MachineHeart


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薄汚れた古アパートの六畳間、最低限の荷物を詰めた段ボールの列、バネの堅いベッド
それが、マキナ沙羅の部屋を表す言葉の全てだ
いつか誰かに聞いた「部屋は住人の心象風景だ」という言葉を思い出す
(狭量で冷徹で汚れきって…本当に、私そのものみたい)
カーテンから漏れる街の灯に背を向け、流しのグラスに生温い水道水を注いだ
手にしたピルケースから5種類7個の錠剤を取り出す
(避妊、免疫抑制、免疫強化、精神安定、能力抑制)
錠剤の効能を一々確認するのは、まだ幼かった時分の習性だ
(あの頃は、よく飲み間違えてたっけ…)
拒絶反応の重い鈍痛と副作用の猛烈な嘔吐感を思い出し、しばし懐かしさに浸る
「あれから、もう一年ですかぁ…」
思えば、随分と自分も変わったものだ
カンパニーにいた当時は、過去を振り返るどころか現在の自分を省みる余裕すら無かった
人工培養で造られた出来損ないの兵士が相手の実弾訓練
薬物と手術による強化実験
正規兵の慰安の為の奉仕活動
毎日のノルマは、どれか一つでも失敗すれば命に関わった
初めて手足を千切られた時の脳が焼けるような痛み
自分の身体と心を他人の指先ひとつで弄り回される恐怖
暴力で組み伏せられ、苦痛と快楽を強要される嫌悪感
血涙さえ枯れた果てに、彼女は人でなくなった
「…それにしても、これ以上無いくらい傷物ですねぇ私って…」
思わず苦笑して、そういえば苦笑いもつい最近まで忘れていたと笑みを深める
(あの頃は、死ぬ事なんて何とも思ってなかった…)
「今は、死ぬのは嫌ですねー…」
思い浮かぶ、ここ一年で出会った人々の顔
(アリスちゃんやデスメタルさん、花子さん、田中のおじさん…)
それから、と心の中で呟く
「…次郎さんと会えなくなるのは、寂しいです」
マキナの中の次郎は、いつもあの日の姿だ
炎に照らし出された血塗れの顔
突きつけられた鋼鉄の冷たい感触
そして、刀より先に自分を貫いた鬼気迫る眼差し
彼を想うだけで、心が千々に乱れる
声と視線を交わす度、胸が震える
こんな事になるなど、一年前には想像もつかなかった
「私、弱くなってますよね…」
かつて、自分の心は機械だった
名前通りの殺戮機械
死線に踊る『双子機関』
それが今では錆び付き、ギシギシと悲鳴をあげる始末
(…遠からず、死ぬでしょうねぇ私)
それでも、この一年が無ければ良かったとは決して思わない
皆がくれた日々、マキナを人間に変えてくれた魔法の時間
今を愛おしく想うほど、未練は尽きず積もっていく
「せめて後少しだけ…
本当の名前を思い出すまで」
そして、願わくば彼に名を呼んで欲しい
儚い望みは開けはなった窓から夜風に乗り、星一つ見えない空に溶けた

『MachineHeart』end
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