Sheryl Nome ~シェリル・ノーム~@Wiki

山よ銀河よアタシの歌を聴け!

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だれでも歓迎! 編集
~山よ銀河よアタシの歌を聴け!~   Presented by 「バサラの人」


この物語は、マクロス正史のパラレルワールドです。
十分承知の上、ご覧下さい。


※戦闘シーンは、1度目はWhat'bout my star?を聞きながら 
 二度目はNEW FRONTIERを聞きながら読んでくれると
 書いた人間が嬉しいです… 


マクロスF・F(フロンティア・ファイアー!!)
山よ銀河よ アタシの歌を聴け!

00話  ダブル・レター・アンド・レイター(二つの手紙と、遅れた男)


1.第一の手紙

2059年 ○月×日

 この日記帳も、もう13冊目になる。
おじ様に拾われて、文字を覚えてから書き始めて、ずっと続けてるから…
大体、4歳位から?
ズボラなアタシには珍しく(おじ様に似たのよ?私の責任じゃないんだから!)1年に一冊のペースでページを埋めている。


あ、でも最初の方は今見るとハズカシいなぁ…
文字も楽譜も、おじ様に習ったのだから、すごく、その…うわぁ、前衛的…
7つの時にお姉様に教わるまで、人に読んでもらえる文字って書けなかったのよね…
(お姉様って言うのは、マクロス7のおじ様の元メンバー。桜色の髪がスゴく綺麗なの♪)
今でも、楽譜だけは直らないけど…良いのっ!私が歌えば良いんだから!
…こんな事思ってても、ここに書いていても、おじ様への感謝は消えないと思う。
だって今までの日記には、おじ様の事ばっかりなんだもの。
おじ様が新しい歌を歌ってくれた。
私も憶えて、皆の前で一緒に歌った。
おじ様が操縦を教えてくれた。
思い通りのマニューバが出来ると、大きな掌で、頭を撫でてくれた。
おじ様が、又、女の人に軽―く声をかけて、何くれと世話をやいてもらっていた。
というか、この人本気で女の人達の感情に気付いて無いのだろうか…!
…気付いて無いんだろうな、お姉様が可哀想。
おじ様が、又、戦闘の中に歌いに行った。
心配で不安で、胸が張り裂けそうだったけど、帰ってきた皆も、おじ様も笑顔だった。
…そんなことばっかり。


私は相当なファザコンなんだと思う。
おじ様の事は、銀河で1番カッコいい男性だと思っているし、
おじ様のような歌手になりたい、私も歌で銀河中を震わせたいと思っている。
だからこそ、おじ様から離れて、一人で出来るまでやってみたいと思うの!
お金はおじ様と一緒に銀河を渡り歩いた今までの、私のメディア売上と著作権料でどうにかなります。
礼儀作法だって、ビジョン嫌いのおじ様よりテレビ出演回数は多いし、どうにかなります!
最後のおじ様の鬼門…バルキリーの操縦について。
「独り立ちしたいってぇんなら、バルキリーの操縦で俺に勝ってみやがれ!」
との事でしたね?それをこれから証明します。
13冊目の最初のページだけど、これは破り取って、貴方に渡します。
これは果し状…そして銀河の妖精シェリル・N・ノームの、自由への片道チケットよ!
今日の、ニューエドワーズ基地でのYF-24性能試験。
おじ様には3時からと伝えたけど…ゴメンナサイ、あれ嘘!正午から。
元々はおじ様に来た仕事だけど、アタシがおじ様のVF-19に勝てば問題無いよね?
早めに出てお待ちしています、逃げるならどうぞご自由に。そのまま出発するだけだから。
その真っ赤なオシリに一発喰らわせてやるから、覚悟なさい♪

貴方のカワイイ銀河の妖精 シェリル・N・ノームより
(署名の下には、ハートの上にこれ見よがしとキスマークがされている)


「…シェリル…あンのアホが…!」
朝方、この星での逗留先に選んだ安ホテルのロビーでこれを受け取り、
クシャッと手紙を丸めて、ギターを引っ掴んで、
支払いを済ませて、ホテルを駆け出すまで僅か10秒。
彼を知る者が見たら、支払いを忘れていなかった事にまず驚くに違いない。
そしてその次に、彼が他人の事でこんなにも泡を食う事にも驚くだろう。
それほどに、シェリルの存在は彼の中で大きいものだった。
シェリルが書いたのより、何倍だって、何十倍だって、俺の方が愛していると断言できる。
それにしたって…愛機の駐機場所に向かうシャトルカーを探し、駆けながら彼は思う。
「今、アイツは関係ねぇだろうが…!」
桜色の髪の、この前にあった時は随分艶めかしく成長していた、
しばらく会っていないバンドメンバーの事を思いながら、
彼はシャトルバスを、半ば体を張って停める。
「待ってろよ…!すぐに吠え面かかせてやるからなァ…!シェリルー!!」
また変な客だな、と思いながら、運転手はドアを閉じた。


2.第二の手紙


数日前の事…

…突然の御手紙、大変失礼と存じます。
ですが、貴方にどうしても頼みたい事があり、こうして筆をとっています。
私はこの惑星エデン、ニューエドワーズ基地において、新型VF開発試験担当として、
新星インダストリーより出向してきた、ヤン・ノイマンという者です。
お話というのは、この開発試験対象…我が新星社と、ゼネラル社が共同開発した試作機、
YF-24、ペットネーム「エボリューション」についてなのです。
エボリューション(新生)の名前からも分かるとおり、
「VF-11よりも扱いやすく、VF-17よりすべての面で高性能に」
という統合軍からの無茶な要求に応える形で、我が社が開発していた本機ですが、
言うなれば椅子取りゲームの最中、割り込みをかけられる形で、
ゼネラル社陣営が共同開発という形をとって来たと、我々開発者は認識しています。
ただ、その事で告訴なり、訴訟なりと、とやかく言うつもりはありません。
貴方にとって、歌う事こそが戦いであるように、
私たちにとっては、良い機体を作り上げる事が戦いであると信じているからです。


しかし、このまま泣き寝入りする事は、どうしても出来ない。
言うなれば、これは我々開発陣の我儘なのです。
私共の可愛い娘であるVF-19、これは貴方の代名詞とも言える機体ですよね。
この機体に慣れ親しんだ貴方が、孫娘とも言えるYF-24に乗り、
ゼネラル社テストパイロット共のYF-24のレコードを根こそぎ塗り替える。
これはYF-24の優れた機体性能が、我ら新星インダストリアルの技術によるものと
証明する、またと無いデモンストレーションになると思います。
テスト中、試験項目以外の指示は特にいたしません。あなたは好きなように飛び、好きなように歌っていただきたい。
貴方の為、VF-19に準じた操作系を設えたYF-24をご用意いたしました。
初めて乗るとしても、過不足は決して感じさせません。
私見ですが、過去に見た貴方の操縦についてこれるほどのエクスカリバー乗りを、
私は一人しか知らない。
現状、貴方がこのエデンにおける、最高の適任者なのです。

○月×日、1200時より、基地内3番ハンガーにおいて開始いたします。
どうかお願いです。私達の歌を、高く遠くに届けていただけませんか?
貴方にならこの気持ちがご理解いただけると、信じてお待ちしております。

敬具


シェリルは養父宛のこの手紙を、自分が初めに目に出来た事に感謝した。
行方など掴みようの無い養父の宛名を探し出したガッツ。
慇懃な文章の中、燃えてたぎる様な意地。
どれをとっても、養父のツボを突く手紙ではあったが…
「極め付けは、この一文よね…」
(どうかお願いです。私達の歌を、高く遠くに届けていただけませんか?)
歌、と言われた時点でもう決まったようなモノだ。
書いた人間は、明らかに養父と同じレベルのバカ(無論最上級レベルという意味で)
の扱いに長けている。
それともエクスカリバー乗りには、突き抜けたバカしかいないのだろうか?
その考え方に至って、シェリルはブルブルッと首を振る。
「いやいやいや…!私は違うわよ?私だけは…」
ね?と隣に浮いたペットロボットに同意を促す。
ディディーと呼ばれるマクロス7製のそれは、首を傾げるような仕草で答えるばかりだ。
とはいえ、とシェリルは考えた。これは前々からの計画実行のチャンスだ。


今まで養父との模擬戦…とはいえ、ケツを取り合う程度のお遊びではあったが…
バルキリーの腕前において、シェリルは師でもある養父に、一度も土をつけた事が無い。
理由は明白だ、と考えている。シェリルの腕前に応えるバルキリーに出会わないせいだ。
今まで養父の赤いVF-19と競い合った際の機体は、VF-11、VF-17といった、
言っては何だが総合機体性能に劣った機体ばかりであった。
幼い頃から親しんだ赤いVF-19を借りて、養父の乗った別機体に勝ったことはある。
互いにVF-11や、VF-1に乗れば、7/3位の割合で勝ちを拾える。
でも違う、そうじゃない。
うまく言えないが、そういう事では無いのだ…
自分が巣立つ時、越えるべき翼は、あの赤いサンダ―パターンでなければ…!
そう思っていたシェリルに、この手紙は正に、渡りに船であった。
「フフフ…!期待してるわよ、エボリューションちゃん…!ディディー手伝って!」
そう言って、シェリルは返信の準備と、寄越された手紙の1200の文字を
1500へ書き直す作業を始めた…


その日の夕食時、ブラブラとホテルに帰って来た養父に、届いた手紙を渡す。
固パンを毟りながら「へへっ!オモシれぇ奴じゃねぇか…!」
と、呟く養父に(ゴメンナサイおじ様…)と心で十字を切り、数日後に
控えた巣立ちの日の為、荷造りを進めるシェリルであった…


3.遅れた男


彼が指定ハンガーに、愛機と共に駆けつけたのは、1400時を過ぎてからであった。
「…っ!オイオイ、何だこりゃ…!」
ガウォークでハンガーの前に駐機し、周りを見回した彼が見たのは、
整然と並んでいるべき戦闘機群…恐らく、手紙で書かれていたYF-24であろう…
煙を吐きながら擱座したバトロイド。
イナーシャ制御をしくじったか、四肢が無残にねじくれたガウォーク。
着陸時に変形しそこね、ファイターとバトロイドの合いの子で転がった物…
全てに共通するのは、弾痕も無く、しかし起動不能にされている事だ。
唯一無事な一機…ガウォークでこちらを待つYF-24の上には、
ライヴで興の乗ったアーティストよろしく、足をコンソールに乗せ、
腕を組んだ彼の愛娘が、勝気な瞳を向けていた…
「逃げずに来た事は、評価してあげるわ、おじ様…!」

「随分御大層な招待状だったじゃねぇか…!」
「あらぁ?私はおじ様なら逃げるはずなんか無いって信じてたもの。流石はおじ様だよね!」
「へへっまぁな…」
経過はどうあれ、愛娘に褒められて悪い気はしない。
いい気になった彼を、機体の下から大きな声で呼ぶ声がある。
「やぁ~どうも、私がお便りしたノイマンです~!貴方が、あの有名な~?」
「あぁ、あんたが…って、テメェもグルかあぁ!!!」
「ひゃっ、違いますよ~!私共も、貴方の娘さんが来るとは知らなかったんです~!」
遠い怒鳴りあいで疲れたノイマンは、隣の助手から受け取った拡声器で後を続ける。
「来た途端に、アタシなら腕に自信はある、5分で良いから機動を見てくれとおっしゃって…そのまま機動テストに突入ですよ!」


ノイマンは、辺りの機体を見回しながら言う。
「彼女のメチャクチャなマニューバに付いていけたゼネラルのテストパイロットはごく少数。
その少数も無茶をしてこの有様です!笑うべきか泣くべきか、良く解りません!」
「笑えば良いじゃねぇか!ゼネラルさんに吠え面かかせたんだろ!」
「機体強度の練り直しで一月はカンヅメですよ!思わず苦笑いってヤツです…
ですが貴方の娘さんのお陰で、僕等のエボリューションはもっと強く、美しくなりますよ!」
「シェリルってんだ!美人だろぉ!?」
「存じてますよ!僕はシャロンしか聴きませんでしたが、シェリルさんのメディアはヘビーローテです!
テストパイロット申請書類を見て、ビックリしました!」
「ヤンさーん!ありがと~♪」
こちらはシェリルだ。最高の営業スマイルと投げキッスをヤンと、
ついでにゼネラルのテストパイロットに振りまく。
皆、鼻の下を伸ばして、手を振っている…
あぁ、負けるワケだわ…そうシェリルは思った。


「それでなんですがね!まだデータが足りないんです!テストを継続しようにも、シェリルさんと競えるパイロットと、機体が無い!」
ノイマンは、熱のこもった眼で続ける。
シェリルはそれを見て、この人もおじ様と同じくらい真っ直ぐだな、と思う。
「もっと正直に言えば…私の青春の結晶であるエクスカリバーと、今までの人生の集大成であるエボリューション、その戦いを見てみたい!」
「そういう事で…アタシとヤンさんの利害の一致というワケ、おじ様、解った?」
「ハン…男の扱いが上手くなると、そんな偉いのかよ?」
「…10年以上、女性に婚期逃させてる男が言うと滑稽よ?」
彼はバスに乗った時の、脳裏に翻った桜色の髪を思いながら返す。
「…だから、あいつの事は関係ねぇだろうが…!」
「アタシは誰の事とは、一言も言ってないけど?」
「…ヤロウ…!覚悟しろよこのパツキンモップ娘…!」
「それはこっちのセリフ…そのトサカみたいな髪ふんじばって、役に立って無い丸眼鏡、指突っ込んで割ってやるわ…!」
「…エキサイトした処で、お二人準備していただいてよろしいでしょうか?」
「おうよ!」「もちろん!」


シェリルには、幾つものアドバンテージがある。
一つは機体の性能差。VF-19と、その後継であるYF-24には、旋回・出力・操作性に圧倒的な差が存在する。
加えてこちらには、模擬弾をセットしたガンポッドを懸架済みだ。
戦場で出会ったなら、相手にならない程にシェリルが有利である。
二つにはディディーの存在だ。かの高名なドクター、通称Tの手によるこのロボットは、シェリルの機体制御を熟練のパイロット並にサポートする。
養父とシェリルの技能差は、ほぼ無視して良い所まで詰められているはずだ。
三つに、彼はギターを抱えながら操縦している。
ファイターならいざ知らず、より精緻な操作を要求されるバトロイドでの格闘、
もしくは彼の不慣れであるハズのガウォークでの戦闘ならば、より有利に勝ちを収められる。
シェリルに負ける要素は何一つ無い、それなのに。
そのはずなのに、シェリルの機体はもう幾度目かも知れず、地面に叩き付けられていた。


「…ダイジョウブデスカナ、シェリル?」
「…何でよ…何で一発も当てられないの…?」
今はコパイ席に乗せた、ディディーの気遣いが聴こえる。
「ツウサン18回目。スベテバトロイドデノ背負イ投ゲニヨルモノデスナ」
一回目は、絶対に避けられない距離からの射撃で勝負を決しようとし、肉薄され、地面に叩き付けられた。
二回目は、バトロイドで格闘を挑もうとし、羽交い締めにされ、優しく地面に落とされた。
それ以降は、もう覚えてもいない。
いや、それはまだ良い、良くはないが、本当の問題は別にある。
「何で…?おじ様、何で歌わないの!?」
「…今のオマエにゃ、歌いたくねぇ」


馬鹿な、ふざけるな。今の自分には、そんな価値は無いとでも言うのか!
………ねぇ、もう諦めよう、元々無理だったのよ………
もう一人のシェリルが囁く。煩い、邪魔だ!
「何をガマンしてるのか知らないけどよ…もう良いだろうが、疲れちまった」
「何で…?どうしてよ!真面目に相手をしてよ!」
………何となく、解ってたじゃない。おじ様には勝てないよ………
うるさいうるさい!少し黙っていろ!
ここで自分を示さねば、どこで示すというのだ!
歌で彼に勝てる訳が無い自分には、もう、バルキリーしか…!
………だからだよ、そんなツマラナイ事にこだわっているから、体も心も固まるの………
…え?
今、もう一人の自分が、笑った気がした。
………操縦なんて、私のナカの十分の一にも満たない………
………リズムとテンポ、そしてハートよ…それを歌に乗せて………
「帰ってメシにしようぜ、気にする事はねぇって」
………私達の100%、おじ様に見てもらいましょう!………
まただ、またこの感覚だ。
舞台に立った時の高揚感。胸の奥、震えたライオンが眼を覚ます。
「オマエはまだ、ガキなんだから」
シェリルの全身が震える。そして叫ぶ。
銀河の妖精よ、此処に在れ…!
「あ、あ…ああああぁぁぁぁぁーーー!」
シェリルは正面コンソールに額を強く叩き付け、自らを奮わせる。
視界は真っ赤に染まったが、痛みは程好く、凝り固まった理性を溶かしてくれた。
勝負はここからだ…!


二人の模擬戦…といっても一方的な展開ではあったが…それを眺めていたノイマンは、
視線を同じくしていた助手に声をかけられた。
「…彼女、先程までと全然動きが違いますね…ガチガチで、見ていられませんよ」
「そうだね…キミ、どっちが勝つと思う?」
「…心情としては、YF-24に賭けたいですね…しかし」
「何だ、じゃあ賭けにならないじゃないか」
「主任は、彼女が勝つと思っているので?」
「うん、流石に17の僕に負けるつもりは無いんでね…キミ、フォールド計測器はどうなってる?」
「…?なぜでしょう…徐々に数値が上昇していますが」
「LAI社の研究で、サウンドウェーブとフォールド波と呼ばれる物が、ほぼ同じ物と証明されたらしいね…なら、ここからが本番って事だ」
渓谷と砂漠に囲まれた基地は、年中陽炎が立ち上っている。
その陽炎を上塗りするように、金色の陽炎が、辺りを照らした。

―――What bout my ster…?  What bout my ster…?―――

「…!歌が聴こえます…!」
「大気の振動では無く、エネルギー光に類似した波長に歌を乗せるらしいね…すごいなコレは」
続くは赤い、もっと苛烈な光だ。

―――Its New Frontier!だからもっと 胸に火を点けろ…!―――


シェリルはハッキリと見た。向かい立つガウォークのキャノピーの奥、煌めいた物。
あれはいつか見た、鉤裂きのような満面の笑みだ。
着いて来い、こんどこそ遅れるな、と、自分を誘う笑みだ。
受けて立とうじゃない。そう思い、どちらが挑戦者かも忘れて互いに空を見やる。
「ディディー!超時空変形…!」
「ホンリョウハッキデスナ…ギターモード変形、体内臓サウンドブースター、オン!」
常識を超えた変形を成し、ギターに姿を変えたそれは、シェリルのコクピットにすっぽり収まる。
さぁ始めよう、彼と目一杯に楽しもう。
恋する彼に囁くように、別れを惜しむかのように、これが最後でも悔いの無いように。
「くだらない…今この時に比べたら、何もかもがくだらないわ…!」
もはや彼の娘では無く、シェリルでも無く。

―――掛け替えの無いモノ―――

ただ彼の歌に応え、共に踊る番いの鳥として、言うべきはこうだ。
「山よ、銀河よ!アタシの歌を聴けえぇぇ!!」

―――What bout my ster…!  What bout my ster…!―――

―――解き放つさ…!―――


4.ホワット・バウト・マイ・スター~シェリル必殺、エボリューション踵落とし!~


―――振り向くな 何時だって 情熱の向かう先に、そこはきっと在る!―――

―――Baby どうしたい? 操縦…! ハンドルぎゅっと握ってもうSTAND BY―――

互いにファイターへと姿を変えた二機は、じゃれあうように空中を駆けあう。
太陽に向かって、地上めがけて、時に雲を突き抜けて。
後ろを取り合い、視界の取れない腹を取り合う陣地戦を展開する。

―――Do you want my heart &want my love! Noんもう!スウィングしてkiss…kiss…!―――

―――砕け散る星達よ 新しい光となれ 闇を照らせよ…!―――

地面に叩きつけられ、ガンポッドを破損したシェリルには、もはやピンポイントバリアによる格闘しか残されていない。
歌を楽しみ、駆け引きを楽しみながら、シェリルはしたたかにチャンスを狙っていた。

―――中途半端なスタイルはNO! ブッ飛んじゃってるLOVEならfor me―――

―――Long long time 恐れてただけさ 扉はもう開かれてるのさ 後は飛び込んじまえよ…!―――

放つ放つ放たれる。マイクロミサイルのように光の帯を引き放たれるサウンドウェーブの光。
それをかわさず、互いに受け止めるのが、今日の二人のやり方だ。
エネルギー変換装甲はサウンドエナジーをも許容して変換し、
試験機カラーの淡いブラウンのバルキリーを、燃える真紅に。
赤くどこまでも紅いバルキリーを、燃える陽光の金色に照らし、染め上げる。

―――How Beautiful! Excuse me! 欲したら ラララ…! Possibilities!―――

―――It's New Frontier!そうさ自分が ここに居ると 鐘を打ち鳴らせ! WOW WOO!―――

先ほどと大まかな形は変わらない。機体性能を凌駕した腕で、養父の機体はシェリルの先に立つ。
明らかに違うのは、シェリルの内面だ。
解って貰おうとか、優しく扱って欲しいというような甘えは、もう無しだ。
落とす気で、いやほぼ殺す気で迫る。一発当てれば勝ち?そもそもそれが自分の甘えに他ならない。
銃が無ければ拳で。拳が落とされたなら機体をぶつけて。そのつもりで迫らずに、この差をもしかしたらでも埋められるか…!?
第一、殺しても死なない男に、命の心配をしても徒労だと、昔からシェリルは良く心得ている。

―――(point) I don't care $(dollars) How much fake!―――

―――It's New Frontier! だからもっと 胸に火を点けろ 掛け替えの無いモノ 解き放つさ!―――

許容できずに装甲から飛沫を上げた光が、空に零れて天幕を作り出す。
それは二人のダンスステージ、真紅と金色のオーロラである。
砕け散る星屑の光の狭間を縫うように、互いの疾駆を定義しあう。
コブラ・バレルロール・スーパーインメルマンターン。
シェリルが試みるマニューバの更に更に上を行き、赤い翼はこちらに先導して飛ぶ。

―――.(point) ふたつにひとつ! but「愛」鳴らして…!What 'bout my star!―――

―――目を醒ませ 感じるさ オマエとこの宇宙が クロスしてると―――

聞こえる、聞こえてくる。彼の思い、感情が、帯引く光に乗って聞こえてくる。
お前を愛していると、
お前に指先ほども傷ついて欲しくないと、
しかし自由に、激しく生きて欲しいと、その思いが混ざって、旋律として伝わってきて…
シェリルは自らも、愛を歌声に乗せる。

―――What 'bout my star!What 'bout my star!What 'bout my star…!Uh…―――

―――歌声で 答えろよ この胸にお前のメロディー 響かせるから…―――

彼女は、What 'bout my star…このドキドキは、アタシを何処に連れてくの?と。
養父は、It's New Frontier…お前の目の前に、新たな地平があらん事を、と。
口下手な二人は、翼に歌を乗せる事でしか、真意を伝えられない。
つまらない意地を張らず、もっと早くにこうしておけば良かったな、と、シェリルは思った。
養父は養父、自分は自分だと思っていたのだ。関係無いと、別の存在である、と。
そんなワケが無かった。
いくら養父に引け目を感じたからって、一番大事な、自分と彼の歌を否定出来るワケが無かったんだ。

―――Darlin'近づいて 服従? NO YOU,NO LIFE ナンツッテ もう絶対!―――

―――Long long Way 一歩踏み出せよ 心を縛るスベテの物を 引き千切れば始まりさ RIGHTS!―――

あぁ、引き千切る、引き千切ってみせる。そうシェリルは思い、機体を木の葉のように舞わす。
赤いバルキリーを置いていく形で、急転進し、空を目指す。
言うまでも無く、格闘戦において、上方とは絶対有利位置だ。
急降下によるピンポイントバリアパンチで、あの翼を叩き落とす。
その為に、雲を突き抜ける…!

―――need your heart & need your love OH YES!! スウィートでKISS…―――

―――It's New Frontier! 其処が何処でも 構わないさ! 俺は俺のまま WOW WOO!―――

大気圏下における空戦は、空力の理解が戦術の大元を占める。
上昇性能、その限定された能力に着目して、かつての時代に作られたのが、
前進翼と呼ばれる赤いバルキリーの翼形である。
手の子指、親指のみを開いて飛行機の翼に見立てたような姿のそれは、
冗談事のようなその形からの予想を裏切り、通常の形状を遥かに超える風切りを見せる。
重力に逆らうための翼、それがVF-19に備わる力だ。
つまりは、シェリルは判断を誤ったのだ。
上昇性能においてのみ、VF-19は、YF-24に拮抗し得る…!

―――乗っかっちゃってる恋でもGO! もう一回なんてないからHAPPY!―――

―――It's New Frontier! だから遠く 宇宙の彼方へ お前の夢を今 飛び立たせろよ…―――

「イイイェアアアァアア―――!」
サウンドウェーブに乗って聴こえた養父のシャウトが、雲を突き抜け自分へ迫るのを自覚する。
………ウソでしょ!?何で追い付けるの…?
苛烈に自由に、雲海を突き抜けた赤い翼はそのままシェリルを追い越し、翼を振ってみせる。
ついて来いと言うのか、決着を付けようと言うのか!
ふざけるな!いつまでも子供扱いをして…!
「…絶対吠え面かかせてやる…!!」
空力?重力下特性?そんな物、知った事か!!
翼を限界まで畳み、ロケット宜しく機体を変じたシェリルは、もはや彼だけを見て、スロットルを全開に開ける。
オーロラ群から空へ、星が星を追って行く…!

―――no more chance! no rules! GETしたいから ラララ…! I all give it to you.―――

―――Bran new days… 今がその時さ…! 戻れない昨日を捨てたなら 見えない明日も忘れろ!―――

届け届け届け…!歌声よ、破壊の速度よ、思いのたけよ、全て余さずあの翼へ…!!
ジリジリと相対距離を縮める機体に、更なる無茶を要求する。
ピンポイントバリア高出力展開、機首をラム(衝角)にして、思い切りぶつける…!
「シェリル、ソレデハサスガニ、彼ガ死ニマスゾ…」
ディディーは心配症だな…おじ様がこの程度で、死ぬワケ無いじゃない?
操作を続ける…展開!サウンドエナジーとは違う光が機首を覆い、突撃準備完了!
………出来るんでしょ、カワイコちゃん…!?もう少し付き合ってね…!

―――It's New Frontier! そうさ俺なら 此処にいるさ 鐘を打ち鳴らせ WOW WOO!―――

―――It's New Frontier! そうさ胸に…!―――

あと少し…500…400…300…200…あとほんの少しという処で、
YF-24は、エンジンを沈黙させた。
「…え?」
ガクガクと震え、ストールを起こした機体は、機首を180度回転させて、地上へと真っ直ぐ降下する。
「ウソでしょ…!」
「スロットル全開デ、バリアヲ高出力マデアゲタムチャノセイデスナ」
落ちる、真っ逆さまに、地上を目がけて加速する。
「…っ!!シェリルっ!?シェリル――!!」
彼の歌が止まり、赤いバルキリーが、自分の機体を追ってくるのが見えた…

「オイ馬鹿!シェリルっ!!脱出しろ!!…聴こえてんのかぁ!!」
「いや…!」
「はぁ…!?オマエ、何言ってんだ!死んじまうぞ!!」
「イヤよ!だって…アタシの歌は、まだ終わっていないもの…!」

―――3.Hey, I count down…―――

相対距離は遅々として埋まらず、不吉なカウントダウンは始まる。
もはや歌手で無く、父親としてシェリルを追う彼は、焦りと共に、段々と開く距離を見つめるより他に無かった。

―――2.Are you ready…?―――

ノイズと共に、基地からノイマンの通信が入る
「シェリルさん、状況は理解しています…加速器が止まっても、変形機構、動作に影響はありませんね?」
歌いながら、沈黙で肯定を返す。
どうやらノイマンは、自分の試みに気付いているらしいと見えた。
「基地から見て太陽の方向…そこの渓谷に機首を向けて下さい!今日も良い風です!」
「勝って見せて下さい…私の青春時代に…!」
それを最後に、通信が途絶する。

―――1.覚悟はドウ…!?―――

覚悟か…どうなんだろう。
養父の泡を食った通信を聴きながら、やけに冷静な思考でシェリルは考えていた。
今からやる事は初めてだけど、やって出来ない事では無いと思う。
何より、一番見て欲しい人に、自分の全力を見てもらえるのだ。
それは凄く、ドキドキするな…そう思った。
そして。

―――0.I(私を)、鳴らして! What'bout my star…!―――

「…っ!!シェリルーーー!!!」
彼の叫びが虚しく響き、YF-24は、雲間に吸い込まれていった…



雲間を抜け、彼が最初に見たのは、黒煙噴き上げる凄惨な墜落現場…では無かった。
彼女の機体の影は、どこにも無い…否。
影はあった。そして、歌も。

―――叶えて You yield to me… 教えて Your true feeling…―――

―――叶えて You yield to me… 急かして! Impulsive date…―――

先の歌の続きが、シェリルの声で聴こえる。
彼は影の先を見る。即ち日の光、太陽の中に…
金色の陽炎を纏い、一つの黒点があった。
「…これぞ必殺、竜鳥飛び…!そして!!」
サウンドウェーブを通して伝わる声に呼応して、黒点は人型に変形して、彼に迫った。
重力を味方に、大リーガーよろしく片足を掲げて落下してくる。

―――Let me know what you want, I would give you…―――

―――How fantastic to be with you! My love!―――

「シェリル必殺、エボリューション踵落とし…!もってっけえぇぇぇぇーー!!!」
掲げられた踵は、あやまたずVF-19のど真ん中に着弾した…!

―――Let me know what you want, I would give you…―――

―――How fantastic to be with you! My love!―――


5.イッツ・ニュー・フロンティア


…マクロスフロンティア、美星学園事務カウンターにて…

「シェリル・N・ノームさん。入学金振込と、マクロス7船籍、確認しました…あちらの市長さんのサインなんて、スゴイのねぇ…」
妙齢の事務員が、書類を返しながらシェリルに微笑み、そう言った。
「えぇ…養父がお世話になって、それがご縁で、今も良くしていただいてます」
「そう、スゴイお嬢様が来たのねぇ…でも貴女、良いの?パイロットコースとアイドル養成コース、複合でって事だけど…」
「はい、私、自分でやりたいと思ったこと、全部やってみたいんです!」
「そう、解ったわ…それじゃあこれで、手続きは終わり。明日から頑張ってね」
「はい!ありがとうございます!」
微笑ましくやり取りして、シェリルはカウンターを去った。
…エデンでの戦闘後、基地郊外20kmの砂漠にどうにか不時着したシェリルは、基地に駐機されたVF-19の中の手紙を見て、泣き崩れてしまった。
「しばらくバルキリー貸してやる、ケガすんなよ…ですって…?」
涙の正体は知っていた。自分はこの期に及んで、頭を撫でてもらう事を期待してたんだ。
とても寂しかった。認めてもらったのは嬉しいけど、おじ様はどこかへ行ってしまって、私は一人だ。
自分が望んだ事だと解っていても、それでも寂しかった。
ひとしきり泣いて、ノイマンに応急の修理をロハで頼み、翌日、ディディーとフォールド便を乗りついで、このフロンティアに着いたのがほんの二日前だ。
まだ寂しさは癒えなかった。でも、それに勝るくらいに、胸の鼓動が抑えきれない。
何せ、同年代の友人というものがほとんどいなかったシェリルだ。
正直想像しただけで、ドキドキが止まらない。
そんな時どうしたら良いのか、それを彼女は知っている…
「そう…歌いたい時は、歌っちゃえば良いの!」
学園からアパートへ帰る道は、黄色い銀杏の並木道。絶好のロケーションだ。
「Bran new days… 今がその時さ…♪」
そうだ、こうして歌う限り、アタシとおじ様は一緒だ。
素直にそう思えた。彼の歌は、自分に元気をくれる歌だ。
まだ枯れ切らない涙を拭い歩きながら、シェリルは心のままに歌う。
「戻れない昨日を捨てたなら 見えない明日も忘れろ…♪」

―――It's New Frontier! そうさ俺なら 此処にいるさ 鐘を打ち鳴らせ WOW WOO!―――

―――It's New Frontier! そうさ胸に 勇気を灯せよ お前だけの夢を…!―――

―――It's New Frontier!  そうさ俺なら 此処にいるさ 鐘を打ち鳴らせ WOW WOO!―――

―――It's New Frontier! そうさ胸に 勇気を灯せよ…――― 

―――お前だけの夢を…! 燃やし続けろ…!!―――

00話  ダブル・レター・アンド・レイター 終了

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