フィオレンティーナ戦史


アルノー川の流れが変わろうとしている。
水攻めが成功すれば、戦局はフィオレンティーナに大きく傾く。
<偉大なる>僭主は<魔術師>の奇跡に喜色を隠せない。
青白い窪んだ頬に赤みが差した。

反徒は渇きに身を悶えさせて死んでいくだろう。
屈強な戦士も、眉目整った婦人も、
昨日までワインを浴びるように飲んでいた執政官も。

決断の時は近づいている。
剣を贈ればその報いには飢餓と渇きが。
跪けばこれまで通りの安泰な生活が。
会談の席に供されたワインのように赤い血の駆け引きが始まる。

ああ
神はごく僅かな人しか愛さない。
どんなに誠実で才能があっても
神に愛されなければ骸を路傍に晒すのみ。

決断の時は近づいている。
英雄叙事詩とはかけ離れた無様な死か
あるいは従属か。

<魔術師>は全ての段取りを整えて
北の山脈の麓に去っていった。
後に残るのは僭主の<偉大なる>哄笑と
決断を迫られた脆弱な都市。

アルノー川の流れは歪み、
新たな悲劇が始まろうとしている。

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最終更新:2009年01月15日 14:04