【チョビヒゲ合戦】-後編-
自慢のヒゲの行方を賭けてダーフィーと決闘することになってしまったキャムデン。しかし、魔法を主体として戦うキャムデンは一対一の決闘では不利。そこで彼はバイデマギスを自分の代理として戦わせることにした。
あっという間に約束の刻限は来た。
あっという間に約束の刻限は来た。
「では、あっしが立会人をつとめるでやんす。敗者はヒゲを剃り落とすでやんす」
城の中庭、向かい合うキャムデンとダーフィーの真ん中でギャロは高々と宣言した。
「ヒゲとのお別れはもうすんだか?」
ダーフィーは刀の鯉口を切りながら、余裕の笑みを浮かべている。
キャムデンはダーフィーの言葉を無視して手を叩く。すると、ぬっ、と建物の中から戦斧を手にしたバイデマギスが登場した。いぶかしむダーフィーにキャムデンは言った。
キャムデンはダーフィーの言葉を無視して手を叩く。すると、ぬっ、と建物の中から戦斧を手にしたバイデマギスが登場した。いぶかしむダーフィーにキャムデンは言った。
「ダーフィーさん、情に厚いバイデマギス殿は、事の次第を話したら義憤に駆られて代理人になると申し出てくださいました」
ダーフィーはあんぐりと口を開けた。
「ちょっと待った! 決闘ってのは本人がやるもんじゃねぇのか?」
「そうでやんすねぇ」
立会人はそう言いながらやる気満々のバイデマギスをちらりと見て
「代理人を立てることは特に禁止されていないでやんす」
「文句いわずに楽しくやろうぜ。ガーーッハッハッハッ!」
バイデマギスも高笑いをする。
「汚ねぇぞ! インチキヒゲ!」
ダーフィーが叫ぶ。
「私は野蛮なことは嫌いです。頼みましたよ、バイデマギス殿」
キャムデンはそう言いながらギャロの横に立った。
「おうッ。ぎったんぎったんにしてやるぜ。ガーーーッハッハッハッ!」
思わぬ強敵の出現にダーフィーは内心穏やかではなかったが、決闘の提案に自ら乗ってしまった手前、引くこともできない。
「では、勝負はじめでやんす~!」
掛け声と共に戦いは始まった。バイデマギスは猪のごとき突進と共に戦斧を振り下ろし、その状態から力任せに斬り上げてくる。ほとんどそれだけの単調な攻撃で、読みやすいのが救いだが、この男の体力は無尽蔵だ。いずれダーフィーの集中力がとぎれれば捕まってしまう。
(こいつぁ、マジやばいぜ)
攻撃を避けるダーフィーの背中を冷たい汗が伝った。斧を受け止めようにも、まともに受けて刀が無事ですむとも思えない。ダーフィーはちらりとキャムデンを見た。キャムデンは勝利を確信しきった顔でヒゲをなでつけている。
(高みの見物か、いい気なもんだ)
ギンッ!
バイデマギスの振り下ろした斧がダーフィーの刀にぶつかった。ダーフィーは慌てて切っ先を逸らして斧を流す。一歩下がって刀身を一瞥すると、刃が欠けてしまっていた。
(こいつも高かったんだよな。おまけに代金払いきってねぇしよぉ……)
ダーフィーはため息をつくが、バイデマギスはお構いなしにつっこんでくる。
「オラオラッ!」
バイデマギスが振り下ろす斧を避けてダーフィーはもう一度キャムデンに視線を走らせる。
(こうなったらイチかバチかだッ……!)
ダーフィーは、下方から襲いかかってくる戦斧の正面に刀を合わせた。
キィンッ!
鋭い音が響き渡り、キャムデンの目の前で攻撃を受け損なったダーフィーが尻餅をついた。その手からは、刀が消えている。
「やりましたよッ! 大勝利です!」
喝采を上げてキャムデンが身を乗り出そうとした瞬間。
すとん。
何か長くてきらきら光るモノが顔前を通り過ぎた。キャムデンは足元に視線を落とし、それを見る。刀だ。
ダーフィーの、刀。
それから、ふと唇の右上に風を感じたキャムデンはおそるおそる右手でいつものようにヒゲをひねろうとした。
すとん。
何か長くてきらきら光るモノが顔前を通り過ぎた。キャムデンは足元に視線を落とし、それを見る。刀だ。
ダーフィーの、刀。
それから、ふと唇の右上に風を感じたキャムデンはおそるおそる右手でいつものようにヒゲをひねろうとした。
――ない。
「ひぃぃっ!」
キャムデンは叫んだ。
はらりはらりとヒゲが舞い散る。キャムデンは混乱したまま散らばったヒゲをかき集めた。
はらりはらりとヒゲが舞い散る。キャムデンは混乱したまま散らばったヒゲをかき集めた。
「ま、こんなもんだな」
ダーフィーが立ち上がった。
「ま、ま、まさか狙って……」
驚きと屈辱にキャムデンの声が震える。
「動かないで良かったな。動いてたら、あんたの脳天に突き刺さってたぜ」
にやにや笑いながらキャムデンの横に突き刺さっている刀を拾い上げる。
「これで勝負有りだ。じゃあな」
ダーフィーは満足げな顔で立ち去ろうとした。ところが。
「おいおい、どこ行くんだ。貧乏ヒゲ?」
彼の前にバイデマギスが立ちはだかった。
「ダンナ、勝負はもう終わりだぜ」
「終わり? ガーッハッハッ! 勘違いすんじゃねぇ。テメェが戦ってるのは、このオレだぜぇ!」
「戦闘続行でやんすね」
ギャロが頷く。
「ちょ、ちょっと待て!」
予想外の展開にダーフィーの声が裏返った。
「待てねぇなぁ!」
バイデマギスは、楽しくてたまらないとでもいう表情で戦斧を振り上げた。
脱兎のごとく逃げ出すダーフィー。
脱兎のごとく逃げ出すダーフィー。
「ガーーーーーッハッハッハッハッハーーッ!」
すかさずバイデマギスが後を追う。
「喧嘩両成敗。一件落着でやんす」
走り行くふたりの後ろ姿を眺めながら、その喧嘩の火種をつくった道化師はにんまりと笑って舌を出した。
-完-
-完-
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