと。
745 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/09/24(日) 21:43:37 ID:???
停電から48分、JA一号機暴走から36分が経過していた。
すでに一号機の姿は観測窓からでは確認できない。そして、横たわる二号機は沈黙したままだ。
停電から48分、JA一号機暴走から36分が経過していた。
すでに一号機の姿は観測窓からでは確認できない。そして、横たわる二号機は沈黙したままだ。
『主任!電波塔まで電力回せるとのことです。通信復旧の見込みが立ちそうです!』
「分かった。こちらも何とか管制BIOSをPCで立ち上げられそうだ。復旧次第追って連絡する」
「分かった。こちらも何とか管制BIOSをPCで立ち上げられそうだ。復旧次第追って連絡する」
館内での連絡はもっぱら携帯電話に移行している。幸いというべきか、外部との回線連絡を担う交換機は
専用の予備電源で動いているため、日重工の研究所内では携帯電話が使用できる。もっともそれもいつまで続くとも分からない。
専用の予備電源で動いているため、日重工の研究所内では携帯電話が使用できる。もっともそれもいつまで続くとも分からない。
「おおよそ推定されうる位置はこのあたりだろうな」
「長距離無線が復旧するんでしたら、ヘリを使って追跡してみましょうか?」
「長距離無線が復旧するんでしたら、ヘリを使って追跡してみましょうか?」
時田と加藤が頭を悩ませているのは、一号機の現在位置だ。一号機の移動速度や放置区域の地形を考慮に入れ
地図の上でおおよその位置を検討してみたのはいいものの、結局確認する方法がない。
地図の上でおおよその位置を検討してみたのはいいものの、結局確認する方法がない。
「時田主任っ!」
と、管制室入り口から時田のほうに向かってくる女性が一人。
「葛城部長…なんでしょうか?」
この状況の中だ。あまり良い表情で返答できない。
「たった今、NERVが暴走中のジェットアローン一号機の位置を特定しました」
「なっ!…NERVが!?」
「今回の停電、暴走事件は、何らかの悪意を持ったテロ行為と我々は判断、万が一の場合、使徒殲滅作戦の影響が
出ないとも限りません。NERV作戦局並びに中央司令部は、今回の事件に収拾をつける支援を行うことを決定しました。
なお、これらはのことはすべて特例8に準拠します」
「なっ!…NERVが!?」
「今回の停電、暴走事件は、何らかの悪意を持ったテロ行為と我々は判断、万が一の場合、使徒殲滅作戦の影響が
出ないとも限りません。NERV作戦局並びに中央司令部は、今回の事件に収拾をつける支援を行うことを決定しました。
なお、これらはのことはすべて特例8に準拠します」
思わぬ申し出に面食らう時田。
だが、NERVの情報収集能力の高さが味方になるのであれば、これほど心強いものはない。
だが、NERVの情報収集能力の高さが味方になるのであれば、これほど心強いものはない。
746 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/09/24(日) 21:47:01 ID:???
「分かりました。ご協力お願いできますか?」
「もちろんです」
「分かりました。ご協力お願いできますか?」
「もちろんです」
停電のために空調がとまり、管制室は35度近い温度になっている。
「この状態ですので、NERVとは携帯電話による秘匿音声通信しかできませんが……」
しかし、ミサトの表情は崩れない。
「日向くん?現在位置を」
彼女の手にあるのはもちろん携帯電話だ。加藤はミサトの携帯電話の音声出力をPCのスピーカーから出すため、
音声変換ケーブルを彼女の携帯電話に取り付ける。
音声変換ケーブルを彼女の携帯電話に取り付ける。
『今しがた、IGS-4でも目標を補足しました。第一研究所から東に12kmの地点を平均時速31km程度で走行中です』
日向のアナウンスが、ノートPCの小さなスピーカーから鳴り響く。
「思いのほか速度が出ていないのが幸いだな」
「しかし、主任、このまま東に進むと……」
「あぁ、旧東京市の市街地にぶつかる可能性がある……」
「しかし、主任、このまま東に進むと……」
「あぁ、旧東京市の市街地にぶつかる可能性がある……」
その大半が放置区域として封地になった旧東京跡地だが、まだ東のほうには旧東京市が残存している。
時田の額には嫌な汗が浮かんでいた。
時田の額には嫌な汗が浮かんでいた。
770 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/10/02(月) 18:53:00 ID:???
すでに一号機の足音も聞こえてはこない。
加藤をはじめ、管制担当の職員たちがノートPCに一号機制御のための代替管制プログラムを
手動で書いていた。これも、時田の指示である。
すでに一号機の足音も聞こえてはこない。
加藤をはじめ、管制担当の職員たちがノートPCに一号機制御のための代替管制プログラムを
手動で書いていた。これも、時田の指示である。
「電算室から管制経由で主電波塔まで、、、ん?――デジタルでだ。…そうだ。。。あぁ。分かった」
時田は各所での復旧の指揮を携帯電話一つで行っている。一方で、手元のデスクにおいてあるラップトップからは、
NERVからの一号機追跡情報が次々と飛び込んでいた。
NERVからの一号機追跡情報が次々と飛び込んでいた。
――プルルルっ プルルルっ
時田が通話を終えるや否や、続け様に携帯電話が鳴り響く。
「俺だ」
『主任!小松です!』
『主任!小松です!』
電話口から届く彼の声の後ろから、いささか耳障りな騒音が聞こえてくる。
時田は、倒れこんだ二号機の状態を確認するため、彼ら、小松率いる二号機制御チームを現場へと向かわせていた。
その大きすぎる巨体のせいで、目の錯覚から二号機が倒れた地点は目の前にも感じるのだが、
実際には結構距離があり、徒歩ではちょっと辛い。
その大きすぎる巨体のせいで、目の錯覚から二号機が倒れた地点は目の前にも感じるのだが、
実際には結構距離があり、徒歩ではちょっと辛い。
『今、JA二号機のデバイスチェックに入りました!――見たところESSが働いたようで、二号機の
リアクターは完全に停止しているようです!』
リアクターは完全に停止しているようです!』
もともと国立第三試験場に限らず、旧東京の放置区域の移動手段はVTOLヘリが基本で、車両移動はめったにしない。
というのも、施設の一つ一つとの距離が遠い上に目印になるようなものもない場所だ。
車両移動などしようものなら、すぐにその広さのために迷ってしまう。
というのも、施設の一つ一つとの距離が遠い上に目印になるようなものもない場所だ。
車両移動などしようものなら、すぐにその広さのために迷ってしまう。
771 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/10/02(月) 18:58:57 ID:???
「分かった。今こちらも一号機との通信確立を目指して作業中だ。安全第一だぞ?万が一の場合もある」
「分かった。今こちらも一号機との通信確立を目指して作業中だ。安全第一だぞ?万が一の場合もある」
しかし、ヘリでは検査機器類を運ぶのに手間取ってしまう――いや、そもそも日重工には、長距離移動用の
旅客運搬ヘリしかなく、物資運搬用のVTOLは、生憎、第一研究所には配備されていない。
旅客運搬ヘリしかなく、物資運搬用のVTOLは、生憎、第一研究所には配備されていない。
そこで、彼らが目をつけたのは、本来は施設内での短距離物資運搬に使う、超大型の特殊運搬車両である。
今の時勢には珍しく、化石燃料だけで動くタイプで、普段はその燃料確保の面倒さから、超重量物を運ぶときに
しか使われていなかった。
今の時勢には珍しく、化石燃料だけで動くタイプで、普段はその燃料確保の面倒さから、超重量物を運ぶときに
しか使われていなかった。
だが、電気が使えない今、燃費の悪い電池型車両や充電型車両に比べると、その馬力ははるかに心強い。
しかも、もともとリアクターや大型アクチュエータなどの運搬を主用途に作られたためか、内部に発電機構まで
搭載している優れものなのだ。
これ幸いとばかりに、小松たちはありったけの人員と機材を乗せ、横たわる二号機へ横付けしたのである。
しかも、もともとリアクターや大型アクチュエータなどの運搬を主用途に作られたためか、内部に発電機構まで
搭載している優れものなのだ。
これ幸いとばかりに、小松たちはありったけの人員と機材を乗せ、横たわる二号機へ横付けしたのである。
『大丈夫ですョ!親を踏み潰すような躾はしてませんからね、ウチは……っと、今、デバイスチェック終わりました!
各装置、異常なしです。どうやら普通に耐衝緊急停止しただけのようです。起こしますか?』
各装置、異常なしです。どうやら普通に耐衝緊急停止しただけのようです。起こしますか?』
「主任っ!」
と、おもむろに加藤が端末群の影から頭を出し、通話中の時田を呼ぶ。
「加藤、ちょっと待て!…それで、小松、そのまま起動、目的命令信号を入力して、半自律行動させることはできそうか?」
二号機は、内部搭載の有機チップのおかげで、一号機に比べるとその制御信号の形式ははるかに簡素化されている。
うまく行けば、初期行動バッファに予めプログラムを走らせることで、一号機の追跡をさせることもできるかもしれない。
うまく行けば、初期行動バッファに予めプログラムを走らせることで、一号機の追跡をさせることもできるかもしれない。
『制御信号をなしでですか?二号機のリアクターは――』
「分かっている。二号機のリアクターは、10分以上管制から応答がなければ自動停止、だろう。
俺が言いたいのは……つまり、それをあえて外すんだ。…制限30分までゆるめて、一号機を追跡させられないか?」
「分かっている。二号機のリアクターは、10分以上管制から応答がなければ自動停止、だろう。
俺が言いたいのは……つまり、それをあえて外すんだ。…制限30分までゆるめて、一号機を追跡させられないか?」
772 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/10/02(月) 19:02:22 ID:???
出力の大きい二号機は、一号機以上にリアクター制御にシビアである。
唯一、リアクターは自律制御システムからは切り離された、安全重視の独自の制御系なのだ。
それを手動で緩めることは、管制からの制御なしでの、自律行動レベルを拡大する変わりに、
万が一の炉心融解のリスクを増やすことにも繋がりかねない。
出力の大きい二号機は、一号機以上にリアクター制御にシビアである。
唯一、リアクターは自律制御システムからは切り離された、安全重視の独自の制御系なのだ。
それを手動で緩めることは、管制からの制御なしでの、自律行動レベルを拡大する変わりに、
万が一の炉心融解のリスクを増やすことにも繋がりかねない。
『…30分、でいいんですね、主任…?』
「それ以上だと負荷がかかりすぎる。30分で追いつけなければ、、、意味がない…」
「それ以上だと負荷がかかりすぎる。30分で追いつけなければ、、、意味がない…」
微かな進路変更を繰り返しながら暴走を続ける一号機。
市街地到達まであとどれほどの猶予があるのかは分からないが、もし30分以上の追いつづけてもダメな場合、
一号機を破棄するしかない。
そして、それならば、二号機には負荷をかけるべきではないのだ。
市街地到達まであとどれほどの猶予があるのかは分からないが、もし30分以上の追いつづけてもダメな場合、
一号機を破棄するしかない。
そして、それならば、二号機には負荷をかけるべきではないのだ。
『…勝負、ですか』
横のPCから、またNERVから一号機の進路変更の報告が入る。
あくまで人の手で止めなければならない以上、急ぐべきは管制室の復旧である。
あくまで人の手で止めなければならない以上、急ぐべきは管制室の復旧である。
「あぁ…。時間との…な」
773 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/10/02(月) 19:09:03 ID:???
小松との通話を終えると、今度は足元に注意しながら加藤のもとまで歩いていく。
電灯なしの管制室はほとんど暗闇に近いが、天窓の僅かな日光とPCのモニタの光のおかげで、
かろうじて薄暗い管制室内でも作業できる。
小松との通話を終えると、今度は足元に注意しながら加藤のもとまで歩いていく。
電灯なしの管制室はほとんど暗闇に近いが、天窓の僅かな日光とPCのモニタの光のおかげで、
かろうじて薄暗い管制室内でも作業できる。
「書き終わりました。多分、これで大丈夫だと思います」
彼のモニターには黒をバックに緑の文字がびっしりと並んでいる。
停電のために完全に使えなくなった実験用管制システム。
それらの一部を代行するためのプログラムを、本来はシミュレーションに使う中央電算室内のコンピュータ上で走らせ、
一号機を緊急停止、暴走の原因を特定した上で管制を確保、試験場まで帰還誘導させる――
それらの一部を代行するためのプログラムを、本来はシミュレーションに使う中央電算室内のコンピュータ上で走らせ、
一号機を緊急停止、暴走の原因を特定した上で管制を確保、試験場まで帰還誘導させる――
限られた手段だけで、確実に事を進めるということ。
未だ電力の復旧する見込みがない以上、問題との長期戦は必死だ。
傍から見れば遠回りに見えるかもしれないが、この方法でしか一号機を完全に停止する方法はない。
未だ電力の復旧する見込みがない以上、問題との長期戦は必死だ。
傍から見れば遠回りに見えるかもしれないが、この方法でしか一号機を完全に停止する方法はない。
いや、少なくとも暴走の原因が判明しない今、尽くせる手段がこれぐらいしか思いつかなかったのだ。
「…よし、、、これで行こう」
774 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/10/02(月) 19:17:30 ID:???
蒸し風呂のようなうだった暑さの管制室へ、少しばかりの涼しい風が吹き込む。
先ほどまで照り輝いていた太陽は、その姿を雲の後ろに隠そうとしていた。
蒸し風呂のようなうだった暑さの管制室へ、少しばかりの涼しい風が吹き込む。
先ほどまで照り輝いていた太陽は、その姿を雲の後ろに隠そうとしていた。
さらに暗くなってしまった第一研究所の片隅で、小さな明かりが灯る。
「主電波塔へ電力供給開始」「東館の余剰電力はゼロ、これで限界だ」「電圧-0.2、矩形波に近いが安定してる」
水島たち率いる電気担当班が、手持ちの電卓と第三試験場の設計図から計算した方法に基づいて、
電波塔に予備電源からの電力を分配していた。
すでにディーゼル発電機の重油は、かなりの量を消費しつつある。
電波塔に予備電源からの電力を分配していた。
すでにディーゼル発電機の重油は、かなりの量を消費しつつある。
無論、携帯電話やノートPCなどのバッテリーも例に漏れず、その残量は目に見えて減ってきている。
すでに何名かに、第三試験場内の電気自動車両に搭載してあるであろう蓄電器をありったけ確保に向かわせたのが、
そもそも車両数が少ない以上、それにもあまり期待はできない。
すでに何名かに、第三試験場内の電気自動車両に搭載してあるであろう蓄電器をありったけ確保に向かわせたのが、
そもそも車両数が少ない以上、それにもあまり期待はできない。
「そうか、分かった…こちらも準備完了だ」
時田の通話の相手は、もちろん水島だ。
「あぁ、頼む……そうだ。何か異常が起きたらすぐに知らせてくれ」
今日一日で、もう何度目か分からない通話を終える。
すでに着信、発信履歴は見慣れた部下の名前ばかりだ。
すでに着信、発信履歴は見慣れた部下の名前ばかりだ。
775 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/10/02(月) 19:20:50 ID:???
「主任、電波塔は?」
「あぁ、今動いた。まずネットワークのチェック、それがグリーンだったら管制システムを起動してくれ」
「分かりました」
「主任、電波塔は?」
「あぁ、今動いた。まずネットワークのチェック、それがグリーンだったら管制システムを起動してくれ」
「分かりました」
加藤が先ほどとは別のノートPCに、コマンドを打ち込んでいく。
ほかのノートPCは節電のためにモニタの電源を落としているため、明かりは加藤の操るPCと時田のNERVとの連絡PCだけだ。
ほかのノートPCは節電のためにモニタの電源を落としているため、明かりは加藤の操るPCと時田のNERVとの連絡PCだけだ。
先ほどのNERVの報告によれば、一号機はやや南の方角に進路を変更したらしい。
進路がぶれるのは、おそらく長時間の歩行によるリアクターの排熱で、下半身の制御に乱れが出てきたためだろう。
このままでは、一号機の熱暴走の危険性もある。
進路がぶれるのは、おそらく長時間の歩行によるリアクターの排熱で、下半身の制御に乱れが出てきたためだろう。
このままでは、一号機の熱暴走の危険性もある。
「…主任、ネットワーク、オールグリーンです」
画面に表示されるいくつものOKの文字。
「…よし、管制システム、起動開始」
時田の掛け声と同時に、彼の指がエンターキィをはじく。
すべての機能、とまでは行かないが、実験用管制システムとほぼ同じ機能を汎用コンピュータ上で再現するため、
急遽、既存のコードを改変、コンパイルして造られたJA制御用のモニタリングシステム。
いつも見慣れている大型モニタや専用端末による機能制御分担こそできないものの、それでも理論上は管制システムとしての
役割は果たせるようになっている――
急遽、既存のコードを改変、コンパイルして造られたJA制御用のモニタリングシステム。
いつも見慣れている大型モニタや専用端末による機能制御分担こそできないものの、それでも理論上は管制システムとしての
役割は果たせるようになっている――
はずであった。
「ん…!?エラー!?」
「どうした?」
「どうした?」
加藤の声に時田が画面を覗き込む。
776 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/10/02(月) 19:22:10 ID:???
「…そんな馬鹿な……主プログラムが走りません!」
「……ちょっと待て…」
「…そんな馬鹿な……主プログラムが走りません!」
「……ちょっと待て…」
おかしい――
時田が真っ先に感じたのは、何かの違和感であった。
そもそも、この研究所に関わらず、すべてのJAの管制用システムはその端末からプログラムまで、一から日重工が設計したものだ。
その主たるモニタリングシステムは、将来的な柔軟性を確保するため、なるべく汎用言語を利用して製作したのである。
いくら急ごしらえのプログラムとはいえ、その大部分はプロジェクトのものをそのまま流用してコンパイルし直しただけだ。
時田が真っ先に感じたのは、何かの違和感であった。
そもそも、この研究所に関わらず、すべてのJAの管制用システムはその端末からプログラムまで、一から日重工が設計したものだ。
その主たるモニタリングシステムは、将来的な柔軟性を確保するため、なるべく汎用言語を利用して製作したのである。
いくら急ごしらえのプログラムとはいえ、その大部分はプロジェクトのものをそのまま流用してコンパイルし直しただけだ。
「このプログラムのソースのバージョンは?」
「2015年度版の最新のものです。来月、第二のほうにも採用する予定のやつですよ」
「2015年度版の最新のものです。来月、第二のほうにも採用する予定のやつですよ」
管制システムに限らず、多くの技術、テクノロジは、第一研究所でその安定性、信頼性をチェックされた後に、
第二研究所で採用される。
第二研究所で採用される。
「万が一のバグという可能性もあるな…一つ前のバージョンでもう一度やってみてくれ」
「しかし、主任、時間が……」
「加藤…焦るな。それほど時間がかかるわけじゃない。やるんだ」
「しかし、主任、時間が……」
「加藤…焦るな。それほど時間がかかるわけじゃない。やるんだ」
かえって原因を探して時間を食うよりは、安定しているシステムを使ったほうが早いはず――
内心では自分の判断に確信をもてない時田ではあったが、ここで迷いを見せるだけ時間の無駄だ。
加藤たちが慣れた手つきでキーボードをたたく様子を見つめながら自分の心の中を整理する。
内心では自分の判断に確信をもてない時田ではあったが、ここで迷いを見せるだけ時間の無駄だ。
加藤たちが慣れた手つきでキーボードをたたく様子を見つめながら自分の心の中を整理する。
777 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/10/02(月) 19:23:50 ID:???
(爆破による停電、一号機の暴走………やはり、テロ、、、なのか?)
(爆破による停電、一号機の暴走………やはり、テロ、、、なのか?)
考えれば考えるほど、今回の事件が、日重工を敵視する相手からのテロとしか思えない。
しかし、そんな組織など心当たりは一つしかないのだ。
しかし、そんな組織など心当たりは一つしかないのだ。
(まさか……NERVが…)
――プルルル
と、再び時田の携帯がなる。
『主任、JA二号機、起動完了しました!』
――ドッシィィィイイインっ!!!
時田の耳に、地響きのようにとどろく二号機の足音が入ってきたのであった。