歩こう都市河川

筆者は都市河川をこよなく愛している。また、もともと歩くことが三度の飯より好きであり、特に野宿愛好会の徒歩企画においても絶対の自信(山手線レース5位)を持っている。というわけで、暇を見つけては近場の都市河川へと出かけ、そのほとりをあれやこれや思索を巡らせながら歩いている。というわけで、ここでは都市河川とそこでの散歩の魅力について語り、ゆくゆくは野宿の徒歩企画で都市河川が陽の目を浴びる日を密かに願うこととしよう。

都市河川 #とは

 川愛好家の中でおそらく評価が別れるところであろうが、ここでは「住宅街やビル街の合間を流れ(てるのかどうかもよく分からない)る汚い川」としておこう。また、昔は普通に川の体をなしていたが現在は蓋が閉じられてしまっている、いわゆる暗渠も、都市河川に含めておく。暗渠は、大抵は川の役目を終え、下水道等として第二の活躍を送っているようである。しかし、その跡地は大抵緑道として整備されており、散歩にはうってつけのスポットである。川が現役だった時代のことを想いながら歩くのもまた楽しい。都市河川ラブと緑道は、切っても切れない関係にあると考えている。

 要するに、「楽しいから汚いドブ川とか川の跡地の緑道を歩いてみましょうよ」ということを、筆者は今から長々と語りたいわけである。

携行品

川歩きの際に必要だなあと思うグッズをここで紹介しておく。

思い思いの名曲が詰まったウォークマン

各自が愛用している音楽機器を持ち込んで、ぜひとも全曲シャッフルで川歩きを堪能していただきたい。ただ、川が街を分断しているという性質上、心地よい静寂を味わえる箇所が多いのもまた事実。休憩の際に、ちょろっとイヤホンを外してそれを味わってみるのも一興だろう。

携帯食料

川沿いにコンビニは案外少ない。街中なのに言うほど補給が出来ないため、柿の種やグミといったお手軽食糧は必須であると思われる。

トイカメラ

空がきれいだのスタバ行ってきただの理由つけて変な色あせた画像をおびただしい量のハッシュタグとともにSNSにアップロードしないと死ぬ病気に罹患している方は、是非。

寂しい心

幸せな気分の時に行っても、それはそれで楽しいが、あまり得られるものはない。どちらかというと、気分が塞ぎこんでいる時とか、精神を病みそうな時に出掛けるのがいい。どっぷりと物思いに耽ることが出来、思い出にも残るいい散歩ができる。

孤独

複数人で行っても疲れるだけである。昨今散歩が密かなブームと言われているが散歩に自分以外の人間がいて何が楽しいんだ。あいつらは何も分かってないね。

以上基本的な携行品を挙げたが、あまり荷物が多くても難儀するので、好きなものを厳選して持ち込めばOKです。

都市河川評価基準について

この記事を読んだ好事家が、都市河川歩きに手を出した時、「こんなはずじゃなかった」という最悪の事態に陥ってしまうことを避けるべく、また最初は良い川を選んで都市河川の魅力を味わってもらいたいという思いから、様々な項目で都市河川を採点し、それを元に総合評価としてランク付けを実施した。というわけで、都市河川の解説に入る前に、その評価基準について明確にしておきたい。
総合評価は、最高がSランクであり、S→A→B→……という塩梅である。総合評価は筆者の「この川のことがどれだけ好きか」という身勝手極まりない心の内を示したものなので、歩く川の選定にあたっては必ず項目別採点(全5項目)も参照されたい。以下、各項目について簡単に説明しておく。
  • 歩き易さ:どれだけ川から離れずに散歩が可能か、を示したものである。大抵の場合、川の畔に歩道が整備されているのだが、場合によってはギリギリまで建物がせり出すなどして、歩道がない場合がある。そうした区間が多いと「歩きにくい」と判断することになる。すなわち、「どれだけ川と一緒にいられるか」を評価している。
  • 都市河川感:野宿愛好会において「野宿っぽい」という深遠なる概念が存在するように、都市河川にも「都市河川っぽい」という言語化が困難な感覚が存在する。筆者もヒヨッコであるため同観念を完全に理解しているわけではない(し、完全な理解は不可能であろう)が、概ね本項目の採点値が低ければ低いほど「万人受けする川」ということになろう。
  • 景観満足度:これはそのままである。歩いていてどれだけ面白い、もしくは美しい風景を味わえるかを示している。
  • 包容力:一人で散歩をするとなると、嫌でもあれやこれや思案が泉のようにこんこんと湧き出てくるものである。寂しく独り考え事をしながら歩く我が身を、どれだけ川が受け入れてくれるか。寂しさに叩きのめされる心と身体を、どれだけ癒してくれるか。などといった、これまた日本語での表現が極めて困難な、しかし確実に存在する、「川が持つチカラ」を示した。概ね、本項目の採点値が高ければ高いほど「また来たい、なんなら彼女にしたい川」ということになるだろうか。
  • 距離:どれだけ魅力的な川でも、距離が長いとなるとどうしても敬遠されがちである。そこで、川の選定の助けになるよう、野宿愛好会の徒歩企画基準から、川の全長の実感を具体的に示している。
 以上5項目を、距離は文字情報で、それ以外の4項目については5段階評価でビジュアル化し、それを元に総合評価を決定している。すべて筆者のひとりよがりな独断である。

都市河川その1 目黒川(総合評価:Aランク)

歩き易さ ★★★★☆
都市河川感 ★★☆☆☆
景観満足度 ★★★★★
包容力 ★★★★☆
距離 適度な長さ

 最初に語りたいのは、おそらく都市河川界で5本の指に入る有名河川である目黒川である。
 何かのよくわからんドラマのロケ地になっていたり、miwaが『めぐろ川』なる名曲を発表していたりするので、名前だけは知っている方が多いと思われる。実はこの川、桜の名所として著名であり、シーズンには川愛好家であるか否かを問わず大勢の人々が目黒川に集結する。川の両岸に延々続く桜並木は、実に見事である。東急目黒線の不動前駅~目黒駅間から見える桜が最高に綺麗なので、是非一度ご覧頂きたい。
 また、見事なのは春だけではない。実は冬季に、桜の木がLEDでライトアップされるのだ。従来は「冬の桜」ということで桃色だったのだが、2014年は青色の電飾が使用されるようである。散歩道をカップル共に踏み荒らされるのはハラワタが煮えくり返るが、それでもやはり下品な樅の木電飾と比べると大変荘厳で美しい。夏は青々とした木々(まあ大したことないけど)、秋は紅葉というオマケがあり、四季折々で違った表情を散歩者に見せてくれるエンターテイメントに事欠かない川である。
 そうした良景観に加え、10km少々というお手軽感、歩道がよく整備されている歩き易さも文句の付け所があまりないため、都市河川ビギナーにうってつけの川である。下流になると無骨な工業地帯となり、お世辞にも景観がいいとは言えない区間が存在するが、その分都市河川っぽさがあるためそれはそれで良い。

上流ゾーン(大橋JCT~中目黒)

 開渠となるのは大橋JCT付近である。ここからしばらく両岸に住宅街が広がり、店もちらほらあるといったところである。オサレな店もあるので、SNS大好きな大学生各位はその中からお気に入りを見つけて自慢してみるのも面白いだろう。中目黒に近付くとあからさまに飲食店や居酒屋が増える。桜並木と相まって、桜のシーズンはなかなかの混沌が生まれている。

ドル箱ゾーン中目黒~目黒~大崎

 この中流域が目黒川のメインである。中目黒を過ぎると、一瞬大通りを歩道橋で攻略せねばならなくなるが、すぐに復帰が可能である。今までの滅茶苦茶ライトな、お客さんこんにちはムードが一転、歩道橋を渡ると雰囲気が一気に都市河川の様相を呈する。それでも出店は多い方で、鉄板焼屋や理髪店があったりする。なかめ公園の辺りから桜並木が本気を出し始める。ここからしばらく延々桜並木を堪能していただけるだろう。橋の数が異様に多く、その名前を逐一見て由来を考えてみるのもなかなか面白い。有名ホテル雅叙園が見えるとそこはもう目黒。美味しいラーメン屋が多いので、一旦川を離脱して権之助坂まで腹ごしらえに出掛けるのも一興。五反田まで来ると、冬場はイルミネーション区間の開始である。本当に見事なので一度目の当たりにしていただきたい。山手線のガードをくぐってすぐ、マンションの公共広場みたいな空間が筆者一番のお気に入りスポットである。
 この区間の欠点として、大通りが多いため横断が面倒くさいということが挙げられるが、それ以外は本当に魅力的である。

工業地帯ゾーン 大崎~新馬場

 大崎を出てしばらく歩くと、景色が一気に灰色メインになる。いかにも都会の港町のドブ川といった塩梅。一部迂回を迫られる歩行困難区間が初登場するなど、川歩きの難易度は飛躍的に上昇する。といっても、他の川に比べればまだまだ歩き易い方であり、都市河川っぽさに慣れるという意味ではこれまたお手頃な区間なので、どうか我慢して歩いていただきたい。2,3度歩いたり、他の川から戻ってくると、なかなか魅力を感じることだろう。山手線レースで若干この区間に関わった方も多いのではないだろうか。

クライマックスゾーン 新馬場~

 新馬場を過ぎると、再び景観に緑が戻ってくる。川の終わりは近い。この区間は一番歩行困難箇所が多かったと記憶している。今までがあまりにも歩きやすかったため立腹するところだが、川からの離脱を余儀なくされた時にどう歩くかという対策をここである程度身につけておかれたい。海上公園が見えてきたらゴール目前、というよりほぼゴールである。 一応の本当のゴールは天王洲アイル。グラウンドで草野球を観戦したり、海上公園で野宿したり、副都心っぽさを漠然と堪能したりと、お好きにどうぞ。

 全体的に都市河川の魅力、ポイントが凝縮されており、初心者から上級者まで幅広く楽しむことが出来る川である。ビギナーは目黒川を何度も歩き、都市河川とは何たるやを存分に味わっていただきたい。きっと、その魅力に、いつの間にかとりつかれているはずである。いわば、都市河川界のイャンクックである。


続きは近いうち、必ず書く。(クラッシャー)
最終更新:2014年11月15日 02:13