『Steel & Steel』


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十六聖天の第二位たる佐藤次郎は今、非常な困難の最中にあった
無論、彼は超一流の武人、苦難を友とし死地に生きる剣の鬼である
だがそんな次郎をもってしても、今回ばかりは近年稀に見るほどの窮地と言えた
(……いや、何だか最近こんな事ばっかりな気もするが……)
「はぁ……」と溜息と共に余分な思考を切り捨て、彼は眼前の危機に向き直る

こちらと相対しているのは、一人の小柄な娘
年頃は十四、五ほどの少女だが、だからといって油断は出来ないというのが次郎の経験則だ
長い前髪で表情は窺い知れない、しかしこちらを一心に見つめる冷ややかな視線を痛いほどに感じる
装備は彼我共に徒手空拳、問題は既に懐に入られている為に小柄な彼女が圧倒的な優位である事だ
そして何より考えるべき――あるいは考えざるべき事が一つある……
……全裸なのだ

そう、少女は全裸であった
今にも体と体がぶつかりそうな距離で、彼女は一糸纏わぬままにこちらを見上げている
次郎は必死で少女の顔に意識を集中するのだが、それでも視界の隅になだらかな撫で肩がチラチラと覗く
視線を下ろせば先程誤って見てしまった意外に豊かな胸元も堪能できるであろうが、堅物の次郎にそのような不埒な選択は無い
「……オーナー、指示を」
「だから、さっさと服を着て自分の部屋に戻ってくれ……
何でそれじゃあ駄目なんだ、真境名?」

感情に欠けた声の主から目を逸らして頭を掻くと、次郎は真境名と呼ばれた少女に問う
この遣り取りも、ほんの十数分前に少女が次郎の部屋を訪ねて来てから既に五度目である
その都度に「ノー、オーナー」という無味乾燥かつ意味不明な拒絶が返ってくる
「なぁ、真境名
せめて、何の指示が欲しいのかくらいは教えてくれ」
言いながら、幼子をあやす時のように目の高さを彼女に合わせる
何しろ彼女は次郎が保護した一週間前から、ほとんどイエス、ノー以外の言葉を話していないのだ

これは次郎にとって彼女を理解する好機であり――そして理解してやる責任があると彼は考えていた
「お前がここに来たばかりで混乱するのも解る
俺だって最初はそうだったさ
だから……なぁ、俺に出来る事なら何でも手伝ってやる」
ゆっくりと、口移しのように言い含めていくと、「イエス、オーナー」と初めて色良い返事
思わず口元に笑みが浮かんでしまう次郎の前で、真境名が続ける
「指示を、オーナー
――奉仕活動の、指示を……」

「……は?」
奉仕活動とは草毟りやゴミ拾いの事だろうか?
そう考えて頭を捻る次郎の視線の下、真境名の手が小さな動きを作った
「んっ……指示、を……」
釣られて視線を下げてしまった次郎は、目の前の事態に凍り付く
見下ろす少女の生白い腹部、傷痕だらけの彼女の指は自らの秘密を押し広げていたのである
「な……っ!?」
肌色から鴇色にグラデーションする肉の鮮やかさに一瞬、思考が真っ白に染まる
「オーナー、指示を
何なりと、指示を……
――真境名を、ご使用下さい」

頭の上から降る声の冷たさに、沸騰していた思考が平静さを取り戻していく
「……真境名、まさか奉仕っていうのは……」
「真境名をお使い下さいオーナー
『これ』はオーナーの性欲処理に使用可能です」
頭を殴られたような衝撃だった
少女の声音は冷徹で、まるで道具の機能を解説するようであった
否、事実彼女にとってはそうなのだ
DOOMS社の道具、殺人機械『ジェミニ・エンジン』
彼女を人間でなくした者たちに、彼女は「使用」されてきたのだろう
「――ッッ」
「……オーナー?」
気がつけば、次郎は真境名を胸に抱き寄せていた

触れた身体は見た目以上に細く柔らかく、肌は少し冷えてしまっている
手易く腕の中に収まってしまう軽く小さな生命の感触に、武骨な戦士の頬を涙が伝う
「……いいんだ、もういいんだ真境名
そんな事をしなくても、もう誰も君を傷つけたりしない……ッ」
「……オーナー?
理解不能、指示を……
……理解、不の…う……っ」
「え……っ?」
胸に感じる震えと温もりに目を向けた次郎が見たのは、仮面のような少女の眦に浮かんだ小さな水滴
「オーナー……っ
理解……不能ぅ……
うぅっ……ふえぇ……んっ」

――その夜、次郎は泣き疲れて眠ってしまった真境名に膝枕を貸しながら
今は何処に居るとも知れない、遠い昔の幼馴染みの夢を見たのだった

『Steel & Steel』fin
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