ステロイドはただの悪者なのか


「ステロイド獣医」
という造語まであるほど、
獣医療は、とくに一昔前の獣医療は
おどろくほどのステロイド依存体質があります。

では、ステロイドを使う獣医は誰でもヤブで
ステロイドはただの悪者なのか、といえばそんなことはありません。
適切な場面で適切な処方で使う分には
これほどキレのよい、安価な薬はほかにないのです。

では、どんな場面がステロイドの適応なのでしょうか。

症状は火災警報器

頭が痛い、喉が痛い、食欲が無い、皮膚がかゆい、皮膚が赤い、
毛が抜ける、下痢する、吐く、これら症状を
「臨床症状」といいます。

臨床症状は、家の火災警報器のようなものです。

火元は体のなかのどこかにある「異常」です。

ステロイドは、多くの場合この火災警報器を止めるだけで
火を消し止めません。
「ステロイドは症状を隠す」といわれる所以です。
だから、すぱっと薬一発で病気を治す
(正確には隠すだけ)即席名医が生まれます。

そう、お分かりでしょうか。

ステロイドの適応は
「火災警報器を消し止めている間に火を消すことが出来る、または
ステロイドそのものが火元を消せる(一部の)症例」
および
「原因はよくわからないけれど生死に関わる状態なので
とにかくこの場を切り抜けなければならない状態」

です。

前者は、火元が確定している病態
つまりしっかり検査をし、病名がついており、
根本治療を平行して行える、または火災警報器を止めている間に
体の中の消火システム(免疫やホメオステーシス)が火元=病気を
消し止められる場合、
後者はショック状態や呼吸不全など、一瞬を争い
検査結果を待てないような状態で、
このような症例もステロイドは適応です。
また、拾い食いをしてしまった、農薬を舐めた、など
原因の特定ができている場合の症状の軽減にも
安く、手っ取り早いステロイドは適応です。
なぜならば、一過性のものは「原因」はすでに取り除けているからです。

つまり、ろくな検査もせず
「経験的にこれはステロイドで静まるから」
で使ってしまうのが一番いけないパターンなのです。
そして、ステロイドが根本的な治療でもないのに
漫然と何年も使うのは最悪の使い方です。
最たる例はアトピー性皮膚炎のステロイド、ですね。
最終更新:2007年01月02日 14:44