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母娘竜

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takugess

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母娘竜



 福井県を流れる九頭竜川。この川沿いにとある小さな神社があった。

 そこは先ほどまでちょっとした戦場だった。今はもう、戦場ですらない。

「きゃあぁっ!!」

 身長148cmの小さな体が、鉄筋コンクリート製の母屋に激突する。
 以下に強靭な膂力といえど、壁を粉砕するのには投げつけたモノの方が弱かった。
「み、深雪!」
 白衣を着た女性がそちらの方に駆け出そうとして、横っ飛びに飛ぶ。飛んで雷霆に撃たれる。
 その白い肌はすでに切り裂かれ、焼かれ、弾痕が走り、常人に在らざる再生能力も限界を迎えていた。

 打ち負かされた女性たち、そして打ち負かした男女。

 共に、この変貌した世界の中で異能を振るう超人、オーヴァードである。

 更に言えば、打ち負かされたのは人間とオーヴァードの共存を謳い善を為さんとする組織、UGNの関係者。
 研究班の一員である“刀剣師”九頭竜香澄と、その娘にしてUGNイリーガル“竜の巫女”九頭竜深雪。
 その他、諸般の事情でこの神社に集っていたUGN関係者たちも周囲に倒れ臥している。

 打ち負かしたのは、オーヴァードの我欲を満たさんとする秘密結社、ファルスハーツの、それも上層部の存在。
 UGNを離反した超天才アルフレッド・J・コードウェル博士と“マスターレイス”たち。後春日恭二も。
 約一名を除いて、いずれもここにいたUGNを屠るなら単身で事足りる魔神ばかりである。

 しかし、はたしてそれほどのものがここにあるのだろうか……!?

 マスターレイスたちがそれぞれに疑念を抱く中、コードウェルが一歩前に出る。

「そろそろ教えてもらおうか、“刀剣師”よ。お前ほどの者が何故、この他愛も無い神社に拘る?
 ましてや、己の傷つくも構わずあの小娘を庇う訳は?」
「……コレでも、私の腹を痛めた娘よ?」
 見下ろすコードウェル博士と、顔を上げる事も儘ならぬ香澄。博士は彼女の喉元を掴むと、持ち上げ、再び問う。
「そこだ、そもそも17年前、培養槽を使わずあの娘を自ら産んだ、その理由が私には分からん。
 答えてもらおう、ここに……それともあの男に何がある!? ジャーム化し怪物と成り果ててもなお生かし続ける程の!?」
「……流石ね、良い質問だわ。でも、17年前に言えなかった事が、“今の”貴方に言えるとでも?」

 その瞬間、コードウェルの真後ろにいた“マスターレイス09”レリア・ジュリーは恐怖に震えた。

 彼女だけではない。
 居並ぶマスターレイスたちも、傷つき倒れた者たちでさえ博士の発する激怒のオーラを受けて跳ね跳ぼうと足掻き、適わず痙攣する。
 それほどまでに香澄の発した言葉はコードウェルを傷つけたのだ。

「もはや貴様に言葉を使わせるわけにはいかん、死ね……っナニィッ!!??」

 コードウェルがその手に力を込め、香澄の頚椎を圧し折ろうとしたその刹那。何かが春日恭二を踏み台にして跳び込み、まさにその腕を切り落とした。

「……けほっ、少し遅いわよ……」
「申し訳ない。ご婦人の危機を救えなくなる所であったとは、我輩もまだまだ未熟であった……」
 左腕に香澄を抱きかかえ、右手に握るは聖剣ガラティン。そういえば香澄の手首には緑色のバンダナが。
 これなる鉄巨人こそ、聖杯探索の騎士ガウェイン卿の成れの果て、“円卓の騎士”嵯峨童子であった。

「ふむ、欧州産のレネゲイドビーイング「否!我輩は聖杯探索の騎士」が……ええい、今日はこれで引くぞ」
 台詞の腰を折られた博士は、それ以上の戦闘の続行をあきらめ、撤退する。長引けば更に増援が来ると判断したのだ。

「……ふみ?」

 深雪が目覚めたのは、最近殆ど使っていない自分の部屋の布団の中。
 全身の砕けた骨はほぼ癒着したようだが、たいして丈夫でも無い筋繊維がかなり損なわれているのは自覚出来る。
 左手を掴まれる感触に、苦労してそちらを見ると、握っているのは……母、香澄。どうやら、看病疲れで寝ているらしい。

 もやっとした意識が少しずつ思い出す。

 彼女は、香澄は自分を庇おうとしてくれたのだ、と。
 おそらく、彼女は自分の中に何か仕掛けをして、それを守ろうとしていたのだろう。

 だとしても……

 少しだけど、心の中が暖かくなった。

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