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地獄


馬鹿者ども、うんぴを叩くものではないぞ。
わからないか。うんぴは小市民的コテといっても、三戦に生きているんだぞ。
死んだコテの行く末は悲惨だった。
追い詰められて新党から離反し、インフェルノに送られた俺は見てきた。

まるで漏斗のような大穴が下へ下へと続いていた。
地上から地球の中心に向かっているようだった。
空には黒紫の雲がうねっていたし、目の前の空気もよどんでいたから、
地上と空の境界線はわからなかった。
穴の中は上から順番に幾つかの区画に分けられていた。
裁判官がいて、それぞれ生前の罪に応じて送られる場所が選り分けられていた。

俺は途上で、娼婦に堕ちた張春華が悲鳴を上げて暴風から身を守ってるのを見たし、
もっと深い所で、金が煮えたぎる瀝青に漬けられて、
肉が爛れた悪魔に鎌で少しずつ肌を傷つけられていたのも見た。
俺が送られたのは、最も重い罪である裏切りを犯した者が送られる最下層だった。
最下層も四つの区画に分けられていて、
それぞれ肉親、祖国、隣人、主人を裏切った者が分別されていた。

俺は四つの区画すべてに行かなければならなかった。
父学徒出陣、祖板三戦板、隣人クマッタ、主人やはり学徒出陣を裏切ったから。
首まで氷漬けにされて、震えながら気絶することも許されない。
一日ごとに氷から引き上げられて区画をたらい回しにされた。
どこもあまり変わらなかったな。

朝か夜かは分からなかったが、10日目に氷から引き上げられた時に、
悪魔の姫君が俺のことを見物しに来た。
病的に白い肌をしていて、目と唇は薔薇のように赤かった。
「ごきげんよう、居心地はいかがかしら?」
この第一声は今でも頭に染み付いて離れない。
ふん、俺は答えてやった。「貴女にお目にかかることができたのですから、
全く悪いことばかりとはいえません」。

気まぐれだろうが、姫は口元に微笑を浮かべて、
貴方と踊ってあげてもいいのだけど…と切り出した。
この地獄のどこかに、兄チェーザレが植えた聨娟の薔薇が咲いているから、
それを探して取ってきて頂戴……
途方も無い要求だったが、束の間でも氷の外へ出たかったから、
その申し出に飛びついた。
許可証のようなものだと歪な形の黒い人形を渡されて、行動の自由を保障された。

起点が最下層だったのは却って楽だったかもしれない。
上へ上へと進めばいいんだからな。
口で言うほど楽じゃなかったが。五日間の探索で、やはり色んな奴を見たぞ。
w名無しが棘をあしらった鎖で繋がれてギリギリと締められていたりな。
聨娟の薔薇が咲いていたのは、第六圏の異端者の地獄だった。

炎が噴出す湖の対岸に、艶やかな光を帯びて薔薇が咲いていた。
飛び込んだら焼け死ぬのではないかと怖かったが、
もう地獄にいるのだからと自棄になって飛び込んだ。
ここからが大変だった。炎がまるで煮え湯のように噴出していて、
手を伸ばしても熱で頭が真っ白になってな。
対岸にたどり着いたのは、後から計算すると飛び込んでから17日後のことだった。

薔薇を手にした途端に、体の傷は癒えて活力が戻ってきた。
帰り道は楽だったかもしれない。
それほど熱さも感じなかったのは、薔薇の力かもしれない。
姫の喜びようは印象的だった。
白い頬にぱあっと赤みが差して、俺は艶かしいキッスを受けた。
地獄でルクレツィアと踊った男が何人いるのかわからないが、
そんなことはどうでもいい。

ひとしきりの宴の後に、どこからかイタリア語が聞こえてきた。
「オバマ氏は恰好よく日焼けをしている」。それに対する失笑、野次……
その声に注意を傾けているうちに、俺の体は突然浮いて、
漏斗状の穴はみるみる眼下のものになっていった。
気づいたら、ロコ家スレの前に立っていたんだ。

薔薇の紋章の刻まれた鎧を纏い、薔薇を象った装飾が施された柄の剣を佩いて。