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ルクレツィア-1


つい先ほど、ルクレツィアに会ったんだ。

俺は十三の階層からなる黄昏の塔の十一層目に王座を定めているんだが、
たびたび螺旋状の石の階段を下りて城下に遊びに行く。
ほんの三時間ほど前、滑らかな銀色の肌の並木が連なる広い通りで、
ぽつんと立っている彼女を見た。

俺が話しかけると、ルクレツィアは笑って応えてくれた。
始終なよやかで明るい様子だが、決して惰弱ではなく、
内面にしっかりとした意志を抱いているのが分かった。
遍歴の旅の中でのこと、三戦板でのこと、いろいろなことどもを興味深く聞いてくれて、
そして自身の境遇などさまざまなことを話して聞かせてくれた。

〝ところで〟 話がひと段落した頃合に、俺はこう切り出した。
〝俺の城には、最高の紅茶があるのですよ。
誰かのために淹れてさしあげたいと思いつつ、その相手に恵まれなくて〟

すると、思ったとおり、ルクレツィアは笑顔を崩さずに言葉を返してくれた。

〝まあ、紅茶って何ですの? 美味しいものなら、ぜひいただきたいわ〟

ところで、西方世界の西と南の果て、アンダルシアには一つの川がある。
その川に黄昏時に映った鉄装飾は象徴的で美しいんだが、
それを象った紋様をあしらったティーカップで紅茶を出した。

ルクレツィアの生きた時代には、茶は東方世界に普及するに留まっていたから、
とても不思議そうな顔をしていたよ。
用心深くカップに口をつけた時には、
繊細な香気と味わいを胸に感じて幸せそうな様子をしていた。

〝お待たせしてしまいました。
紅茶を美味しく淹れるためには、手間がかかるものですから〟

〝たとえば?〟 くすっ、と笑って優しげな目をこちらに向けてくる。

〝味と香りを引き出すためには、
水温を煮えた程度の温かさに調整する必要があるのですよ。
まずポットやカップを温めたのは、そういうわけなのです〟

〝ふうん.....〟 そう返したルクレツィアの目は窓から外に向けられて、
しばらく恍惚とした表情で木々の黄色と緑を眺めていた。

その後は、愛のことや人の心のあり様について、心行くまで議論を交わしたんだ。
かの女は父と兄の政事のために一生を翻弄された。だから思うところもあったんだろう。
……ルクレツィアが去っていったのは、つい先ほどのことだ。
わざわざ話すようなことではないかもしれないが、
心のわきたつ事なのでここに報せておいた。