623 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/08/02(水) 00:01:00 ID:???
―― ミィーンミンミンミン…
―― ミィーンミンミンミン…
街中が蝉の大合唱に包まれている。
第3新東京市外れ、響き渡る蝉の音に混じって、日重工第二研究所からは大きな重機の音が聞こえてくる。
第3新東京市外れ、響き渡る蝉の音に混じって、日重工第二研究所からは大きな重機の音が聞こえてくる。
「…それにしても、右手腕部の新作予算、これも国連が出してくれるんですか?」
「そうらしい。今後、使徒戦における予算は国連に請求しろとも言われてきたよ。まぁ予算に困ることは当分なさそうだ」
「そうらしい。今後、使徒戦における予算は国連に請求しろとも言われてきたよ。まぁ予算に困ることは当分なさそうだ」
第一ケージでは、右手がぼろぼろに腐食したジェットアローン一号機が、技術者たちの手により急ピッチで修理されていた。
指から肘にかけて、装甲は完全に融解しており、内部の部品がところどころ飛び出し、焦げ付いたままに張り付いている。
指から肘にかけて、装甲は完全に融解しており、内部の部品がところどころ飛び出し、焦げ付いたままに張り付いている。
「別に文句をいうようなことじゃないんですが……」
「そうだな」
「そうだな」
加藤が言わんとしていることを時田も理解していた。
今、国連が使徒迎撃にさいている予算は、先進国、後進国の関係なしに各国が一定の率で負担してまかなわれている。
当然、オーストラリアをはじめ、セカンドインパクトにより大打撃を受けた国家、あるいは産業発展どころか復旧すら
ままならない発展途上国も、自国の経済発展を捨て置いて、使徒戦の予算を組んでいるのだ。
中には、毎年大量の餓死者を出している国も少なくない。
使徒戦による特需ともいえる資金投入を受けた日本経済は、他国に比べれば極めて恵まれたほうなのである。
今、国連が使徒迎撃にさいている予算は、先進国、後進国の関係なしに各国が一定の率で負担してまかなわれている。
当然、オーストラリアをはじめ、セカンドインパクトにより大打撃を受けた国家、あるいは産業発展どころか復旧すら
ままならない発展途上国も、自国の経済発展を捨て置いて、使徒戦の予算を組んでいるのだ。
中には、毎年大量の餓死者を出している国も少なくない。
使徒戦による特需ともいえる資金投入を受けた日本経済は、他国に比べれば極めて恵まれたほうなのである。
「考えても仕方のないことだ、加藤。俺たちがやらなければいけないのは、一刻も早くJAを戦線復帰可能状態にさせることだ」
立て続けに三度、使徒を迎撃したことで、その真価を大きく評価されたジェットアローン。
第五使徒戦前、日本政府、国連、NERVからそのお墨付きをもらった日重工は、予算、立場の面で数ヶ月前とは大きく変貌していた。
いまや第二研究所も、地上にJA収容ビルを含めた大型ビルが3つが立ち並び、さらに地下六階に渡る専用施設の建造も始まっている。
第五使徒戦前、日本政府、国連、NERVからそのお墨付きをもらった日重工は、予算、立場の面で数ヶ月前とは大きく変貌していた。
いまや第二研究所も、地上にJA収容ビルを含めた大型ビルが3つが立ち並び、さらに地下六階に渡る専用施設の建造も始まっている。
「で、来週のJA二号機実演会、本当にやるんですか?」
「あぁ、万田さんの頼みだからな…予定通り、第一研究所の実演場でだ」
「使徒がいつ来るかもしれないっていうのに何考えてるんですかね。これだから政治家ってのは…」
「あぁ、万田さんの頼みだからな…予定通り、第一研究所の実演場でだ」
「使徒がいつ来るかもしれないっていうのに何考えてるんですかね。これだから政治家ってのは…」
624 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/08/02(水) 00:02:44 ID:???
国連独立組織、NERV指揮下でありながら、日本政府の支援、そして戦略自衛隊との共同戦闘体制をもつ日重工は、
ちょうど国連と日本政府を仲介する立場としても、政治的に重要になってきていた。
来週の実演会も、安全保障理事国の首脳を招いて開くものだ。各国にJA二号機の有用性を示して使徒迎撃予算を
日本に集中させる目的ではないかという憶測は、時田に限らず日重工職員の多くが抱いているものだった。
国連独立組織、NERV指揮下でありながら、日本政府の支援、そして戦略自衛隊との共同戦闘体制をもつ日重工は、
ちょうど国連と日本政府を仲介する立場としても、政治的に重要になってきていた。
来週の実演会も、安全保障理事国の首脳を招いて開くものだ。各国にJA二号機の有用性を示して使徒迎撃予算を
日本に集中させる目的ではないかという憶測は、時田に限らず日重工職員の多くが抱いているものだった。
実際、ドイツ、アメリカはJAの有用性を否定し、前第五使徒戦でのエヴァの機動性の高さ、臨戦時の人的制御の有効性を評価した。
だが、皮肉にもその評価が、JA実演会を行ってる際に使徒が襲来してもエヴァのみで対処できるだろうという日本政府の意見を
生み出し、ことの運びとなったのである。
だが、皮肉にもその評価が、JA実演会を行ってる際に使徒が襲来してもエヴァのみで対処できるだろうという日本政府の意見を
生み出し、ことの運びとなったのである。
ともかく、時田たちのJAに対する思いなど何処吹く風、すでにJAは政治的道具として使われ始めていたのだった。
「来週の実演会、JA二体での模擬戦闘ってことですけど、武装はどうするんですか?」
「シールドも融解してしまったし、まぁ模擬戦闘だ。武装はなしでいいだろう」
「すると、とにかく手腕部の修理待ちってところですか・・・」
「シールドも融解してしまったし、まぁ模擬戦闘だ。武装はなしでいいだろう」
「すると、とにかく手腕部の修理待ちってところですか・・・」
加藤が見上げる先で、JA一号機の手腕部は一枚一枚、丁寧に腐食した装甲がはがされている。
「JA2についてだが、正式名称は”改良型二足歩行型決戦兵器/ジェットアローン二号機”でとおることになった」
「でも、どうせそんな呼び方は…」
「…ん、そうだ。もちろん、あくまで正式名称だ」
「まぁみんなJA2とかJA改とか読んでますしね。ここ第二はもっぱらJA2の呼び名でしょうか」
「第一研究所の意向も汲んでやりたいところだが、通称の件は”JA2”となるだろう。」
「でも、どうせそんな呼び方は…」
「…ん、そうだ。もちろん、あくまで正式名称だ」
「まぁみんなJA2とかJA改とか読んでますしね。ここ第二はもっぱらJA2の呼び名でしょうか」
「第一研究所の意向も汲んでやりたいところだが、通称の件は”JA2”となるだろう。」
先の第五使徒戦で辛くも破損を免れたJA2。戦闘後、再び輸送機で第一研究所のある旧東京に運搬され、
今現在、実演会に向けてのチェック作業の最終段階を迎えている。
今現在、実演会に向けてのチェック作業の最終段階を迎えている。
「主任、時間です。そろそろ行きましょうか」
「そうだな」
「そうだな」
二人は一路、JA2のチェックが行われている第一研究所へと向かう。
625 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/08/02(水) 00:05:21 ID:???
第一研究所に向かうVTOL機の中で、時田は先の使徒戦のことを思い出していた。
第一研究所に向かうVTOL機の中で、時田は先の使徒戦のことを思い出していた。
「時田主任!このままじゃ!」
激しい揺れの中で、時田の耳に加藤の声が届く。思いのほか激しい第五使徒の攻撃で、JA2のシールドは
あっという間に融解していく。
このままではまずい――時田がそう思ったときだった。
あたりを包む激しい轟音の中で、ひとつだけ、甲高く金属的な音、シールドの融解音とは異質な何かが時田の耳に聞こえた。
あっという間に融解していく。
このままではまずい――時田がそう思ったときだった。
あたりを包む激しい轟音の中で、ひとつだけ、甲高く金属的な音、シールドの融解音とは異質な何かが時田の耳に聞こえた。
「(この音はなんだ…?? ………まさか…いや、そうか、そうだ)」
パニック状態寸前の中で、時田の思考が数分前の状況を再構成し、音の正体を思い出させる。
「待て!JA1はどうなってる!?」
時田の声に応じて、加藤が激しい振動でぶれているモニターを手で抑えて画面を切り替える。
「!?…これは!?」
「…まさか!?」
「…まさか!?」
モニターに表示されているのはJA1の光学センサーからの映像だ。激しい閃光を撒き散らしながら加粒子砲を打ち出す
第五使徒のすぐそばで、JA1は両足を踏ん張らせながら、使徒への攻撃を続けていた。
第五使徒のすぐそばで、JA1は両足を踏ん張らせながら、使徒への攻撃を続けていた。
「管制室!聞こえるかっ!!JA一号機の制御は生きてるのか!?」
『ジジ……ジジジ…主任…きてます…JAは……制御中です…ジジジ…いけます!主任、指示を!……ジジジ』
『ジジ……ジジジ…主任…きてます…JAは……制御中です…ジジジ…いけます!主任、指示を!……ジジジ』
ノイズの中に聞こえる第二研究所管制室の声。
時田も加藤も、JA1は加粒子砲発射時の衝撃波で吹き飛ばされていたものだと思っていたのだが、
どうやら咄嗟に管制室が姿勢制御信号を出し、JA1をふんばらせたらしい。
時田も加藤も、JA1は加粒子砲発射時の衝撃波で吹き飛ばされていたものだと思っていたのだが、
どうやら咄嗟に管制室が姿勢制御信号を出し、JA1をふんばらせたらしい。
626 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/08/02(水) 00:08:48 ID:???
「主任!これを見てください!」
「主任!これを見てください!」
唐突に加藤が叫ぶ。言われたとおり、モニターに目をやると、そこには表皮が破れ内部が露呈しはじめた使徒の姿があった。
JA1は、執拗にもその部分に拳をたたきこみつづけている。露呈した内部には、なにやらファイバー状の構造が見え隠れしており、
周縁部には光の筋が浮かび上がっている。
JA1は、執拗にもその部分に拳をたたきこみつづけている。露呈した内部には、なにやらファイバー状の構造が見え隠れしており、
周縁部には光の筋が浮かび上がっている。
「こいつは…まさか粒子加速器か?」
「…!主任、だったら!」
「…!主任、だったら!」
そう、ここを破壊すれば使徒は加粒子砲を撃てなくなる。まさに決定的な弱点なはずだ。
だが――時田は考える。まだJAの攻撃力よりも使徒の強度のほうが勝っている。
表皮を破るのにこれほど時間がかかっているのだ、たとえ内部組織といえど破壊するのには時間がかかりすぎる。
だが――時田は考える。まだJAの攻撃力よりも使徒の強度のほうが勝っている。
表皮を破るのにこれほど時間がかかっているのだ、たとえ内部組織といえど破壊するのには時間がかかりすぎる。
『シールド融解率、…ジジシ…゙60%を突破!』
ノイズの中、シールド融解の危機をつげる警報は、さらに騒々しさを増している。もはや残り時間は僅かだ。
「(何か手があるはずだ…必ず有効な手段が…!!)」
モニターの信号もノイズの影響を無視できなくなってきたのだろうか、たびたび映像が乱れる。
膨大な運動量、電荷をもつ粒子が生み出す電磁波は無線、有線かかわらず通信に大規模な影響を与えていた。
膨大な運動量、電荷をもつ粒子が生み出す電磁波は無線、有線かかわらず通信に大規模な影響を与えていた。
627 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/08/02(水) 00:12:03 ID:???
と、時田の頭に、赤木博士の言葉が思い浮かぶ。ちょうど作戦開始前のことだ。
と、時田の頭に、赤木博士の言葉が思い浮かぶ。ちょうど作戦開始前のことだ。
――『おそらく敵の加粒子砲は重金属イオンを加速したものだと思われます。状況によっては無線通信が…』――
そう、加粒子砲はプラス電荷を持つ粒子を、電磁場を利用して超高速まで加速し発射するものだ。
JAの光学センサー越しに見える使徒の構造は、円環構造であり、人類が開発した円形加速器に酷似している。
JAの光学センサー越しに見える使徒の構造は、円環構造であり、人類が開発した円形加速器に酷似している。
―― 使徒が、いわゆるサイクロトロン、シンクロトロンのような人工加速器と同じ構造ならば……
「管制室!至急、サンダーフィストの準備!全出力を右手放電トロードに傾注しろ!いいか、全出力だっ!」
『ジジ……了か…ジジジ…ぜ、全出力、ジジ…右手へ!!!』
「主任!?全出力なんて、そんな高電流を流したら!!右手ごと融解してしまいますよ!」
「それでいい!とにかく敵加速器に!電場をかけれればそれでいい!そうすればやつのビームの軌道は制御できなくなるはずだ!」
『ジジ……了か…ジジジ…ぜ、全出力、ジジ…右手へ!!!』
「主任!?全出力なんて、そんな高電流を流したら!!右手ごと融解してしまいますよ!」
「それでいい!とにかく敵加速器に!電場をかけれればそれでいい!そうすればやつのビームの軌道は制御できなくなるはずだ!」
たった一瞬だけ加粒子ビームをそらせれば、必ずやNERVの陽電子砲が使徒のコアをしとめるだろう。
もはや、それにかけるしか手はない。すでにシールドの融解は間近だ。車内の揺れも、激しい縦揺れとなっている。
もはや、それにかけるしか手はない。すでにシールドの融解は間近だ。車内の揺れも、激しい縦揺れとなっている。
「聞こえてたな!?右手が融解してもいい!サンダーフィストを使って敵加速装置を制御不能にするんだ!!」
『了解!!!』
『了解!!!』
――そして、激しい警告音とともにJA1のモニターが消える。
628 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/08/02(水) 00:16:18 ID:???
VTOLの窓の外には、広大な埋立地が見えている。
かつて花の都と呼ばれた世界屈指の大都市、東京都は、2000年に落とされた新型爆弾、そしてそれに続く
セカンドインパクトの影響による海水上昇によって、その大部分が壊滅した。
武蔵野台地など西部の多摩地区などは未だ行政区画として再編成されて旧東京市という名称で市町村となったが、
特別行政区の大半は封地にされ、日重工や戦自研、あるいは各省庁のための実験施設が僅かに点在するばかりである。
VTOLの窓の外には、広大な埋立地が見えている。
かつて花の都と呼ばれた世界屈指の大都市、東京都は、2000年に落とされた新型爆弾、そしてそれに続く
セカンドインパクトの影響による海水上昇によって、その大部分が壊滅した。
武蔵野台地など西部の多摩地区などは未だ行政区画として再編成されて旧東京市という名称で市町村となったが、
特別行政区の大半は封地にされ、日重工や戦自研、あるいは各省庁のための実験施設が僅かに点在するばかりである。
「主任、そろそろ着きますよ」
後ろの席から加藤の声がかかる。窓を見下ろせば、見慣れた発着場がある。
日重工でJAの開発をしてきたJA開発推進課は、ここ、旧東京市の第一研究所を長らく拠点としていた。
今でこそ、徐々にその人員、機材は第3新東京市へ移行しつつあるが、それでも大規模な実験や兵器開発を行うのは
第一研究所であり、――そして、時田達にとっては数々の思い出の地でもある。
日重工でJAの開発をしてきたJA開発推進課は、ここ、旧東京市の第一研究所を長らく拠点としていた。
今でこそ、徐々にその人員、機材は第3新東京市へ移行しつつあるが、それでも大規模な実験や兵器開発を行うのは
第一研究所であり、――そして、時田達にとっては数々の思い出の地でもある。
「なんだかここに着くと落ち着きますね」
VTOLを降り立つと、吸水コンクリートで固められた地面の独特の感触が二人の足に伝わってくる。
「そうだな。俺は昔はこのだだっ広さに落ち着かなかったものだったが……」
ふと、昔を思い出して苦笑いする時田。
ちょうど国立第三試験場に隣接している第一研究所は、まさに陸の孤島そのものと言ってもいい。
周囲は数キロに渡りコンクリートで埋め立てられており、ところどころ、遠くにほかの施設が見えるだけだ。
そのため、第一研究所内では職員の宿舎に始まり、各種食堂やちょっとした娯楽施設までが用意されていて、
ある意味閉鎖系のコロニーと呼んでもいいような環境でもある。
ちょうど国立第三試験場に隣接している第一研究所は、まさに陸の孤島そのものと言ってもいい。
周囲は数キロに渡りコンクリートで埋め立てられており、ところどころ、遠くにほかの施設が見えるだけだ。
そのため、第一研究所内では職員の宿舎に始まり、各種食堂やちょっとした娯楽施設までが用意されていて、
ある意味閉鎖系のコロニーと呼んでもいいような環境でもある。
今回のJA模擬戦実演会も、第一研究所となり、国立第三試験場内で行うことが正式に決まっている。
―― だが、実演会で起こりうる事態など、時田たちにはまだ知る由もなかった。
―― だが、実演会で起こりうる事態など、時田たちにはまだ知る由もなかった。
E P I S O D E : 7 「 人 の 造 り し も の 」
641 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/08/13(日) 22:56:53 ID:???
年中真夏の第3新東京市ではあるが、早朝のジオフロントはやはり肌寒い。
この広大な地下空間の静けさもあいまって、薄霧に包まれたNERV本部ビルがよりいっそう寒々しく見える。
そして、その霧の中、ピラミッドの上部に位置するNERV総司令官公務室。
年中真夏の第3新東京市ではあるが、早朝のジオフロントはやはり肌寒い。
この広大な地下空間の静けさもあいまって、薄霧に包まれたNERV本部ビルがよりいっそう寒々しく見える。
そして、その霧の中、ピラミッドの上部に位置するNERV総司令官公務室。
『…本当にいいんですね、碇指令』
「あぁ、かまわん。例の計画は予定通り頼む」
『わかりました。すでに準備はできています』
「…また君に借りができたな」
『返すつもりもないんでしょう?では、シナリオ通りに…』
「あぁ、かまわん。例の計画は予定通り頼む」
『わかりました。すでに準備はできています』
「…また君に借りができたな」
『返すつもりもないんでしょう?では、シナリオ通りに…』
…ガチャ。
「…碇、本当にいいのか?」
冬月が神妙な面持ちでたずねる。
(とはいえ、神妙な顔つきなのは、手にしている毎朝新聞の第三面の記事の文字が小さすぎるからであるが)
(とはいえ、神妙な顔つきなのは、手にしている毎朝新聞の第三面の記事の文字が小さすぎるからであるが)
「ふ…問題ない…。日本政府に批判が集中しているこの時期こそチャンスだ。」
「…だが、民間とはいえ彼らとて、その程度の問題で挫折する連中ではあるまい」
「所詮、一企業に過ぎん。予算がなければ何もできまい。すでに委員会はドイツ、アメリカの両政府に介入している」
「…しかし、予算がなくても彼らはやりそうな気もするが…」
「……。 …問題…ない」
「おい、碇」
「…だが、民間とはいえ彼らとて、その程度の問題で挫折する連中ではあるまい」
「所詮、一企業に過ぎん。予算がなければ何もできまい。すでに委員会はドイツ、アメリカの両政府に介入している」
「…しかし、予算がなくても彼らはやりそうな気もするが…」
「……。 …問題…ない」
「おい、碇」
顔の前に組んだ手袋とサングラスの下で、ゲンドウはいやな汗を流していた。
「…それにしても碇」
「なんだ」
「おまえ、まさか八百長の試合でもするつもりはあるまいな?」
「…冬月、新聞の読みすぎだ」
「なんだ」
「おまえ、まさか八百長の試合でもするつもりはあるまいな?」
「…冬月、新聞の読みすぎだ」
公務室の割に公務が少ない二人である。
642 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/08/13(日) 22:57:56 ID:???
照りつける太陽があたり一面のコンクリートを熱し、いったいは熱された空気で揺らいでいる。
ここ、国立第三試験場では、来るJA公試実演会に向けJA二号機の最終チェックが行われていた。
照りつける太陽があたり一面のコンクリートを熱し、いったいは熱された空気で揺らいでいる。
ここ、国立第三試験場では、来るJA公試実演会に向けJA二号機の最終チェックが行われていた。
「N2リアクターの調子は?」
「はい、7回の実働実験でいずれも問題はありません。制御プログラムのほうも十分洗いました」
「となると、おおよそ制御関連は全部クリアか」
「はい、7回の実働実験でいずれも問題はありません。制御プログラムのほうも十分洗いました」
「となると、おおよそ制御関連は全部クリアか」
時田は、めまぐるしく寄せられる各課の報告に目を通しながら、JA2の最終点検に不備がないかをチェックしている。
「主任!」
「ん、加藤か。OSのほうはどうだ?」
「シミュレーションでは問題なし、ベンチもオールクリアです」
「そうか。JA一号機は?」
「第二開発課の6班が可動部の最終チェック中ですが、疲労しているパーツは全部取り替えたみたいなので大丈夫でしょう」
「よし。デバイスチェックが終わり次第、第二課の連中には休憩に入るように言っておいてくれ」
「わかりました」
「ん、加藤か。OSのほうはどうだ?」
「シミュレーションでは問題なし、ベンチもオールクリアです」
「そうか。JA一号機は?」
「第二開発課の6班が可動部の最終チェック中ですが、疲労しているパーツは全部取り替えたみたいなので大丈夫でしょう」
「よし。デバイスチェックが終わり次第、第二課の連中には休憩に入るように言っておいてくれ」
「わかりました」
今、ここ日重工第一研究所には、JA開発部のほとんど総員が集まっている。何せ次の実演会は各国の首脳も来るのだ。
第二研究所の面々も、実演会が成功するように、JA一号機のチェックに総力をあげている。
第二研究所の面々も、実演会が成功するように、JA一号機のチェックに総力をあげている。
「やっぱ装甲の色は白と青が理想だよなぁ」「馬鹿いえ、赤と黒がいいに決まってる」「…遠距離武器が…ない」
「なぁ、音声認識の実装企画はどうなったんだっけ?」「あれ?確か新開の7課がやるとか言ってたけど」
「電力効率の面から考えればHD455タイプのほうがいいかもしれないな」「あとで実験してみる?モジュールの手配は…」
「なぁ、音声認識の実装企画はどうなったんだっけ?」「あれ?確か新開の7課がやるとか言ってたけど」
「電力効率の面から考えればHD455タイプのほうがいいかもしれないな」「あとで実験してみる?モジュールの手配は…」
普段の倍の活気にあふれている研究所内だが、いたるところでの話題はジェットアローン一色である。
設計の話題からJAの今後の進展まで、彼ら一人一人が、JAに自らの夢を重ね、語っている。
設計の話題からJAの今後の進展まで、彼ら一人一人が、JAに自らの夢を重ね、語っている。
実演会はいよいよ明日ということもあり、職員の微妙な興奮と緊張が時田にも伝わっていた。
643 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/08/13(日) 23:03:13 ID:???
―― ピンポーン
―― ピンポーン
葛城家のチャイムに反応したのは、その主ではなく、同居人とペットのペンギンであった。
「はいはい……あれ?リツコさん?」
「あら、シンジくん、おはよう。ミサトは?」
「あぁ、ミサトさんなら多分……」
「あら、シンジくん、おはよう。ミサトは?」
「あぁ、ミサトさんなら多分……」
遠くからどたばたという音とともに、主の声が聞こえてくる。
「ごめぇーんリツコ!あと少しでメイク終わるから待っててぇ!」
「…だそうです」
「…だそうです」
数分後、ちょうどリツコがぼやき始めたころに、ミサトが現れる。
「ごめんごめん!ちょっち今日寝坊しちゃってさ~」
「貴方最近乱れてるわよ。前は公務の日ぐらいはしっかりしていたのに。だいたいメイクぐらいVTOLの中でもいいんじゃなくて?」
「何言ってんのよ、ノーメイクで外出られるほど余裕ないわよ。あんたはどうなのよ?」
「…なんだか泣ける話ね」
「貴方最近乱れてるわよ。前は公務の日ぐらいはしっかりしていたのに。だいたいメイクぐらいVTOLの中でもいいんじゃなくて?」
「何言ってんのよ、ノーメイクで外出られるほど余裕ないわよ。あんたはどうなのよ?」
「…なんだか泣ける話ね」
シンジにしてみれば早朝の玄関先でこんな話をされるのは、はた迷惑な話であるのだが、二人はお構いなしだ。
「じゃぁシンちゃん、今日は遅くなると思うから先食べててね」
「はい、わかりました。あの、保安部の人たちには…」
「そうねぇ、また何か差し入れると喜ばれるかもね。じゃ、行ってきます」
「はい、わかりました。あの、保安部の人たちには…」
「そうねぇ、また何か差し入れると喜ばれるかもね。じゃ、行ってきます」
シンジを残し、ミサトとリツコは部屋を後にする。今日は、シンジは学校がないので留守番なのである。
…余談ではあるが、シンジの料理の腕前は日に日に上昇している。
もちろん、その理由はここでは特筆しなくてもよいだろう。
もちろん、その理由はここでは特筆しなくてもよいだろう。
644 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/08/13(日) 23:17:48 ID:???
「それにしても、シンジくん、割と元気ね。先の戦闘のショックのあとを引かなくてよかったわ」
「そうね。一時はどうなることかと思ったけれど。まぁ今回はトリガー引くだけだったしねぇ~」
「それにしても、シンジくん、割と元気ね。先の戦闘のショックのあとを引かなくてよかったわ」
「そうね。一時はどうなることかと思ったけれど。まぁ今回はトリガー引くだけだったしねぇ~」
第五使徒の戦闘では、初号機はJA2とシールドに守られて被害こそなかったものの、目前に加粒子砲が向かってくるさまを
目の当たりにしたシンジは、戦闘後、ショックで気絶してしまった。
その後、心的外傷後ストレス障害などを懸念したミサトやリツコは、シンジのカウンセリングにあたり、
なんとか事なきを得たのである。
いまやエヴァパイロットであるチルドレンは、NERVにとって最優先で保護しなければならない存在であり、
さらにレイに比べて抜群のシンクロ率を誇るシンジは、日重工に対抗するための要と言ってもよい。
無論、本人はNERV全体の期待を知ってか知らずか、使徒戦後もまじめにエヴァの訓練を続けている。
目の当たりにしたシンジは、戦闘後、ショックで気絶してしまった。
その後、心的外傷後ストレス障害などを懸念したミサトやリツコは、シンジのカウンセリングにあたり、
なんとか事なきを得たのである。
いまやエヴァパイロットであるチルドレンは、NERVにとって最優先で保護しなければならない存在であり、
さらにレイに比べて抜群のシンクロ率を誇るシンジは、日重工に対抗するための要と言ってもよい。
無論、本人はNERV全体の期待を知ってか知らずか、使徒戦後もまじめにエヴァの訓練を続けている。
「うまくいけば、今月中にもエヴァ弐号機が配備されるんでしょう?」
「そうね、碇司令がドイツ支部、ドイツ政府と調整中よ。JAのこともあって引き渡しは間近とみていいわ」
「エヴァが三体いれば結構楽になるわね~。作戦部としては嬉しいわ」
「そうかしら?日重工に使徒迎撃の予算が割り振られたせいで、今後NERVの予算の縮小もありえるわよ?」
「げっ!」
「そうね、碇司令がドイツ支部、ドイツ政府と調整中よ。JAのこともあって引き渡しは間近とみていいわ」
「エヴァが三体いれば結構楽になるわね~。作戦部としては嬉しいわ」
「そうかしら?日重工に使徒迎撃の予算が割り振られたせいで、今後NERVの予算の縮小もありえるわよ?」
「げっ!」
国連から日重工に対し使徒迎撃のための予算が割り振られたものの、全体の予算が増えたわけでない。
NERV内では、今後のJAの実績がエヴァに勝っていた場合、NERVへの予算縮小もありえるとして、
先の使徒戦では協力的だったものの、 特に技術部を中心に日重工への技術的・心的な対抗心は根強い。
実際のところ、委員会が国連に対しNERVへの予算の増額を求めているものの、議会での承認は得られていないという。
NERV内では、今後のJAの実績がエヴァに勝っていた場合、NERVへの予算縮小もありえるとして、
先の使徒戦では協力的だったものの、 特に技術部を中心に日重工への技術的・心的な対抗心は根強い。
実際のところ、委員会が国連に対しNERVへの予算の増額を求めているものの、議会での承認は得られていないという。
645 :199-200 ◆/Pif9px8OM :2006/08/13(日) 23:19:22 ID:???
「そういえば使徒の解体予算もどーたらこーたらとか言ってたわねぇ」
「そ。今期は使徒解体のための予算を削減して、浮いた分を技術部2課にまわしてるわ。兵器新作のためにね」
「…じゃぁあの風景はしばらく続くわけ。あ~さわやかな朝が台無しね」
「そういえば使徒の解体予算もどーたらこーたらとか言ってたわねぇ」
「そ。今期は使徒解体のための予算を削減して、浮いた分を技術部2課にまわしてるわ。兵器新作のためにね」
「…じゃぁあの風景はしばらく続くわけ。あ~さわやかな朝が台無しね」
二人が乗っているVTOLの窓の外には、解体中の第五使徒の姿がある。コアの回収こそできなかったものの、
外皮とも呼べる部分は何らかの無機化合物でできていたのだろうか、第四使徒と異なり腐食も少ない。
外皮とも呼べる部分は何らかの無機化合物でできていたのだろうか、第四使徒と異なり腐食も少ない。
「そうそう、話は元に戻るけど、シンジくんの学校生活のほうはどうなの?」
「順調みたいよん?こないだも二人、男の子の友達が遊びに来てたしね」
「エヴァのパイロットであることを守秘義務にしたのは正解だったかしらね」
「そうね~。あ、でも、ただひとつ、レイと仲が悪いみたいなのよ」
「レイと?」
「順調みたいよん?こないだも二人、男の子の友達が遊びに来てたしね」
「エヴァのパイロットであることを守秘義務にしたのは正解だったかしらね」
「そうね~。あ、でも、ただひとつ、レイと仲が悪いみたいなのよ」
「レイと?」
綾波レイ ――ファーストチルドレン。ミサトにしても謎の多い少女だ。
チルドレンは、本来作戦部直属となるのだが、レイだけは事実上ゲンドウの直下と言ってもよい。
すべての情報が封鎖しているため、レイの詳細を知る人間はほとんど皆無に等しいのだ。
チルドレンは、本来作戦部直属となるのだが、レイだけは事実上ゲンドウの直下と言ってもよい。
すべての情報が封鎖しているため、レイの詳細を知る人間はほとんど皆無に等しいのだ。
「あたしにもよく分からないけどねぇ」
「レイ自身には問題はないわよ。零号機とのハーモニクスも改善してるし、こないだの使徒戦ではシンクロ率の新記録を出したわ」
「…そういう技術的問題じゃぁないわよ。まぁいっか。今のところは問題もないし」
「レイ自身には問題はないわよ。零号機とのハーモニクスも改善してるし、こないだの使徒戦ではシンクロ率の新記録を出したわ」
「…そういう技術的問題じゃぁないわよ。まぁいっか。今のところは問題もないし」
すでにVTOLは高度をあげ、第3新東京市から離れつつある。窓の外の風景もビル群から山々へと移り変わっていく。
「それにしても、シンジくん、保安部のガードと仲いいの?」
「ん~、そうみたい。休みの日なんか昼食作って差し入れしていたときもあったわ」
「そんなんでいいのかしらねぇ、うちの保安部は…」
「平和ってことじゃないの?」
「ん~、そうみたい。休みの日なんか昼食作って差し入れしていたときもあったわ」
「そんなんでいいのかしらねぇ、うちの保安部は…」
「平和ってことじゃないの?」
VTOLが目指すのは、JA実演会の行われる国立第三試験場だ。ミサトとリツコはNERVの代表として呼ばれているのである。
だが、ミサトもリツコも、今回の実演会が、NERVが裏で糸を引いたものであるということは知らない。
だが、ミサトもリツコも、今回の実演会が、NERVが裏で糸を引いたものであるということは知らない。