第4184回D-BR杯にて


登場人物


 第4184回のバトルロイヤルD-BR杯。おいらは気合を入れて、勝負に挑もうとしていた。だが、相手のうち、半分は女性。おいらは本気をだしていいのか悩んでいた。
「うーん」
「私に手加減は無用よ」
 悩んでいるおいらに、リーリィが自信満々に言った。
「なんといっても、前回の覇者だからね」
 リーリィの赤い髪がフワリと風に乗る。
「ふふん!」
 確かに、彼女は強い。前回の戦いで勝ち上がっているチャンピオンだ。戦いに慣れた勇ましさすら感じる。手加減どころかリーリィは強烈な必殺魔法を使うから、それには注意しなくてはならない。
「おろ」
 一方の朧月夜はどう見ても線が細く、白い肌に手入れが行き届いた髪など、どうもこの場所に似つかわしい。
「あんた、平気なのか?」
 おいらは心配して声をかけた。
「おろ、平気とは我のことかの? ほほほほ」
 上品に笑う朧月夜、やはり場違いだなとおいらは思う。
「まあ、本気は出さないから安心しろ」
「ほほほ、お手柔らかにの」
 そんな彼女を放っておき、おいらは島田の方を見た。軍人のように見える。戦場で磨かれた戦闘能力、それに痺れるような殺気。この中で一番の危険人物はこいつだとおいらは確信する。
 おいらが島田に向かい、殺気を放つが、彼は涼しい顔をして銃の手入れをしていた。
「第4184回D-BR杯がスタートです! 前回優勝したのはリーリィです! 果たしてタイトルを防衛できるでしょうか!?」
 アナウンスの声が響き、おいらを除く三人はそれぞれ別の方向に走り出した。
 おいらは中央で腕組みをし、どこから攻撃がきても大丈夫なように身構えている。
「ほれ、我はここぞ」
「ん?」
 先制は朧月夜の軽い魔法での攻撃だった。手の平から閃光が走り、それが島田にヒットした。だが、島田にとってはかすり傷ほどのダメージのようで表情は変わらない。
 畳み掛けるように、リーリィも島田に魔法攻撃を加える。
 おいら意外の二人もこの男が危険だと気が付いていたようだ。
「ふん」
 だが、案の定、島田はほとんどノーダメージで、体制すら崩していない。
 とりあえず、あの朧月夜を早く戦線離脱させてしまおう。このまま、ここにいては島田に致命的なダメージを与えられる可能性がある。
「すまんな、お嬢ちゃん」
 おいらは、さっと手刀を落とした。
「おろ? 風でも通ったかの」
 当たったはずだった。間違いなく、避けられるはずのない距離。だけど、朧月夜に触れることは無かった。
 おいらは信じられず、自らの手を疑った。
 ありえない、あの距離で避けられるなんて。
「行くぞ!」
「いて!」
 気をとられていた隙に島田の攻撃をまともにくらう。とっさに筋肉を固めたが、ダメージを隠すことができない。
「ほれ、こっちもいるぞ」
 島田に喰らわした魔法を朧月夜が使ってくる。
「いて!」
 思ったよりも、手痛い攻撃。
 おいらが想像していた以上の使い手であることは確実だ。
 ふふんと鼻を鳴らす朧月夜に、リーリィから魔法の火の玉が降り注ぐ。
「ふむ、なるほどのう」
 火に体を包まれながら、暢気に感想なんて言っている。
 だが、手でばっとはらうとあっという間に火は消えてしまった。
 すぐさま、おいらは魔法の飛んできたほうこうに駆け出し、強烈なパンチを繰り出す。
「ふふん!」
 だが、大降りな一撃はリーリィに軽く避けられてしまう。
 そして、隙のできたおいらにまたもや、島田の一撃。畳み掛けるように、朧月夜の魔法まで飛んでくる。
 おいらの体力はすでにほとんどない。
 膝を地に付き、息を整える。
「とどめた」
 島田が銃を構え、おいらにつきつける。
「まだよ!」
 だが、ここでリーリィの魔法が島田に当たり、おいらはとっさに身を翻した。そして、魔法を使っていたリーリィに攻撃をしかけるが、またもや避けられてしまう。
「こっちにもいるぞ」
 島田が追い討ちをかけ、リーリィにダメージを与える。そして、朧月夜の追撃。だが、まだまだリーリィには体力が十分にある。同じようにほとんどダメージのない島田を見て、リーリィは魔法をぶつける。
 だが、やはりダメージはほとんどない。砂埃が当たりに散り、視界を遮る。
 いい機会だとおいらは朧月夜に向かって駆け出し、一撃を喰らわす。
「あう!」
 思わぬ一撃に、朧月夜は大ダメージを受けた。おいらの拳には骨の軋む感触があった。
「う、うぬう。なるほどのう」
 なおも強がりを言うが、おいらも朧月夜もぼろぼろだ。
 一方の島田とリーリィはまだまだ余裕な様子で、二人などすでに眼中にないようだ。
「さすが、前回の試合を制覇したことはある」
「あなたも、ただものじゃないのは分かるわ」
 二人の間に鋭い殺気がぶつかり合う。
 その様子を見て、朧月夜はにやりとした。
「ほほほ、見ておれ。我の本気を見せてやろうぞ」
 二人が気をとられているうちに、朧月夜の周囲が輝きだす。
「我と共にあるのは静寂なる終末への道。月の輝く光よ、我の為に光をもてらせたまえ! エイリアスムーンレイ!」
 遥か彼方からの光の矢が、二人に降り注ぐ。
 光の矢を正面に見ていたリーリィはとっさに島田の影に隠れるが、死角からの攻撃に島田は一瞬避けるのが遅れ、全身にその矢の攻撃を受ける。
「失敗った!」
 誰もが、島田の戦線離脱がわかるような一撃。島田はそのまま、地に崩れた。
「どうぞ、これが我の本気じゃ」
 鼻高くいう朧月夜であるが、消費が大きかったようで肩で息をしている。
「ふふん、後はお前だけだな!」
 おいらはリーリィの魔法を背に受けた。
 だが、そんなことを気にしていられない。朧月夜の体がまた輝き出したのだ。
まずい、あれがもう一度来たら、終わりだ。
「我と共にあるのは、静寂なる終末への道」
「うぉおおおおおおおおお!」
 詠唱と共に朧月夜の体はより強く光り輝く。おいらはすでに避けることは不可能である朧月夜に思い切り突っ込んだ。
「おいらの攻撃をくっらえ!」
 本気の右ストレートが朧月夜のボディに突き刺さる。
「おろっ」
 喰らわしてからおいらはしまったと思った。
軽い一撃でも、倒れたであろう朧月夜に 本気中の本気の攻撃をしてしまったのだ。しかもその攻撃はどんなものでも砕くといわれるスーパーおいら。
手には砕けた骨の感触。そして目の前にあるのは、気を失い、崩れる朧月夜。
「くそ、すまねえ」
 儚い命を奪ってしまったとおいらは拳を固くにぎる。
「突撃!」
 島田の叫び声。あの朧月夜の攻撃を受けながら、島田はまだ動けるようだった。だが、全身は血まみれであり、どんな攻撃でも受ければ終わるのが見て取れる。
 しかし、最後の猛攻なのか島田がめちゃくちゃに銃を撃ちまくるとリーリィにそれがヒットした。
「ア、もしかして負けちゃったとか・・・?」
 信じられないというようにリーリィはそういい、気を失った。
「くそ!」
 おいらが島田を止めようと攻撃をしかけるが、すでに体力のないおいらは足がもつれて転んでしまう。
「突撃! 敵は負けたも同然のはず!」
 そこに、まだ繰り出していた銃弾がおいらにぶつかった。
「がん!」




 目を覚ましたのは医務室の中だった。
 隣には朧月夜に、リーリィ、島田まで眠っている。
 稀に見ぬ激戦、その代償がこれだった。
「いっつ」
 おいらも体中に受けた銃弾のダメージがまだ残っていた。死んでも生き返るとまで言われる最新の医療装置ですでに傷は全て埋まっていたが、痛みはまだある。筋肉組織が完全に復活するにはまだ時間がかかるようだ。
 隣ですやすやと眠っている朧月夜を見て、おいらはほっとした。殺してしまったと思うほどの手ごたえ。だが、あれを喰らってまで生きている彼女はやはり強い。
 人形のような顔。どこかのお姫様のようだ。
「ふふん! 私が負けるなんてありえないわ!」
 いつから目を覚ましていたのか、リーリィの悔しそうな声が聞こえた。
「島田にはいつかリベンジよ! それに、おいらもこのお嬢ちゃんもぎたぎたにしてやるんだから!」
 彼女なら、そんな強がりも本当にやれそうだとおいらはため息をついた。
 島田のほうも、苦笑いを浮かべてその後を追っていった。制覇したのに、どこまでも硬派な男だ。
 二人とも目を覚まして帰っていったが、いまだに目を覚まさない朧月夜が心配になった。もしや、死んでいるのかもしれない。
 おいらが朧月夜の顔をのぞいた時、彼女の目が開いた。
「あら!」
「おろ!」
 朧月夜は驚いて飛び上がり、おでこがぶつかり合う。
「いたいぞよ、おろ~」
 おでこを抑えてうずくまる朧月夜。
「悪い悪い、ついな」
「おろ! 主は、巨人ではないか! であえであえ! 巨人が攻めてきおったぞ!」
「違う、違う! おいらはおいらだぞ!」
 おいらの説明に朧月夜は目を白黒させる。
「おいらがおいら? うぬぬぬぬ」
 痛さと分けの分からなさに頭を抱える。
「まあ、無事ならいいさ。嬢ちゃん、またやりあおうな!」
「う、うむ! そうじゃな、今度は負けはせぬぞ!」
 そんなことを言いながら、おいらは医務室を後にした。
 いつか、彼女がここを制覇する日もあるかもしれない。
 だけど、そんなことは関係ない。おいらだってまだまだ勝ちたいのだ。
 消毒臭い匂いが、何やら鼻についたが、ふんと鼻で払い、おいらは次の戦いに備える為にアマゾンに行くのだった。

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最終更新:2008年10月31日 23:12
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